第1章 プロローグ 第4話 百鳥の王・鳳凰
鳳凰は、百鳥の王である。百鳥とは、文字通りの百種類の鳥と言う意味では無く、全ての鳥類の事を差す。
従って、孔雀の化身である孔雀明妃ですらその例外では無く、かつては鳳凰の侍女に過ぎなかった。
鳳凰の存在は、三界(天界、人界、魔界)を震撼させた。何故なら、鳳凰こそが唯一神の1人娘である豊穣の女神アナトだからだ。
神々ですら不死では無いし、他者を生き返らせる事など出来ない。しかし鳳凰は違う。不老不死であり、死者をも蘇らせる事が出来る。
この事実は神々にとっては都合が悪く、鳳凰を殺せない為に封印しようとし、魔族は大魔王ルシファーが鳳凰アナトを庇護しようとしていた。人間達にとっての鳳凰は幻獣であり、遭遇する事さえ叶わない相手であった。
アナトが天界にいた頃は、何不自由の無い暮らしを送っていた。何せ唯一神の1人娘なのだ。お姫様の様な扱いを受け、他の神々達から可愛がられていた。
アナトの母・アシェラは、再婚でヤハウェに嫁いだ。ヤハウェには前妻の子供である、バァルとヤムとモトと言う息子が3人いた。
やがてアナトが生まれ、美しく育つと3人の兄達は、妹を奪い合って争い始めた。現代の人間の倫理観では信じられないが、異母兄妹(姉弟)や従姉妹(従兄弟)同士の婚姻は当たり前の様に行われていて、認められていた。
それどころか自分の叔母や姪、叔父や甥とも結婚していた。唯一認められてなかったのは、同性婚だけだ。
ある日、我慢出来なくなった次男のヤムがアナトを犯してしまう。そして連れ去って監禁し、無理矢理に妻にした。
それに激怒した長男のバァルが、ヤムを殺す為に2本の棍棒を作らせた。撃退と追放と呼ばれる神武器だ。
撃退の攻撃は躱わされ、追放の攻撃でヤムの頭を粉砕して殺した。こうしてアナトは、今度はバァルの妻となった。
勝利したバァルとアナトは、祝宴を開いて三男のモトを招待した。モトは、人間の肉を食べる事を希望したが、普通の料理と葡萄酒でもてなすと聞いて怒った。
そして兄が愛するアナトを奪って妻にしてやろうと画策し、不意打ちでバァル殺して勝利を収めた。実はバァルは、太陽神シャプシュの助言を受けて牝牛との間に息子をもうけ、その子を影武者として身代わりにしていたのだ。モトがバァルを殺したと思っていたのは、この哀れな息子の方だった。
最愛の兄バァルを殺したと思い込んだアナトは激怒して、モトが許せずに鎌で真っ二つにした上でその身体を日干しにして乾かし、石臼で挽き粉々に砕いて大地に撒き散らした。そして今度はバァルの妻となった。
しかしモトはこの7年後に復活し、再びバァルと争い始めたが、太陽神シャプシュが仲裁して2人は和解した。
アナトには狂気の一面もあり、バァルがヤムを倒した祝宴が開かれた時、湧き上がる殺戮衝動が抑えられず、扉を閉めてバァル配下の神兵達を皆殺しにすると、膝まで浸かる血を身体に浴びて喜んだ。そしてバァルに雨を降らせて、血を洗い流して身体を清めたりもした。
ある日唯一神は、娘のご機嫌を取る為に、玩具を与えた。土塊に生命を吹き込んで、神々の姿に似せて創り出したゴーレムだ。そのゴーレムこそが原初人類である。
アナトはそのゴーレムを気に入り2人でよく遊んでいたが、アダムが1人では寂しいだろうと父に頼んだ。
唯一神はアダムの肋骨を抜いて、女性型ゴーレムのイヴを創った。
アダムもイヴも純粋で、無垢な赤子の様だった。悪く言えば、無知で何も知らない子供が大人の姿になった様なものだ。
ある日イヴが1人でいる時に、1匹の蛇に出会った。蛇は、イヴが余りにも無知なので嘲笑った。
何故笑われているのか尋ねたイヴに蛇は、「裸でいる事を恥ずかしいとも思わないのは、知恵を与えられて無いからだ」と言い、「エデンの園にある智慧の実を食べてみれば自分が言っている事が理解出来る」と言った。
素直なイヴはそれに従って、智慧の実を食べてしまう。途端に裸で過ごしている事が恥ずかしくなり、側にあった無花果の葉っぱを千切って胸と股間を隠した。
