2-2:刻のアトリエ
レオンが急に真剣な表情になる。
かと思いきや、笑顔に変わってこう言った。
「僕は、ルゥさまといられるのなら小さなお店でもかまいません」
わたしとレオンが王都に移り住み、『刻のアトリエ』を開いてから20日ほど経った。
「ルゥさま、起きてください」
そう声が聞こえ、わたしは夢の世界から引きずり出される。
「ルゥさま、朝です」
「うーん」
目を開けられずにいたそのとき、カーテンを開く音がして朝の陽ざしがまぶた越しに降ってきた。
まぶしさをこらえながら少しずつ目を開く。
目を開けると、目の前に銀髪の青年――執事のレオンがわたしの顔をのぞき込んでいた。
「おはようございます、ルゥさま」
にこりとさわやかに微笑む。
本当にレオンって美形だな……。
王子さまみたい。
……じゃなかった。実際本当に王子さまだったんだ。
うーん、わたしにはもったいない。
寝ぼけ眼をこすりながらそんなことを考えていた。
「おはよ、レオン」
もう少し寝ていたかったけれど、階下からいい匂いが漂ってきたのでどうにか二度寝の誘惑から逃れられた。
レオンが窓を開ける。
生まれたての新鮮なそよ風が吹き込んでくる。
小鳥たちのかわいらしい歌が聞こえてくる。
今日もいい日になりそうな予感。
「朝食の用意ができていますので、顔を洗ったらダイニングへいらしてください」
「はーい」
レオンが部屋を出てから着替え、顔を洗ってダイニングへ。
テーブルにはベーコンエッグとコーンポタージュ、それにパンが並んでいた。
おいしそう。
わたしとレオンは向かい合って席に着き、食事を食べた。
半熟の目玉焼きとカリカリのベーコンがたまらない。
コーンポタージュも濃厚でおいしい。
パンにはクルミが練りこまれている。
「レオンってホントに料理が得意だね」
「光栄の至りです」
レオンを連れてきてよかった。
わたし、料理はぜんぜんできないし。
わたし一人でアトリエを開いていたら、今頃悲惨なありさまになっていただろう。
しかし、レオンには料理の他に掃除や洗濯までもまかせてしまっている。
主従の関係とはいえ、申し訳ない気持ちになる。
「掃除くらい自分でしよっかな」
「いえ、家事全般は僕にお任せください。ルゥさまが仕事に専念なさるために僕がいるのです」
「仕事……。わたしの仕事」
「『刻星術』はルゥさまにしかできませんので」
食事を終えて、さっそく仕事に取り掛かることにした。
アトリエの工房に行き、作業台に『依頼品』を置く。
今回の依頼品は懐中時計。
壊れていて針が動かない。表面のガラスにもヒビが入っている。
わたしは手にしたステッキの先を作業台の懐中時計に向け、そして唱えた。
「時よ戻れっ」
ステッキの先から強い光が生じて視界が白色に包まれる。
しばらくして光が収まる。
どれどれ……。
懐中時計を確かめる。
時計の針が――動いてる。
ガラスのヒビもなくなっている。
やった。『刻星術』成功だ。
壊れていた懐中時計を壊れる前に『戻す』ことができた。
物体の時間を自在に操る奇跡の魔法。
それが『聖女』として生まれたわたしが使える『刻星術』だ。
――ルゥ。あなたの『刻星術』は聖女の力。世界の理を覆す奇跡の力。
わたしの心の中に聞こえてきた『声』がそう言ったのだ。
「さてと、作業は終わったし、お店の看板を出して――」
そのときだった。
突如、鼓膜を震わすすごい爆発音が響いたのは。