2-4:刻のアトリエ
レオンがわたしの前に立ってかばう。
一瞬、頭が真っ白になったけど、すぐに事態を理解した。
レオンを狙いに来たんだ。
レオンはグレイス王家の王子さま。
王位継承の候補者で、他の候補者から命を狙われている。
すでに王座には別の王子さまがついたけど、その王座を奪いに来るかもしれないという理由で依然としてレオンは他の兄弟から暗殺される危険があるのだ。
わたしが、聖女のわたしがレオンを守らないと。
「レオンは渡さないんだから!」
「ル、ルゥさま!?」
今度はわたしがレオンをかばうようにして立った。
レオンがぎょっと驚く。
兵士たちの槍の矛先がわたしに向けられる。
「動くな。妙な動きをしたら命はないぞ」
どうしよう。このままだとレオンが殺されちゃう……。
「ルゥ・ルーグだな」
兵士たちの中から一歩、前に出てきた人がそう尋ねる。
金髪の青年。年齢はわたしと同じくらいかもしれない。
その人が偉そうな口調でこう言った。
「我らは王都の治安をつかさどる王国騎士団。ルゥ・ルーグとその従者よ。お前たちを魔法悪用の罪で捕まえる。おとなしくついてこい」
「へ?」
魔法悪用の罪……?
レオンの命を狙いにきた暗殺者じゃないの……?
そのことがわかると、一気に緊張が解けた。
「なーんだ、そうだったんだ」
「なっ!?」
「ル、ルゥさま……?」
「わたし、てっきりレオンが殺されちゃうんじゃないかと思ったよ」
「ふ、ふざけた態度を……」
金髪の騎士がわなわなと怒りに震えだす。
し、しまった。怒らせちゃった。
「ルゥ・ルーグどもをとらえろ! 望みどおり死刑にしてくれる!」
そういうわけでわたしとレオンは王国騎士団に捕まってしまったのだった。
今、わたしとレオンは王城の地下にある牢屋にとらわれている。
じめじめとして冷たい、不快な場所だ。
「わたしたち、死刑になっちゃうのかな……」
「そうならぬよう、最善を尽くします」
「でも、わたしたち、魔法悪用なんてしないのに」
「事情を説明して、疑いを晴らすほかありませね」
でも、あの金髪の騎士の人、がんこそうだった。
わたしが事情を説明しても聞く耳持たないのがなんとなく想像できた。
せっかく『刻のアトリエ』が順調だったのに。
こんなところで死んじゃうのかな……。
「このままここにいては死刑にされてしまいます。脱出しましょう」
「脱出って、どうやるの?」
「僕におまかせください」
レオンはいつの間にか手に細い針金を持っていた。
それを鉄格子の鍵穴に差し込んでいじりだす。