第1章 プロローグ 第1話 大魔王ルシファー
最終戦争は、メギドの丘から始まった。本来であるならそれは、神々への冒涜による天の怒りが人間へと向けられ、正義の鉄槌が振り下ろされるはずであった。
しかし天界を追放され魔界へ堕とされた大天使長ルシフェルは、大魔王ルシファーとなって唯一神であるYHWHに叛逆した。
理由は諸説あるが、既に天界を追放されていた原初人類を追って人間界に降りたYHWHの1人娘・慈愛の女神アナトが地上にいるにも関わらず、人類を地上ごと滅ぼすと宣言した為だ。
神の怒りに触れた人類を殲滅するべく、主である神の意志を忠実に実行する天使達が、軍勢を率いて地上に攻め込んで来たのだ。
天使は決して人類の味方などでは無い。彼らは『絶対なる正義(神の意思)』を唱え、完全なる正義とは成り得ない不完全な人類の存在を認めてはいない。
主(神)が、1人娘であるアナトの遊び相手として、土塊に生命を吹き込んで創った人類を寵愛する事に激しい嫉妬を覚えており、常日頃から苦々しく思っていた。
そんな所へ、人類抹殺の機会が巡って来たのだ。大天使長の座についていたルシフェルは、アナトを守る為に人類の側について、唯一神へ宣戦布告をし、闇の軍勢を率いて天使達と戦った。
唯一神は、ルシフェルを迎え討つにあたって陰険な策を弄した。ルシフェルの双子の妹であるミカエルを新たな大天使長として、天使軍の総大将に任命して討伐させたのだ。
ルシフェルとミカエルは双子の兄妹であったが深く愛し合い、結婚の約束もして肉体関係にある恋人同士であった。
神話に於いては、実の母や叔母、姉や妹、従姉従妹や更には娘に至るまで、身内との婚姻が当然の様に描かれている。これは、神々にとって身内との婚姻が、禁忌では無かった事を表している。
ギリシャ神話の全能の神ゼウスも、兄ハーデスに嫁いだ娘を抱く為に、兄に化けてまで何度も娘を抱いて妊娠させた話もあるくらいだ。
神々が禁止していたのは、同性愛だけである。何故なら、同性愛では子孫が残せないからだ。同性愛は、何も生まない快楽の為だけの性行為であると決めつけて、禁止していたのである。
それに反して近親相姦は、子孫が残せるから行っても構わないと言う考え方は、現代人からはとても理解出来ないものである。
ルシフェルは、愛しい妹と全力で戦う事が出来ずに苦戦を強いられた。ミカエルは唯一神に洗脳され、愛し合っていた事どころか兄である事さえ忘れており、「悪魔め、滅せよ!」と襲いかかった。
双子であるルシフェルとミカエルの力は拮抗しており、手加減するルシフェルが敵う相手では無かった。
なんとか妹の追撃を振り切り、唯一神の下まで辿り着いた時は、既に満身創痍であった。
「愚かな悪魔め、滅ぶが良い!」
唯一神から繰り出された一撃によって、ルシフェルは再び魔界へと堕とされた。魔界とは悪魔の住む世界だと思われているが、それは正確では無い。魔界とは、天界の罪人が送られる流刑地であり、強力な結界によって脱獄不可能な牢獄なのだ。
こうしてルシフェルは魔界へ堕ち、大魔王ルシファーとしてその地に君臨し、神々への復讐を誓ったのだ。
ルシフェルは、深い闇の底へ幽閉された。
「…おのれ」
「おのれ卑怯者!必ず復讐してやる!」
叫びながら目を覚ました。まだ薄暗い部屋を見回し、いつもと変わらない日常に安堵しつつ、再び襲って来た眠気に身を委ねて枕に頭を落とした。
「またあの夢か…」
繰り返し見る同じ夢。それは恐らく、前世の自分が体験した出来事だろうと、考える様になったのはつい最近の事だ。
生まれついてから特に、他人と違う所がある訳では無かった。それが見える様になるまでは。
最初からそれが見えていた訳では無い。初めは声が聴こえる程度であった。やがてそれはボンヤリと影が浮かび、10歳になる頃には形を成した。
