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赤い糸を夢見た  作者: 咲間十重
第6章 夜に踊る

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第64話 斯くもまたたく声①


 国王の挨拶がつつがなく終わり、第一王子アルベルサージュとその妻ファルメリア王太子妃のワルツが始まった。

 華やかな音楽が流れだしたところで、リファイアードは「そろそろ出てきます」と言って、個室から出ていった。ロルブルーミアはこくりとうなずき、「お気をつけて」とその背中を見送った。


 反対派が動き出すのは、中盤以降になるだろうという予想だ。

 第一王子夫妻と初舞台の若者たちの踊りにおいて、貴族たちはその場での鑑賞が一般的で会場から外へ出ることは難しい。

 その後の、好きに動き回れる時間に行動を起こすだろうと予想されていた。


 実行者は、恐らく今回の舞踏会に参加している貴族たちの誰かである、と推進派は予想している。

 王宮に部外者を招き入れる困難さを考えれば、そう考えるのが妥当だった。

 手練れの剣士一人くらいなら従者だと言って紛れ込ませることはできるだろう。しかし、それ以外にも実行者を送り込むのは現実的ではない。

 舞踏会に参加する貴族から選ぶ方がよっぽど簡単である。


 手練れの剣士と参加者の貴族の内の一部。それが襲撃犯であると予想して、リファイアードは早々に宝物庫へ向かった。

 事が起きてから向かうのでは遅すぎるので、事前に到着していなくてはならない。貴族たちは第一王子のワルツの間動くことはできないため、実行者よりも前に席を立ったのだ。


 ただ、いくら王族とはいえ、ほとんどの参加者がギヤ・シオン宮殿内にいる時間帯である。

 外を歩いていたら怪しまれるのでは、とロルブルーミアは危惧したけれど。「堂々としていれば、案外見とがめられませんから」とリファイアードは答えた。ここにいるのが当然だ、という顔をしていると、声を掛け辛いという。

 恐らく、そういった経験が豊富なのだろうと予想はついたので、ロルブルーミアは「そういうものなんですのね」と答えた。どう考えても、踏んできた場数が違うのだ。リファイアードの言葉を疑う理由はない。


 背中を見送ってからしばらくの間、ロルブルーミアは第一王子夫妻のワルツを見つめていた。

 聞き覚えのある曲はそれなりの長さだけれど、二人はあくまでも上品に、最後までしっかりと踊りきる。


 たおやかに拍手を送り、続いて初舞台の若者たちを温かく迎えた。

 上位貴族の子息や息女ということもあり、堂々とした足取りではあるものの、緊張は隠しきれていない。ほほえましい気持ちになりながら彼らのワルツを見守った。


 こちらも有名な曲であり、多数の参加者に見せ場を用意するためか、ある程度の長さがある。

 つつがなく全てが終わった頃には、会場は温かい拍手に包まれた。同じように手を打ったあと、ロルブルーミアは自然な仕草で耳飾りを外した。

 ギヤ・シオン宮殿と宝物庫の距離から考えて、そろそろリファイアードが到着しているはずだった。


 宝物庫は、ギヤ・シオン宮殿の北側に位置する。小さいながらも独立した建物であり、宮殿の外回廊から分岐する渡り廊下を通った先にあるのだ。

 大広間から見て正反対というわけではないので、辿り着くまでに相当の時間を要することはない。それでも、すぐ隣という位置関係ではないのである程度の時間はかかる。


 とはいえ、長いワルツが二曲も終われば充分な距離だ。

 ロルブルーミアは、耳飾りを慣れた手つきで操作した。淡く光ったことを確認して、再び耳に装着する。

 普段は手に持って会話をしているけれど、こうして耳につけたままでも問題はなかった。耳と口元に近いことから、声も聞こえるしこちらの声も相手に届くようにできているのだ。

 万が一誰かに見られることを想定すると、手に持つよりこうした方が違和感は少ないはずだ。やけに独り言が多いと思われる可能性はあるけれど、それで済むならいいだろうという判断だった。


「――こちらの声は聞こえるかしら」


 ささやくように、そっと問いかける。

 今日のロルブルーミアの役目は二つ。一つは、貴族たちが自由に動き回り始めた際の動向を伝えること。二つ目は、二人の演目の前に戻ってくるよう、時間を知らせること。それもこれも、会話が通じなければ成り立たない。


