2-6:刻のアトリエ
そしてギュスターヴをにらみ返した。
「ルゥさまは僕がお守りします」
「召使いごときが」
にらみ合って火花を散らす二人。
わわわ……。どうしよう。
カシマール先生は「やれやれ」と呆れたようすで肩をすくめていた。
牢屋を出て王城内を歩く。
赤いカーペットの敷かれた廊下。
城内を巡回しているらしい兵士や、仕事をしているメイドとかとすれ違う。
みんな、先頭を歩くカシマール先生とすれ違うと会釈してくる。
この人、やっぱりえらい人なのかな。
「カシマール先生と言いましたね。どうして僕たちを捕らえるよう騎士団に指示したのですか?」
「お前たちが『刻星術』をぽんぽん使っているからさ」
「使ってはいけないものなのですか?」
「時間を自在に操る『刻星術』は禁忌の術。街角のお店で使うような魔法じゃないんだ」
ため息をつくカシマール先生。
「壊れたものをあっという間に直したり、何年もかけて熟成させる酒やチーズをあっという間につくる魔法使いがいる――って聞いたときは『まさか』と思ったぞ。半信半疑で調査してみると本当に『刻星術』だったのがわかって驚いた」
カシマール先生が扉の前で立ち止まる。
扉の向こうは書架がたくさん並んだ広い部屋だった。
まじめそうな大人たちが本を読んだりなにかを書いたりしている。
床に大規模な魔法を唱えるときに使う魔法円が書かれている。
よく見ると、机には魔法の触媒として使う道具も置かれている。
「魔法研究所へようこそ」
カシマール先生がそう言った。
「俺は魔法研究所の最高責任者カシマールだ。よろしく、聖女さまとその従者さん」
「ルゥ・ルーグです。どうも」
「執事のレオンです。お見知りおきを」
カシマール先生に促されて近くの席に座る。
それから先生は真剣な口調でこう言った。
「ルゥ・ルーグにレオン。どうやらお前たちは『刻星術』の代償を知らないらしい」
「なにを代償にするんですか? わたし、代償にしたものなんて今までありませんでしたけど」
「気づかないうちに支払っていたんだ。お前の『寿命』を」
寿命!?
「『刻星術』は唱えた者の寿命を代償に時間を操るといわれている。まあ、そいつが何歳まで生きるかなんてわからないから、それが本当かどうか確かめようがないがな」
けど、本当に寿命を代償にしているのならわたし、あっという間に死んじゃう。
隣に座るレオンは顔面蒼白。
「ルゥさまは死んでしまうのですか」
「今すぐに死ぬってことはないだろう。たぶんだがな。ルゥ・ルーグ。お前、歳はいくだ」
「16歳です」
カシマール先生がじろじろとわたしを見てくる。
なんかむずかゆい。
「年齢相応の外見だな。これが年老いてたら間違いなく寿命を消費していたろうから、ひとまずは大した代償は払っていないようだ」
よかった。
わたしもレオンもほっと胸をなでおろした。
ところがそこにカシマール先生がこう言う。
「だが」