明らかに人とは異なる異形の姿の彼らに対して恐怖の色を見せなかったのは、彼らが敵対心を見せるどころか自分に対して従順で敬う態度を見せていたからだ。
本能的に、彼らが敵では無いと認識出来た。いや、彼らを見て、何処か懐かしささえ感じていた。言葉を話す事が無い彼らの声が聴こえたのは、15歳の誕生日だった。
耳で聴こえた訳では無い。むしろ直接、脳に響いて来る様な声だった。
「陛下…ルシ…ァー…陛下、ルシファー…陛下」
「ルシファー?」
全て納得した。毎日うなされる様に見る夢の正体が、胸のつかえが取れる気がした。
「嗚呼、この俺はルシファーの転生した姿なのだ」
その瞬間に前世の記憶が甦り、押し寄せる膨大な量の記憶で、頭が割れる様な痛みに耐えられなくて意識を失った。再び目を覚ますと、記憶と能力の一部も目覚めていた。
人間では決して真似の出来ない宙に浮き、飛ぶ事が出来た。両親が寝ると、深夜に窓を開けて闇夜の空を闊歩し、鳥よりも速く飛ぶ事も出来る様になった。
「俺が転生したのは唯一神に、天界に復讐する為に違いない」
記憶と力の大部分を失っていたのは、神が施した結界を潜り抜ける為だろうと考えた。
「いや、人間に転生する事によって、魔界を抜けて地上に出られたのだ」
これからは、恐らく何処かにある『天界への門』を探し出し、仲間を集めて天界に攻め込む事になるだろう。
「アナトか…」
自分が本当にルシファーの生まれ変わりであるなら、アナトの為に堕天した事になる。
「責任を取って、仲間になってもらうぞ」
唯一神の1人娘であるアナトを探す。彼女は神であり、不老長寿である自分達とは違って不老不死だ。きっと何処かで生きているに違いないと思い、先ずは探し出す事を優先する事にしたが、どうやって探し出せば良いのかと、思案した。
「世界の国々を、一国ずつ地道に探すしかないのか?」
記憶は戻ったが、人間に転生してからの生活と記憶もあり、自分を生んで育ててくれた両親にも感謝をしている。だから大魔王としての記憶が戻っても、すぐに家を離れる気にはならなかった。
『黒獣眷属化』
黒猫や鴉などを眷属化して使役する呪文だ。この呪文は、一羽の鴉から他の鴉へと感染し、無数の鴉の目から得られる情報が、脳裡に直接的に伝わって来る。
「空から得られ無ければ、地面(黒猫)から得るまで」
そして数日後、鴉の目を通して1人の少女が写し出された。
「面影がある…アナトに違いない」
それにしても、何と言う美少女なのだろうか。TVで彼女の姿を見ていたと言うのに、何故今まで気が付かなかったのだろうか。感知を鈍くさせる様な、彼女自身の能力によるものかも知れない。
彼女の名前はMizukiと言い、まだ14歳だがSweetStarsと言う3人組アイドルのセンターで、世界中で絶大な人気を誇っているスーパーアイドルだ。
「アイドルか…。近付くのも容易では無さそうだな…」
だがそれでも必ず会いに行く。唯一神を倒すには、彼女は絶対に必要だからだ。
読者の皆さまに感謝です。第1話を読んで続きが読みたいと思われた方は、是非ブックマークを宜しくお願いします。
「その日、女の子になった私」と言う連載中作品で、450ポイント以上獲得の作者です。
1日に読んで頂いている人数によって、ストーリーが変わる事があります。少なくなって来ると書く気が無くなって、主人公を早く殺して作品を終わらせようと画策したりします(笑)
「その日、女の子になった私」を超えたくて、「女の子になった僕」と言うファンタジーでは無く、恋愛小説にしたら読者数に伸び悩み、続きを書く気が失せたので新たにこの作品を書き始めました。
最後まで書き続けるかは、読者の皆さま次第ですので、どうぞ宜しくお願い致します。