表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い糸を夢見た  作者: 咲間十重
第6章 夜に踊る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/71

第62話 煌らかに幕は上がる


 二人は、舞踏会の始まりを待っている。

 ギヤ・シオン宮殿の大広間につながる小部屋は複数ある。王族や貴族など階級ごとに分かれており、それぞれ扉が開く瞬間を待っていた。


 ロルブルーミアとリファイアードは、王族用の小部屋で待機している。

 豪華絢爛な天井画や壁の装飾品で満たされた部屋は、どの部屋よりも豪奢ごうしゃだろう。ただ、扉が開くのを待つ王族たちも負けず劣らずのきらびやかさである。


 先頭に立つのはオーレオン国王と王妃たち。その後ろに第一王子夫妻、第二王子とその婚約者と続く。

 ロルブルーミアとリファイアードは、序列としては末席にあたるため最後尾だ。

 参加者たちの装いが全て目に入る位置ということもあり、部屋の華麗さもあいまって目もくらむような光景である。


 ただ、当然ロルブルーミアとリファイアードも、今日のために美しく着飾っている。


 リファイアードが着用するのは、軍人としての正装にあたる儀礼用の軍服だ。

 艶やかな光沢のある紺色を基調として、階級章や、肩から胸にかけてつけられた飾緒しょくしょは銀色に光る。

 袖口にも月桂樹の刺繍が施され、胸元にはリファイアードの功績をたたえる勲章が揺れていた。


 ロルブルーミアは、リッシュグリーデンドから持参した濃い青を基調としたドレスを着用している。

 鎖骨と肩が出ており、胸元には大粒の青玉を持つ首飾りが輝く。耳に揺れるのは、家族から贈られたいつもの耳飾りである。

 雫型の天空石は空を思わせる澄んだ青。台座となった月光貝の螺鈿らでん細工も確かなきらめきを宿しており、舞踏会に華やかな彩りを添えていた。


 ドレスは加護がかけられたものであり、何もかもが最高級の品質で作り上げられている。

 上半身には薔薇の刺繍が施され、腰から切り替える形のスカートはたっぷりの布を使って大きく膨らむ。

 全体は、星空を思わせる細やかな水晶硝子が丁寧に縫い付けられて、動くたびにきらきらと輝く。


 高く結い上げられた髪も、青玉の髪飾りでまとめられ、水晶硝子をちりばめている。可憐さの中に洗練した雰囲気を醸し出すドレスは、ロルブルーミアによく似合っていた。

 他の王族たちの装いに負けず劣らずで、リッシュグリーデンドの豊かさを象徴するには充分だろう。それは魔王アドルムドラッツァールも保証している。

 昨晩、眠る前に再度リッシュグリーデンドへ連絡を取った。

 夕食会に端を発する情報漏洩への懸念を伝えたあと、容態が回復したというアドルムドラッツァールと言葉を交わすことができた。その時、舞踏会に臨むロルブルーミアの背中を押すように言ってくれたのだ。


「念のため、今日の流れを確認しましょう。もちろんロルブルーミア姫の頭にはすでに入っていると思いますが」


 隣に立つリファイアードがそっとささやくように告げるので、ロルブルーミアはこくりとうなずく。二人とも流れは理解しているものの、何度確認しても問題はない。


 舞踏会はまず、王族や貴族たちが階級ごとに入場し、大広間に一同が会するところから始まる。

 国王による開会の挨拶のあと、最初に行われるのは第一王子夫妻によるワルツである。今回の舞踏会の開幕を告げるもので、華やかな曲が選ばれている。

 その次は、今回の舞踏会が初舞台となる若者たちによる舞踏である。伝統的な曲に乗せて、初々しい姿が披露されるだろう。


 その後は、楽団の演奏に合わせて好きに踊る時間になる。

 ただ、必ずしも踊らなくてはならないわけではなく、別部屋に用意された食事を楽しむもよし、大広間につながるサロンで歓談を楽しむのもよし、宝物庫の宝物を見に行くのもよし、と自由に過ごすことが許されるのだ。