 舞踏会が始まる前に、きちんと使えることは試していた。

 雑音が混じることもないし、魔王の魔力は安定しているのだろう、とロルブルーミアはほっとしていたのだ。

 今も特に雑音が聞こえることもないし、あとは適度な明かりが入るかどうかだけだろう。幸い、今夜は満月だ。雲がなければ、建物の陰に入らない限り、会話は問題なくできると踏んでいた。


 とはいえ、予想外の出来事が起きる可能性はある。きちんと会話はできるだろうか、と緊張しながら待っていると耳元から声が流れた。


「――問題なく聞こえています。こちらの声はどうでしょうか」

「大丈夫ですわ。はっきり聞こえています」


 ほっとしながら答えると「それならよかった」とリファイアードもうなずく。


 リファイアードは誰かに見とがめられるようなこともなく、無事に宝物庫へと到着していた。部下たちと合流して、今後の計画を確認したあとは、それぞれの持ち場から宝物庫を見張っている最中だ。

 幸い、宝物庫の周囲は植え込みが多い。リファイアードは、宝物庫の正面近くで身を潜めているという。


 今回リファイアードは、音話機の関係と実力から一人で持ち場を担当している。

 機密事項でないとはいえ、音話機の存在はあまり公にはしたくない。そうなると、手鏡に向かって話しかける様子は奇異に映るだろうという判断だ。

 全体を指揮する立場であることもあり、誰も異を唱える者はいなかった。


「今のところ、特に大きな動きはないようです。このまま何事もないなら、それが一番いいんですけどね」

「ええ、それはそうだわ。無事に終わるのが一番ですもの」


 心から同意を返すと、リファイアードが息を漏らすように笑う。吐息の気配まで伝わる鮮明さで声は届いて、まるですぐ近くで会話をしているようだ。


「先ほど、初舞台の方々の踊りが終わりましたの。それぞれ、自由に過ごし始めていますわ。やはり、各派閥に分かれているようです」


 静かな声で、ロルブルーミアは大広間の様子を伝える。

 上から眺めていると、人の動きがよくわかる。大広間の中心では思い思いに踊りを楽しんでおり、その周りには大なり小なり、多くの集団ができている。


 その顔ぶれから、推進派と反対派は大広間の左右に分かれていることが見て取れる。席次が決まっているわけでもないので、自然とそんな形になったのだろう。


「ルカイド公爵閣下たちは、踊りを鑑賞しているようですわね。若手の方も多いですし、和気あいあいとした様子に見えますわ」


 ロルブルーミアはさりげなく大広間へ視線を送り、目に映る光景を伝えた。

 反対派筆頭のルカイド公爵を中心とした集団は、比較的若い貴族たちが多い。大広間で踊りに興じている者もいて、ルカイド公爵をはじめとして楽しげな雰囲気を漂わせていた。

 対して、結婚推進派のスタルジア公爵の周りは、比較的年齢層が高い。踊りよりも歓談を主体としており、いずれサロンへ向かうのかもしれない。


「シャンヴレット殿下は、個室から動く気配はありませんわ。あまり踊りはお好きではないのかしら」


 なめらかに視線の向きを変えて、つぶやくように言葉を落とす。

 シャンヴレットの個室は、国王たちの個室にほど近い。中央付近に位置しているため、端にあるロルブルーミアの個室から様子をうかがうことができた。

 今は教会関係者の挨拶を受けているものの、その前の時点でずっと個室にいて、大広間へ降りるようなことはなかったのだ。


「――ああ、そうですね。シャンヴレット殿下あまりこういった娯楽に興味がないのです。直接役に立つことに投資するべきだ、というのが持論なので。王族の責務として出席はしますが」


 あからさまにやる気のない態度を取る、なんてことはないし、求められれば応じはするだろう。ただ、積極的に大広間へ出てくることはないだろう、というのがリファイアードの見解だった。


 ロルブルーミアはその言葉に「それなら安心ですわね」と答えた。よもやシャンヴレットが宝物庫に現れれば、事態が大ごとになってしまうだろうと思ったのだ。

 リファイアードは耳飾りの向こうで小さく笑った。


「殿下は顔がよく知られていますからね。もちろん、ルカイド公爵もそうです。秘密裏に動くのは難しいので、舞踏会から動くことないと思います」


 ひっきりなしに挨拶が訪れるだろうし、こっそりと宝物庫へ向かうのは現実的ではない、というのがリファイアードの見解だった。

 だから、今回注目すべきは反対派の中でも目立つ顔ぶれではない。あまり名前を知られていないような、抜け出してもわからないような、そんな人間に気をつけてほしい、とは言われていた。


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