5-3:オーレリウムの花
ギュスターヴさんが暮らすお屋敷は王都の上流階級層居住区にあった。
騎士だから当たり前だけど。
田舎にある古めかしい我が家とは違って、ギュスターヴさんのお屋敷は立派なたたずまいをしていた。
「それにしても、思いもよらぬ方からの依頼ですね」
レオンが耳打ちしてくる。
ギュスターヴさんはわたしとレオンを死刑にしようとしていた人。
あまり仲は良くない。
というか、むしろ険悪。
さっきもあからさまにわたしを見下していた。
そんな人がプライドを曲げてまでわたしに依頼したいことがあるなんて。
「入れ」
門扉が開き、わたしたちはお屋敷に入った。
お屋敷に入るなり、召使いの人たちがわたしたちを出迎える。
「おかえりなさいませ、ぼっちゃま」
「ミントはいるか?」
「ミントお嬢さまは中庭にいらっしゃるかと」
ミント?
誰だろう。家族かな。
渡り廊下を歩いて中庭へと訪れる。
「わっ、きれい!」
「見事ですね」
中庭に入るなり、わたしとレオンは思わず声を出してしまった。
中庭には色とりどりの花が咲き乱れていた。
まさに花園。
花の甘い香りが漂っている。
その花園の中心に、一人の少女がいた。
長い金髪の、可憐な女の子だ。
精巧な人形のような、触れれば傷つく儚い美しさを感じる。
「あっ、ギュスターヴお兄さま」
こちらに気付いた少女がギュスターヴさんのもとまで小走りに駆け寄ってくる。
「ただいま、ミント」
にこりとやさしく笑うギュスターヴさん。
この人、こんなやさしい笑いかたできるんだ……。
「ギュスターヴさまの妹さまでしょうか」
「俺の妹のミントだ」
「ミントと申します。どうぞお見知りおきを」
ミントさんが丁寧におじぎした。
わたしよりも年下かもしれない。
背が低く、心配になるくらい腕も細い。
「お兄さま、こちらの方々は……?」
「前に話した『刻のアトリエ』の店主とその執事だ」
「まあ、そうでしたの」
「えっ、ミントさんも『刻のアトリエ』知ってるの?」
「もちろんですわ。王都で『刻のアトリエ』を知らない者はいませんわよ」
そんな有名だったなんて、照れるな……。
「うぬぼれるなよ。田舎領主の娘の分際が」
ギュスターヴさんがいつもの調子でそう言った。
「お兄さま。この方たちがここに来たということは、『あの花』を咲かせてくれますの?」
花?
花を咲かせるのが今回の依頼なのかな。
そういえばギュスターヴさんから依頼の詳しい内容をまだ聞いていない。
「聖女を騙る田舎娘だ。本当に『あの花』を咲かせられるかは怪しいがな」
ひどい言われようだ……。
っていうかこの人、すなおじゃない。
さっき咲かせてみせたのに。