表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Burger&Gun  作者: 猫田猫宗
1/1

邂逅


暗闇に支配された森を数人の男たちが全速力で駆け抜けていた。

先頭を走る金髪の男は血に塗れた左腕を庇いながら、後方にいる仲間に荒々しい声色で言葉を投げる。


「おいジェイク! 本部との連絡は繋がったか!?」

「駄目だ! 繋がらねぇっ! クソッ! クソッ! あの化け物に殴られた時に壊れた可能性が高い!」


ジェイクと呼ばれたアフリカ系の男は、腕に巻いた腕時計型の無線機を何度も何度も力強く叩く。


「クソッたれが! レイヴン! 後方から追って来てる化け物に鉛玉は効いてるか!?」

「駄目です! 体表が硬いのか弾かれてます!」


 四人の隊員が一斉の銃撃を試みてみるも、暗闇に光る化け物の瞳はまだこちらを見つめている。

 そして、徐々にだが距離を詰めれていき、その全貌がハッキリと映し出されていった。


「クソがッ! Cクラス級の任務のはずだったろ! どう見てもBクラス級の化け物じゃねーか!」


 体長は4m程だろうか、体表は分厚い浅黒い皮膚に覆われ、口は大き割け、背中には肋骨を連想させる骨の様なものが乱雑に生えていた。

 そして、二足歩行のソレはまるでこちらの様子を観察をしているかのようにじっと見つめている。

 その瞳は異様な程大きく、窪みが深いせいか表現しようもない恐怖を押し付けてくる。

 

 そして


 とうとう化け物に追いつかれてしまった。

 化け物は極度に発達した腕で最後尾にいる隊員を軽々と鷲掴みにし、そのまま自身の口へと持っていった。


 ぐちゃり


 腐った柿を踏んだかの様に鈍い音を立て、そのまま右腕を齧り切った。


「グアァァァァァァァ!!!!!」


 隊員の叫び声が森中に木霊する。


「レイヴンッ! てめえェェェェ!!!! レイヴンを放しやがれェェェェェ!!!!!!」

 

 レイヴンの直ぐ隣にいた隊員が銃で応戦する。

 しかし、化け物には一切の傷が付く様子もなく、そのままレイヴンをぱくりと口に放り込み、ぐちゅぐちゅと音を鳴らしながら咀嚼する。

 口元からは、ぽたりぽたりとレイヴンだったモノが滴り落ちる。

 

「レイ……ヴン…………」


 そして、絶望させる間を与える事なく、その化け物は次々と隊員たちを鷲掴みにし、肉塊を量産していった。

 血の水溜まりが出来たその中央で、にちゃりと笑顔を浮かべたその化け物は、左腕を損傷した金髪の男を見つけ、ゆっくりとこちらに近づいてくる。


「……なぁ、ジェイク。俺達にも【ギフト】があれば何とかなったのかな?」


 ジェイクだったモノは何も答えてはくれない。


「【ギフト】なんて無くても、誰かの為の何かになれるって……思ってたのによ」


 その化け物は大きく右腕を振り上げ、金髪の男を冷たい眼で見下ろす。


「あぁ。俺はここで死のか」


 死を覚悟し、無慈悲にも振り下ろされた腕が金髪の男をバラバラにする。


 かのように思えたその刹那、一発の銃声が空を割き、化け物の右腕に命中する。

 化け物は何が起きたのかと自身の右腕を見たその瞬間、まるで水風船を壁に投げつけたかのように破裂し絶命した。


「……な、何が起きたんだ」


 銃声が発生した方向を見ると、身長が190㎝はあるであろうアフリカ系の男がこちらに気がついたのか小走りで近づいてきた。

 米軍服に身を包んだアフリカ系の男は、やや困惑した様子を見せながら辺りの惨状を見渡す。


「おい大丈夫か? 軍が把握してない民間の組織がゲートに近づいてるって報告があったから急いできたが……こりゃー何人死んだ? あとお前らは何処の誰だ?」


「……【ノンギフテット】の下部組織に所属している…アレックス・カーターです……。9名の隊員があの化け物に喰われて……死にました」

「そうか、今はそれ以上何も喋らなくていい。詳しい事は米軍本部で聞く」


 ウェレ・ウォーカーは一名の生存者を抱え米軍基地に帰還した。


 

 

  【USA NextTomorrow特集】

 2030年の4月16日、アメリカの首都ワシントンD.Cにて、一瞬にして世界を覆ってしまう程の大規模な光の爆発【神の祝福】が発生した。その爆発による人的被害は確認されておらず、建物や日常品に対しての異常も同様に見られなかった。

