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赤い糸を夢見た  作者: 咲間十重
第6章 夜に踊る

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第65話 斯くもまたたく声②


 ロルブルーミアはあらためて「そうね」とうなずいて、意識を引き締める。

 恐らく、動くとしたら反対派の若手貴族の中の誰かである、というのが推進派の見解だ。中でも、特に怪しいと思われる顔ぶれは事前に聞いていた。


 視線の先にある大広間。反対派陣営は、ルカイド公爵を中心に思い思い過ごしている。

 人懐こい笑みであちこち動き回っているのは、ジグリア公爵子息。アコニセル公爵子息は、銀髪のよく似合う涼やかな青年。

 栗色の髪と目をした、やや日に焼けた青年はタキス公爵家の子息。トロフィン公爵子息は、黒に近い茶色の髪を短く刈り込んだ、筋肉質の青年。

 ルカイド公爵へ熱心に話しかけている眼鏡の青年は、ラドレイン公爵子息――。

 大広間に集まっている反対派貴族たちの顔と名前を、一人ずつ確認していく。


「そちらに変わりはありませんか。俺がいないことに気づくような人間はいないと思いますが」

「ええ、問題ありませんわ。先ほどから、国王陛下のところにはひっきりなしに挨拶が訪れていますけれど、この辺りは静かなものですもの」


 国王の豪奢な個室へ目を向けて、ロルブルーミアは答える。

 初舞台の若手組の踊りが終わったあとは、それぞれが自由な時間を過ごす。これを好機としたように、国王のもとへは挨拶を行う人間が絶えないのだ。

 入場前に挨拶を交わすことが許されたのは王族だけ。重臣や公爵家、教会の面々はこの機会を逃すまいとするように、個室を訪れているようだった。


「わざわざ俺に挨拶に来るような人間はいないでしょうし、こちらからうかがう相手もいませんからね。形式上参加している、という側面が強いですから」

「確認ですけれど、挨拶にうかがうのはお披露目が終わってからでいいんですのよね」


 念のための意味も込めて、ロルブルーミアは尋ねる。


 この時間は挨拶回りとも言える状態なのだ。しかし、リファイアードはここにいないし、ロルブルーミアも席から動いていない。もともとそのつもりだったけれど、いささか心配になっていた。


 オーレオンにほとんど知り合いがいないのは事実ではあるけれど、だからといって挨拶をおろそかにしていいわけではない。

 国王陛下や第一王子たちとは夕食会で挨拶は果たした。しかし、オーレオンの有力貴族たる四大貴族や聖徒貴族に対しては、何一つ行動を起こしていない。

 通常であれば、この機会に挨拶へ向かうのが通例だろう。


 だからロルブルーミアは、事前に舞踏会の説明を受けた時にそう言ったのだけれど、リファイアードは必要ないと答えたのだ。

 オーレオンのことに関してなら、リファイアードの方が詳しいだろう。わかっているから、恐らく理はあると判断したのだけれど、心配は心配だった。

 リファイアードは落ち着いた声で答える。


「ええ。あちらからすれば、末端の王子など視界に入れる意味もないですから。もちろんあからさまな態度は取らないでしょうが、わざわざ時間を取らせるな、というのが本音でしょう。リッシュグリーデンドの皇女は別ですが……まだ結婚式は終えていませんからね」


 オーレオン国王は思うところがあって、ロルブルーミアを夕食会へ招待した。今回の舞踏会もむげにしているわけではない、という主張のためにロルブルーミアが招待されているものの、諸手を上げて歓迎されているわけではないのだ。


 リッシュグリーデンドの皇女とつながりを持ちたいという思惑と、王族にも加わっていない長年の対立国の皇女への忌避感。二つの間で板挟みになっていることは想像に難くない。


「気にしなければならないが視界には入れたくない、といったところでしょう。わざわざ挨拶に来られても困る、というのが本音だと思いますよ。今日のお披露目のワルツのあとなら、否が応でも存在を認識しなくてはならないので、閉会後が妥当でしょう」


 極力存在を認識しないようにしていると予想できるので、この時間は挨拶に向かわないという判断だった。お披露目が終わり、閉会した後に挨拶へ向かうのが最善だということは、リファイアードに事前に説明されていた。


