2-5:刻のアトリエ
カチリ。
そんな音がして、鉄格子の鍵が開いた。
「こんなこともあろうかと、開錠術を心得ていました」
「すごーい。レオン、なんでもできるんだね」
「お褒めいただき光栄の至りです」
うやうやしく頭を下げるレオン。
これで牢屋から出られる。
出たところでどうなるかわからないけど、がんばって逃げよう。
鍵の開いた鉄格子に手を伸ばしたそのとき――。
「おっと、そこから一歩でも出たら脱走の罪で間違いなく死刑だぞ」
そんな声が聞こえて、鉄格子越しにわたしたちの前に誰かが現れた。
金髪の騎士の人かと思いきや、違った。
黒髪の痩せた青年だった。
刃のように鋭い目が印象的。
「ったく、おてんば娘め。脱走なんてすぐに捕まるに決まっているだろう」
年齢は20歳くらい。わたしやレオンより年上なのは間違いない。
街の人が着るような普通の衣装をまとっている。
「だって、ここから逃げないとわたしたち死刑になるんでしょう?」
「だ、誰がそんなこと言った……」
呆れた顔をする黒髪の人。
「まあ、ともかく、だ。お前らは死刑にならん。おとなしくしていれば無罪でここから出してやる」
「ほんと!?」
「ああ。お前たちを捕まえるよう指示したのは俺だからな」
「へ?」
ぽかんとするわたしとレオン。
黒髪の人は少しも悪びれないようすで続ける。
「聖女さまだかなんだかしらんが『刻星術』をくだらんことに使いやがって」
「『刻星術』を知ってるんですか?」
「『刻星術』は超高等魔法。お前みたいなお子さまが本来使えるものじゃないんだ。どうせ代償についても知らずに使ってたんだろ」
代償……?
『刻星術』のになにか代償が必要だったの?
でもわたし、代償を払ったことなんてないけれど。
「カシマール先生。ここにいましたか」
わたしたちを捕まえた金髪の騎士の人がやってくる。
黒髪の人の名前、カシマールっていうらしい。
先生……。学校の先生なのかな。
「よう、ギュスターヴ。お前か? こいつらを死刑にするって脅したのは」
「お、思わずそう口走った気がします……」
ギュスターヴと呼ばれた金髪の騎士の人は、ばつが悪そうに頭をかく。
「ルゥ・ルーグとその従者の身柄は俺に渡してもらうぞ」
「えっ!? し、しかし、いくらカシマール先生でも罪人を――」
「教授権限だ」
教授権限。
それがどれほど強いのかわからないけれど、とりあえず王国騎士団の人を黙らされるくらいの力はあるらしい。
「……わかりました」
ギュスターヴは渋々承諾した。
カシマール先生が鉄格子を開ける。
「そういうわけだからルゥ・ルーグにその従者。お前ら晴れて無罪放免だ」
「カシマール先生。今、カギを開けずに格子を開けたような」
「気にするな」
牢屋から出たわたしをギュスターヴがにらみつけてくる。
わたしと彼の間にレオンがすかさず割り込む。