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かさ と 天使 と 女の子

作者: 蓬田灯子

不快なことがあった。


王宮の廊下を全力で走り、大扉を力任せに開け放ち、空中に身を投げ、勢いよく翼をバタつかせて天界から逃げ出した。


強風が身体に当たる。あいにくの雨も全身を濡らした。

先ほどまで頬をこぼれおちていた涙は、風雨によってわからなくなった。


(……じぶんのことは、じぶんで決めたいのに…っ……!!!

父上は……いつも何でも決めてしまう!!!)


風雨が痛い。それに加えて、感情が高ぶっているせいか、翼が思うように動かせない。


「っ…くそっ!!」


その瞬間、翼の根元に痛みが走り、体勢を崩すとそのまま下界に落ちてしまった。


________


「……さいあく…」


下界の石造りの歩道にうなだれた。


下界…、いわゆる人間が住む世界。

もちろんここでも雨が降り注いでいる。すべての景色が薄暗く濡れている。今のじぶんの心のように思えた。


(……だれも…、ぼくの気持ちなんてわかってくれない)


すっかりずぶ濡れになってしまった身体は、体温が徐々に奪われ、先ほど空中で痛めた翼の根元からも、じんじんと小さな痛みも伝わってくる。

しきりに降り続く雨と、両手をついている石の歩道からは、冷たいゴツゴツした感触が鈍い痛みのようなものに感じられた。


「もう、このままずっと……」


(ぼくの雨は……やまないだろう)


そう静かにつぶやくと瞼を閉じた。


  「ねぇ、だいじょうぶ?」


「…え?」


閉じたばかりの瞼をばっと開き、勢いよく上を向くと、そこには一人の女の子がこちらを見ていた。


________


「きこえてる?だいじょうぶ?

雨ふってぬれてるのに…こんなところにすわっちゃって……」


(………見えるの?ぼくの姿……)


おかしい。

人間には、じぶんたち天使の姿は見えないはずだった。

しかし、この女の子にはじぶんが見えているらしい。


「あ……、うん、だ、だいじょう…ぶ…」


人間と話すことが生まれて初めてだったこともあり、ぎこちない歯切れで言葉を出した。

しかも、まったく大丈夫ではない状況だったが、誰かにとっさに聞かれると、この返答がどうしても出る。


(やば…っ、姿が見えてるってことは、翼も見えて…… 天使ってバレる…!!)


慌てて翼を隠そうとした時、ふっと暗くなる。


「かさ、かしてあげるね」


気づくと、じぶんの真上に雨を遮るものがさされている。


「あ……え…っ、……でも、それではきみが濡れて…」


「だいじょうぶ!!」


「え…?」


女の子は満面の笑みで、じぶんが放った言葉を遮った。


「わたしが着てるこれ、レインコートだから!」


女の子は半ば強引に、じぶんにかさを手渡した。

そして、長い髪を束ねて、レインコートのフードを頭に被った。


「ね?これでわたしも濡れない!」


「…………」


手渡されたかさの取っ手からは、女の子の握っていたぬくもりがあった。

冷えた手のひらにそれは、じんわりと広がった。


パシャパシャ


「あ……」


女の子はじぶんの横を小走りで通り過ぎる。


「かさ、本当にいいよ…!! ぼく、もうこんなに濡れちゃってるから…」


取っ手をぎゅっと握るも、女の子にかさを差し出す。

女の子はこちらを振り返り、また、笑った。


「かさをさしたら、もうそれ以上濡れないよ、……またね!」


女の子はそれを言うと踵を返して、小走りで薄暗い景色の中に消えていってしまった。


(………翼、見えなかったのかな……ぼくが人間じゃないって、分からなかったのか…

    ……それよりも………)


「……初めてだ…かさ…」


改めて見上げる。

その模様が何であるのかも、やっと目に入ってきた。


「お日さま……か」


淡いタッチの太陽の絵。

その絵からは、先ほどの女の子の満面の笑みが重なった。


(………あたたかい)


ぎゅっとまた、取っ手を握る。

女の子のぬくもりに、今度はじぶんの温度が重なる。


「…それ以上、濡れないから……か」


ふっとじぶんからも、笑みがこぼれた。



(終)



挿絵(By みてみん)




読んでいただき、ありがとうございます(* ´ ▽ ` *)

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