第1章 プロローグ 第6話 破壊神の妻・パールヴァティー
ターラカという悪魔が苦行を認められ、梵天から「大黒天の息子以外には殺されない」という身体を与えられた。
この頃の大黒天は、妻であるサティーを失ったばかりで瞑想に入っており、当分再婚する気配がなかったからだ。ほぼ不死となったターラカによって、三界(天界・地界・魔界)は征服された。
そこで神々は、大黒天を再婚をさせて息子を生ませる為に、前妻サティーを転生させた。それが大自在天妃だった。
大自在天妃は、ヒマラヤ山脈の山神ヒマヴァットとメーナーの娘として生まれ、ガンジス川の女神ガンガーの姉にあたる。
まず神々は大黒天の瞑想を止めさせるために、愛の神カーマとカーマの妻で性欲の女神ラティー、春風の神ヴァサンタを大黒天の所へ行かせた。
その時シヴァは、真冬の山の中で瞑想をしていた。ところがカーマ、ラティー、ヴァサンタが近付くと、木々には葉っぱが青々と茂り、花々が咲き乱れ、全ての自然が愛を求め始めた。
カーマは花で飾られた矢を大黒天に向けて放ち命中させ、大黒天の心に性欲が生じた。
しかし瞑想を邪魔された大黒天は、怒って第三の眼から発した光線でカーマを焼き殺した。
大自在天妃は、父親のヒマヴァットと共に瞑想する大黒天の元を訪れて、花と果物を捧げた。
大黒天は、一目で亡き妻の面影のある大自在天妃に魅了されたが、平然を装って瞑想を続けていた。
ヒマヴァットは大黒天に、「毎日供え物を捧げに来ても宜しいでしょうか」と尋ねた。しかし大黒天は、拒否して答えた。
「来るのだったら一人で来なさい。苦行者に女性は必要ない!」
それを聞いた大自在天妃は、反論して言った。
「大黒天様、苦行の時に使われる力を含めて、全ての力の根源は女性原理によって維持されます。女性が必要ないとは、聞き捨てなりません!」
大黒天は、大自在天妃の聡明さに感服しながらも答えた。
「私は苦行によって女性原理をもコントロールし、破壊することができる」
大自在天妃は、再び反論して言った。
「もしあなたが女性原理よりも偉大ならば、なぜ私を恐れて遠ざけ様とされるのでしょうか?」
大自在天妃に説得させられた大黒天は、大自在天妃に求婚して2人は結婚した。
大黒天と大自在天妃の結婚式は盛大に行われたが、儀式の中で大黒天はヒンドゥー教の伝統によって、自分の血筋を宣言しなければならなかった。
ところが大黒天は自ら生じた神だったので、先祖はおらず血統も血筋もなかった。
宣言する事が出来ずに黙っている大黒天の代わりに、結婚式の司会であったナーラダが、ヴィーナーと言う琵琶に似た弦楽器で演奏を始めた。
ヒマヴァットはナーラダが儀式の邪魔をしていると思い、ヴィーナーを止めるように注意したが、ナーラダはこう答えた。
「大黒天は、ただ自己の意思と喜びによって形を現した不確かな現実である。ナーダ(原始の音)のみが大黒天の本当の起源を示す事が出来る。だから私は、大黒天の血統を示すためにヴィーナーを演奏したのだ」
大黒天と大自在天妃はこうして夫婦となり、愛し合う2人は結婚後何百年間もずっと性交を続けていた。
これではターラカを倒す為の子供が生まれない。しかもその性交中の振動で、天界・地界(人間界)・魔界では常に地震が起きていた。
そこで火天が、性交中の大黒天のもとへ行って火傷をさせ、性交を止めた。
大黒天は、「熱っ!」と叫んで大自在天妃から離れて腹の上に射精した。その時に大黒天の精液がこぼれ落ちそうになり、火天は手で掬って精液を持ち帰った。
ところがその精子は、運んでいる内にどんどん重くなって来たので、火天は持っていられなくなり、ガンジス河の中に精子を落としてしまった。
こうしてガンジス河から生まれたのが、軍神・韋駄天である。韋駄天は、生まれて7日目にターラカを殺して世界に平和をもたらした。
また大自在天妃は元々の肌が黒色であり、大黒天から貶され、それを恥じて森に籠り苦行を始めた。
それを哀れんだ梵天から、肌の色を金色に変えられた。この時に落ちた黒い肌から、殺戮の女神カーリーが生まれた。肌の色で差別した夫に対して、殺意を抱いた為だろう。
「怒髪天を衝く」と言うが、温和で優しい大自在天妃の頭に血が昇った時、戦いの女神ドゥルガーも生まれた。
しかし、ドゥルガーもカーリーも大自在天の化身(分身)と言う扱いであり、本体である大自在天妃が死ぬと彼女達も消える事になる。
真夜中だと言うのに目が覚めた。ふと時計を見ると、3時半丁度だった。
「またぁ?」
また?と言うのは、この所ずっと同じ時間に目が覚めているからだ。いや、もっと幼い頃から毎日繰り返して来たはずだ。それに気が付いたのは、最近の事だ。
今まではトイレに行きたくて、偶然に目が覚めるのだろうと思っていた。しかし、そうでは無い事に気が付いたのは、たまたま目に入った目覚まし時計だ。それからは、目が覚める度に時計を見る様にした。
すると不思議な事に、いつも決まって3時半になると目が覚める事に気が付いたのだ。
「何なんだろう?前世からの因縁かしら?」
そう思うと怖くなり、身慄いすると布団を被って二度寝した。明日は早い。教師となって赴任する、最初の高校だ。気持ちが昂って眠れないのだろうと思った。