アダムはイヴの姿を不思議に思うと、イヴはアダムに智慧の実を食べる事をすすめた。言われるがままに食すると、リンゴに似た味で美味であり、何個も手に取って齧った。するとアダムもまた恥ずかしさが押し寄せて来て、股間を無花果の葉っぱで隠した。
羞恥心が芽生えただけで無く、性欲が湧き起こってアダムとイヴはHを始めた。アナトは2人が何をしているのかと興味を持ち、その行為の一部始終を見ていた。アナトもまた無垢であった為に、2人が何をしているのか理解出来なかった。
2人の行為が終わると、興味を持ったアナトもしてみたいと思い、アダムはアナトを押し倒した。まさに挿入される直前にルシフェルに阻止され、ルシフェルは唯一神に報告した。
唯一神は激怒し、アダムを唆したイヴの肋骨を引き抜いた。イヴはアダムの肋骨から創られ、それを抜かれた為に身体を保つ事が出来なくなり、崩れ落ちて元の土塊に戻った。
アダムも処刑されかけたが、アナトが泣いて庇う為に天界追放処分となった。しかしアナトは、アダムを追って自ら地上に降りた。この時アナトに仕えていた在りし日の、侍女の孔雀明妃も共に地上に降りた。
アナトが地上に降りる直前に唯一神が追い付き、アナトに呪いを掛けた。人間との性交では、妊娠出来ないと言う呪いだ。
この為、万が一にもアダムとアナトが性行為をしても子孫が増える事は無い。子孫が増えなければ、人類はやがて滅亡する。
しかしアダムとイヴは、既に子供をもうけていた。長男カインと双子の妹ルルワ、次男アベル、次女アクレミア、三男セツの5人の兄妹達である。
アダムは、ルルワとアベルが結婚し、アクレミアはカインと結婚することを提案した。ルルワをアクレミアよりも魅力的だと思っていたカインは、この提案に反対した。
カインを納得させる為にアダムは、神意を伺わせる神への捧げものをカインに供えさせたが、カインの供え物は神によって拒絶された。カインはアベルを殺害すればルルワが自分の妻になると考え、アベルを殺害してルルワを妻にした。
こうして人類は滅ぶ事なく、子孫が増えたのである。その為にセツはアクレミアと結婚し、その8世代目の子孫にノアがいた。
人類が勝手に子孫を増やし、争う様を見た唯一神は、人類を創造したのは誤ちだったと殲滅を宣言した。
この時、ノアの一族だけが善人であったので殺すのは忍びないと思い、方舟を造らせた。これがノアの方舟で有名な説話である。
だがこの時、唯一神に対して、地上にいるはずのアナトを天界に連れ戻す提案をしたのは大天使長ルシフェルだ。
「主の娘ですよ!?どうか御慈悲を!」
ルシフェルはアナトの為に、血の涙を流して跪いた。
「我が娘と言えども、自ら勝手に地上に降りた者の事など知らぬ」
唯一神は、娘と言えども例外では無いと言い放った。進退極まったルシフェルが更に強く懇願すると、唯一神の怒りを買い、魔界へ流刑される事となった。
「父上!アナトは俺の妻です。どうか御慈悲を!」
「バァルよ、お前もか!?」
2人揃って魔界送りとなった。ルシフェルの双子の妹であるミカエルは、半狂乱となってルシフェルの赦しを乞うた。しかし決定が覆る事は無かった。
どうやったのか分からない。決して破る事が出来ない魔界の門を潜り抜けた。ルシフェルは闇の軍勢を率いて天界に攻め込んだ。最終戦争の勃発である。
だが、地上に降りたはずのアナトの姿を見た者はいなかった。
「ううぅっ…」
「Mizuki、大丈夫?またうなされていたわよ?」
「ごめん、ウトウトしちゃって。少し眠っちゃったよ」
同じグループメンバーのRINKAが、心配そうに顔を覗き込んでいたので、両手で頬を引っ張った。
「あははは、面白い顔」
「このぉ!瑞稀だって~」
RINKAも仕返しで、Mizukiの頬を両手で引っ張った。
「あははは」
お互いがお互いの顔を見て大笑いした。
「コラ!そこ!イチャつかないの!!」
同じメンバーのHALが、2人を注意した。
「本番入りま~す!」
「は~い!」
Mizukiは、さっき楽屋に挨拶に来た霊能力者と言う女の子に、見覚えがある気がしていた。
「あの子、何処かで会った事があったっけ?」
Mizukiは首を傾げながら、スタジオに入った。