Refuse to fail 1
「なるほど......つまりここにいるセミも二ヶ崎も平坂部長もマネージャーの先輩もそのほかの先生たちも皆家に帰れなかったんですね」
ここにいる全員がどれだけ歩いても家にたどり着けず、いつの間にかこの学校の近くに来ていたらしい。
この部屋の中で唯一、用務員のおばちゃんは学校から家が近いらしいが、それでも家に帰りつけなかったらしい。
「はぁ......こんな時間帯まで学校に居たくない! 帰らせてよ......」
制服を着ている二年マネージャーの女子は苛立ちを隠すことなく校長室のソファーに腰掛けた。勢いよく座ったためか、金色に輝くロングヘアが一瞬だがふわりと浮いていた。
二ヶ崎の制服の胸元についている赤い校章のバッジとは異なり、この人は青いバッジをつけている。俺たち一年生男子のネクタイが赤色なのに対して、二年生の平坂部長がつけているネクタイが青色なのも考えると、二年生の学年を示す証は青色で統一されていることが推測できる。
座り込んだ先輩は眉間にしわを寄せたまま、制服のポケットから取り出したスマホを操作し始めたかと思ったが「そうだった使えないんじゃん、だる」と呟きながらソファーの上にスマホを放り投げた。スマホには「10:30」という文字が映されていた。
それを見た平坂部長は二年マネージャーの女子に少し強い口調で言った。
「おい本井。一年生たちが委縮しているだろ。少しは感情を抑えろ。しかも皆サッカー部の後輩だぞ」
「抑えろって......はは、それ今更言う? 言うなら去年言っとけばよかったじゃん。あと、皆後輩だぞって、そもそもアタシ最近部活出てないから後輩とか知らないんだけど」
本井と呼ばれたその女子は平坂部長を睨んでいた。
部活に入って最初の頃にメンバー紹介みたいな場面でこの人を見たことがあったが、それ以来この人を部活中に見ることはなかった。
そもそも俺が部活をほとんど抜け出しているというのもあるが、二ヶ崎も委縮しているあたり、この本井という二年女子はずっと部活に来てなかったのだろう。
平坂部長が再度口を開こうとした瞬間、俺の隣で震えているセミが先に口を開いた。
「も、本井先輩って言うんですね......俺、一年の千寿幹人っていうんすけど......あっその髪、染めてるんすか?」
まさかこんなギスギスした状況で自己紹介を始めるとは思わなかった。しかも髪の毛について話題振ってる。セミって気になる異性に対しては絶対、最初に髪の毛の話題を振るんだよな。......こいつまさかこの状況で仲良くなろうとしてんのか?
俺が呆れて溜息を吐こうとしたとき、本井先輩がため息をかき消すほどの勢いで口を開いた。
「は? 何? 校則違反だって言いたいわけ? アンタ一年でしょ? 先輩に文句言うとか舐めてんの?」
「え!? い、いや、そうじゃなくて、その、髪の毛の、色が、きれ」
「染めてるからなんだよ。不良だって笑いたいんか? 舐めてるとぶっ飛ばすかんな?」
「おいやめろ本井。後輩にまで手を出すな。停学じゃ済まなくなるぞ」
「チッ。どいつもこいつもムカつく」
セミの想いは届かず、逆に火に油を注ぐことになってしまい、危うくバトルが始まってしまうところだったが、平坂部長が阻止したことで何とか事なきを得た。
恋が歴代最速で玉砕したセミを慰めようと肩に手を置いたが、立ったまま震えて反応はなかった。
それからしばらくして、なんとか立ち上がって部屋の入り口から戻ってきてすぐにセミの介抱をした波中せんせー曰く、あまりの恐怖と失恋で失神してしまったらしい。
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