第1章 プロローグ 第5話 破壊神シヴァ
東洋天界は、主に三大勢力によって均衡が保たれている。梵天を中心とする那羅延天と大黒天らが住む梵天界と、天帝・帝釈天らが住む忉利天。最後に阿弥陀如来らの西方極楽浄土である。
この三大勢力に上下の区別は無く、対等である。特に帝釈天と梵天を併せて、「梵釈」と称する事もある。
大和の八百万の神々は、天帝が住む忉利天とは良好な関係だ。
大黒天には最初、サティーと言う妻がいた。サティーは大黒天を深く慕っていたが、父親である聖仙は大黒天を忌み嫌っていた。嫌っていた理由は、那羅延天を崇拝していたからである。
梵天を含めた3人を分かりやすく言えば、言わば政党の様なものであり、どの派閥に所属しているかと言う様なものである。
自民党と社民党の両方に票を入れる事が出来ない様に、那羅延天 派である聖仙が大黒天を受け入れるはずが無かった。
その為、サティーの花婿選びの儀式に、大黒天は招待されなかった。悲しんだ彼女は大黒天のみを心に念じて、花婿の首にかける花輪を宙に投げた。
するとそこに大黒天が突然現れて首に花輪がかかり、サティーは大黒天と結婚することが出来た。
しかし聖仙は大黒天を認めず、神々を招いての盛大な供犠祭にも、聖仙は大黒天を招待しなかった。
それに怒ったサティーは、夫の名誉の為に抗議をしたが、逆に馬鹿にされたので焼身自殺をした。
その事をナーラダ仙から聞き激怒した大黒天が、自らの髪を引き千切り地に投げ打つと、天を衝くかの如く巨人ヴィーラバドラが現れた。
太陽の如き光を放つ三つの眼と幾千本の腕で多種の武具を装備した大黒天の化身は、聖仙の祭祀を徹底的に破壊してダクシャの首を刎ねた。
聖仙が羊の頭を持つのは、首を切り落とした後、和解のために元の首を捜したが見つからず、仕方なく羊の頭を胴体に据え付けたためであるという。
その後、大黒天は悲しみのあまり狂気に取り憑かれ、サティーの遺体を抱いて各地を放浪しては都市を破壊して回った。
見兼ねた那羅延天が円盤を投げて、サティーの遺体を細かく切り刻むと、大黒天は正気を取り戻した。
サティーの遺体の破片が落ちた場所はみな聖地となり、遺体の破片1つ1つがその土地の女神として再生した。
その為に大黒天には、何百もの妃がいるとされる。正気を取り戻した後は苦行に打ち込んで瞑想に入り、女性を受け入れようとはしなかった。
この説話からヒンドゥー教では、寡婦が夫の亡骸と共に焼身自殺する風習を「寡婦焚死」と言う様になり、古くは紀元前4世紀には、この風習が存在していた事をギリシアで記録が残っている。
これは昔の話しなどでは無く、1829年にベンガル総督べンティンクによって、サティー禁止法が制定された。
また、1830年にはマドラス、ボンベイにおいても禁止法が制定された。その結果、禁止法の普及に伴って20世紀の初めにはサティーはほとんど行われなくなった。
しかし禁止法が近代法制化された現在に於いても尚、ごく稀に慣行として行われ続けているのだ。
サティーの儀式は、こうした夫の葬儀の儀式の後に行われた。サティーの儀式の最後には、夫の葬儀で用いた石を供養する「石の礼拝」を行い、これらが終わった後で寡婦は炎に包まれた。
中世において、サティーはその家族の宗教的な罪科を滅する功徳ともされていたが、必ずしも自発的なものではなく、生活の苦難さによるもの、あるいは夫側の親族の強要によるものだった。
「妻よ!大自在天妃よ!」
口を突いて叫んだ声に驚いて、目が覚めた。美しい女性が、自ら身体に火を付けて苦しみながら焼け死ぬと、その女性に似た金色の肌の女性が現れる。そんな夢を、幾度となく繰り返して見続けた。
「また同じ夢か…」
ふわあぁ、と欠伸をして目覚まし時計を見ると、まだ3時半であった。
「おしっこ…」
誰に聞かせる訳でも無く独り言を呟いて、トイレに向かった。
「この時間に目が覚める事が多くなったな」
気が付いたのは最近の事であり、本当はもっと前からだったかも知れない。二度寝をして目が覚めると、支度をして登校した。
「おはよう」
「オッス」
級友に挨拶をしていると、黒髪の美しい女性と目が合った。
「なあ、おい。あれ、新しい先生かな?美人だな」
「う、うん。そうだな…」
驚いた。その女性教師は、夢で見た金色の肌をした女と同じ顔をしていた。それからは、女性教師の事が頭から離れなくなった。その女性教師の名前は、朝倉真珠と言った。
この春、大学を卒業したばかりの彼女はまだ今年で23歳になり、高1の自分とは7歳差だ。許容範囲だなと思いつつ、恋敵は多かった。
赴任初日に男子生徒30人に告白され、全員がフラれた。生徒だけでなく、教師たちも彼女を狙って連日飲みに誘われていた。新人で断れない彼女は、その誘いを受けていた。
「お前も真珠を狙ってんのかよ?」
俺が朝倉先生の姿を目で追っているのを見たクラスメイトが、「よせよせ、無駄無駄」と言って告白前から止め様とした。
だが俺は、彼女の事が頭から離れず、居ても立っても居られなくて彼女を呼び出して告白した。
「私と貴方は、教師と生徒なのよ?付き合える訳無いじゃない!」
「先生、初めて見た時から他人の気がしませんでした!お願いします、付き合って下さい!」
しかし先生からフラれ、肩を落として口ずさんだ。
「毎日夢に出て来る金色の肌の女性にそっくりで、運命を感じたのになぁ…」
「えっ!?ちょっと待って!今、何て言ったの?」
先生に呼び止められて振り返った。
「うあっ…」
先生は頭を押さえて立ちくらみ、よろめいたので支えた。
「あなた…シヴァ…。わたし、私は…パールヴァティー…?」
先生は俺に口付けをすると、気を失った。俺は慌てて保険の先生を呼びに行った。
「俺の…ファーストキス…」
一目惚れした美人の先生との初キス。それも先生から。嬉しいやら恥ずかしいやら、あれは夢だったのかと頭がボーッとなった。