 間違いでないことを確認して、ロルブルーミアは「わかりましたわ」とうなずく。もっとも、そうでなければ、こうして舞踏会を抜け出すわけにはいかないだろう。

 納得したところで、ロルブルーミアは問いを投げる。


「そちらの様子はいかがかしら。あまり話をしていても、怪しまれることはなくて?」

「まあ、そうですね。人が来ないこともありますが、ここまで舞踏会の音楽が聞こえてくるので、声は聞こえないと思います」


 ギヤ・シオン宮殿と宝物庫は、歩いていくことができる距離なのだ。楽団の演奏は開いた窓から外へも流れているので、植え込みに隠れるリファイアードたちのもとにも、当然聞こえている。ささやかな雑談はそれに紛れてしまうだろう。


「ですので、特にはお気になさらず。反対派の動きを報告してくれるとありがたいです」

「わかっていますわ。反対派の方々は、ちらほらサロンに移動しているようですわね。ただ、ルカイド公爵閣下はまだ大広間で歓談していますわ。ああ、でも、輪から離れる方もいらっしゃいます。タキス公爵子息やジグリア公爵子息ですわ」


 ロルブルーミアの言葉に、リファイアードの空気が変わった。「わかりました」という声は厳しさを増して、警戒をあらわにしていることは明白である。


 ルカイド公爵の大集団以外にも、当然反対派はいる。そちらの動きも念のため伝えるものの、基本的にはルカイド公爵たちの動きに注目していた。

 宝物庫から宝冠を盗み出すなど、些細な思いつきで成し遂げられるものではない。襲撃するための武器や見張りの情報を得るためには、一定以上の人員と資源が必要であり、弱小貴族ではとうてい実行は不可能だ。

 それに、今回の計画がルカイド公爵によるものであることは、すでに調べがついている。証拠がないので糾弾が難しいだけで、反対派の活動はルカイド公爵が裏から手を回していることは、誰もが察しているのだ。


 だからこそ、ルカイド公爵の動きをロルブルーミアはじっと観察していた。

 とはいえ、本人が動くことはないはずだ。公爵ほどの権力があれば、手の内の者を忍びこませることもできるかもしれないけれど、そもそも自分の息がかかった協力者が王宮内には数多い。

 わざわざ忍び込ませる労力をかけるより、正式に入り込める人間を使う方が効率はいいだろう。だから、ルカイド公爵の手の者が実行犯になる可能性が高い。


 ルカイド公爵に付き従う一族の子息などは、まさしくその典型と言える。

 その彼らが動き出したのだ。恐らく事を起こすのではないか、とリファイアードが予想したのも当然と言えた。

 舞踏会はまだまだ中盤で、踊りや歓談に忙しい。もっと時間が経てば、中だるみしてきて宝物庫や外へ向かう人たちもいるかもしれないけれど、今はまだそう多くはない。行動するにはうってつけの時間帯と言えた。


「それ以外にも、やはり大広間からいなくなっている方がちらほらいますわね。ただ、事前にうかがっていた方ですと、タキス公爵子息、ジグリア公爵子息、ラドレイン公爵子息――みなさま、若手の方たちでルカイド公爵とも取引がある家のご子息ね」


 ルカイド公爵は広大な領地を持っており、周辺の領地へ輸出していることも名高い。弱小貴族たちは、その支援を受けることでどうにか領地を運営している向きがある。

 ルカイド公爵の信念に賛同している者も多いけれど、根本的に反対などできない立場の者も多いのだ。もしも機嫌を損ねて輸出を打ち切られてしまえば、たちまち領民は飢えてしまうのだから。


 今姿が見えなくなったのは、それに該当する領地の子息たちである。権力の勾配という意味でも、領地の将来を思っても命令を忠実に聞くことは想像に難くない。

 そんな顔ぶれが、ことごとく姿を消しているのだ。何を意味するかくらい、すぐにわかるだろう。


「どうやら、そろそろ出番のようです。ひとまず、一度通話を終えても?」

「もちろんですわ。どうか、お気をつけて」

「ええ。ロルブルーミア姫も気をつけてください」


 真剣な言葉に、ロルブルーミアは笑みをこぼす。どう考えても、危険なのはリファイアードの方だというのに、宮殿の椅子に座ってるロルブルーミアを心配するのだから。

 ロルブルーミアは「わたくしは大丈夫ですわ」と答えてから、そっと続ける。


「ひとまず、光の当たらない場所にだけは注意してくださいませ」


 今のところ音話機は問題なく使えるけれど、暗闇では機能しないのだ。それだけ忘れずにいてくれれば大丈夫だろう、という思いでそう告げる。リファイアードは重々しく「わかりました」と答える。


 ロルブルーミアは「ご武運を」と言葉をかけて、丁寧に通話を終えた。


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