「最後から三つ目が、わたくしたちの出番ですわね」

「ええ。大々的なお披露目といったところでしょうか。有名な曲ですし、踊りやすいもので助かりました」


 舞踏会では定番の演目ということで、二人とも慣れたワルツである。

 来月には結婚を控える王子と皇女おうじょをお披露目するということで、奇をてらうのではなく正統派の曲を選んだのだろう。


 二人を主役に据えたワルツが終われば、最後に全員参加の華やかな舞踏会となる。着飾った参加者たちが大広間のあちこちで踊る光景は、えも言われぬきらびやかさだろう。

 二・三曲が予定されており、おのおのが今夜の舞踏会をめいっぱい楽しむのだ。

 その後は、国王によって今日一番の一組が選ばれる。その一組が、最高の栄誉として一曲を披露したところで、舞踏会は閉会となる流れである。


「基本的に王族は、必要に応じて踊りを披露するだけです。個室で笑顔を振りまいているのが、主な仕事になります」


 淡々と言うリファイアードの言葉に、ロルブルーミアはこくりとうなずく。

 リッシュグリーデンドではあまり舞踏会といった催しはないものの、知識としては知っているしリファイアードからも詳しい話は聞いていた。


 ギヤ・シオン離宮には、大広間を見下ろすよう設置された個室がある。

 二階と三階にかけて作られており、王族たちは三階の個室を与えられている。ここから大広間で踊る様子を眺めているのが、王族たちの役目なのだ。

 いくら重要な貴族たちが参加しているとはいえ、王族と貴族の間には明確な身分差がある。

 貴族と混じって踊るのではなく、天上から下界を見下ろすがごとくの立場を求められているのだ。


 それゆえ、求めに応じて大広間に降りて踊りを披露する、という形を取る。

 貴族たちの交流といった意味で、まだ年若い王族や独身者が踊ることもあるものの、結婚を控えているロルブルーミアとリファイアードが踊りを求められることはないだろう。

 最後のお披露目以外は、個室に座っていることが今夜の二人の仕事と言ってよかった。


 だからこそ、ロルブルーミアの協力さえ得られれば、リファイアードは比較的自由に動くことができるのだ。


「個室からは会場がよく見えるはずです。全員の動きは逐一把握できると思いますので、よろしくお願いします」


 身をかがめたリファイアードが、そっとささやきを落とす。言いたいことはわかっているから、ロルブルーミアは笑みを浮かべて答える。


「視力はいいんですのよ。任せてください」


 ある程度のところで、リファイアードは個室からいなくなる。宝物庫へ向かわなくてはならないのだ。

 宮殿を離れたリファイアードに、会場の様子を伝えるのはロルブルーミアの役目だ。

 異変がないか、反対派に大きな動きはないか。そういったものを確認するのに、個室はうってつけだろう。高い位置から全てを見下ろすことができるので、動きを把握することができる。


 必要な情報を伝えて、リファイアードが少しでも動きやすいよう助けになる。それが今夜の自分の役目だとわかっている。

 二人の結婚式を無事に成功させるため、リファイアードが動こうとしていることは、充分に理解しているのだから。


「――宝冠をちゃんと守ってくださいね」


 少しだけ伸びあがって、リファイアードの耳にそっと耳打ちする。

 最後尾の二人へ視線を向ける者は誰もいないけれど。聞こえてしまわないよう、内緒話をするみたいにそう言った。

 リファイアードは力強いまなざしを浮かべて「はい」とうなずいた。


 近い距離で、二人の視線が交じり合う。強いまなざしには、確かな決意が奥底に光っている。

 二人とも同じ気持ちでいるのだとわかっていた。

 舞踏会を抜け出して、反対派と対峙する。本来であればしなくてもいいことで、王族としては許されないことなのかもしれない。それでも、こうすることを何一つ後悔なんてしていない。

 もしも事が露見したら糾弾されるとしたって、共犯者になるのだと決めてしまったのだから。


 臆することのない視線を交わし合っていると、高らかにラッパの音が響いた。扉が開く合図だ。

 二人ははっとした表情を浮かべたあと、リファイアードが手を差し出した。ロルブルーミアは自分の手を重ねて、大広間の扉が開く瞬間を待っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