 しかし、大きな2つの異常が時間と共に発見され始めた。


 1つ目が【ギフト】の発現。

 年齢、人種、性別問わず【ギフト】と呼ばれる異能を発現する者達が現れ始めた。

 小さな火の玉を手から発生させたりする者や、空を自由に飛べる者などその内容は様々だった。

 しかし、全ての者がギフトを所有する者【ギフテッド】に成れる訳ではなかった。

 2050年の現在で全人口の60%が何らかのギフトを所有している事が統計上分かっている。

 そうつまりは、全人口の40%はギフトを所有していない者【ノンギフテット】なのだ。

 ギフトの有無による経済的な格差さや、差別問題等の完全な解決には残念ながらまだ至っていない。我々は今後この問題にどう着手していくかが試されていると言えよう。


 そして、2つ目の異常は【GATE】問題。

 【神の祝福】以降、世界各地に異世界に繋がる門【GATE】が発生し始めたのである。

 基本的にGATEは空中、水中、地中問わず発生し、その都度我々人類にとって害悪となる災害やモンスターといった存在が門を通してやってくるのだ。

 しかし、「何も全てが害であるとは限らない」というのが各国の悩みの種でもある。

 と言うのも、GATEの先には我々人類が未だ知らない未知の物質がある可能性が高いのである。

 GATEの絶対のルールである『門を通ったもの、同等の価値のある物を元の世界に戻す、もしくは破壊しない限りは如何なる方法を持ってしても門を破壊する事が出来ない』という厄介な制約から目を背ければ、我々人類に多大なる発展を及ぼすまさしく【神の祝福】である事は間違いないだろう。

 

 このように我々人類はここ20年、【ギフト】と【GATE】といった新しい要素を用い、多大なる発展をしてきた背景がある。

 アメリカ合衆国はかつて夢見たサイバーパンクの様な社会を実現させ、圧倒的な【ギフテッド】保有数を武器に今なお世界全体に多大な影響力を及ぼしている。

 がしかし、それらの発展の陰で蠢く不利益から目を反らし続けた場合、その先に待っているものは限らずしも栄光であるとは限らない。

 今一度、我々人類は【ギフト】と【GATE】との付き合い方を考え直す必要性が出てきているのかもしれない。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 【マンハッタンイーストサイド近郊】


 やや人気のない橋の下を歩きながら、シャーロット・サンチェスは、街中にある大きなビルのモニターを見ながらフンフンと鼻を鳴らし頷いていた。


「そうだよね、ノンギフテットに対しての差別問題は是正されるべきだって私も思うよ! どうして皆差別なんて酷い事するんだろう……理解できn、いてッ……!」


「オイゴラッ! クソガキ! どこ見て歩いてんだオラッ!」

「すすすすみません!!!!!」


 頷きながら歩いていた影響か、前から向かってきた歩行者とぶつかってしまった。

 

「オイオイオイ嬢ちゃん、いきなりぶつかって来るとはいい度胸してるなぁーオイ!」

「ちちち違うんです! わざとではないです!」

「ほーん、それで? どう落とし前つけてくれるんだ?」


 スキンヘッドにちょび髭を生やした男はシャーロットの体を舐めまわすかの様に見る。


「……落とし前ですか?」

「当たり前だろ! 人様に迷惑をかけたら何らかの落とし前を付けるのが立派なアメリカ人ってもんだろ?」

  

 成程。


「――――――良い植毛をしてくれるお店を教えろって事ですか?」

「 あ゛?」


 スキンヘッドの男は一気に距離を詰めシャーロットの服に手をかける。


「そんなに犯されたいのなら望み通りにしてヤるよッ!」

「私はイギリス(イングランド)人なのでセーフですよ!」

「――ぶっ殺す!!!!」


『いいや、やめときな』


 シャーロットの服を脱がそうとしたその瞬間、スキンヘッド男の背後から何者かが近づいて来た。


「……誰だアンタ」


 スキンヘッドの男はゆっくりと服にかけていた手を放し、後ろから近づいて来た男に対し警戒態勢をとる。

 身長は190㎝は超えているであろうアフリカ系の男は、かけていたサングラスをゆっくりと胸ポケットへとしまった。


「俺が誰であろうと関係あるのかよ? ガキ相手にみっともねぇ事してんじゃねーぞ」


 その有無をも言わせない圧倒的な威圧感にスキンヘッドの男は小さくもガクガクと足を震わせていた。

 まぁ、無理もないだろう。

 身長190㎝は超えているであろう筋骨隆々のガチムチ野郎に睨まれたら誰だって子猫ちゃんみたいになってしまうものだ。



「…………チッ、クソが。しらけちまったぜ」


 そう言い残しスキンヘッドの男は潔く立ち去っていった。



「嬢ちゃん大丈b…………か?」


 そこには腕を前に組みクッソドヤ顔をキめている金髪ツインテ美少女がいた。


「ナイスですステファン(∩´∀`)∩」

「俺の名前はウェレ・ウォーカーだ」

「成程、これは失礼しました。私の名前はシャーロット・サンチェスです」


 シャーロットはスッと手を出し握手を求めると、それに呼応するようにウェレもまた握手を交わす。


「それで、どうして嬢ちゃんはそんなドヤ顔をキめてんだ?」


 当然の疑問である。

 さっきまで犯されそうになっていた人間の言動としては不適切であるからだ。


「フフフ、よくぞ聞いてくれましたね。実は私は今絶賛道に迷ってる最中でして、窮地の脱出と道案内役の確保を同時に出来てしまった自分の幸運に驚いていたんですよ」

「おけ。じゃ、気を手けてな」


 ウェレは軽く手を振りながら来た道をUターンしていく。


「ちょちょちょ待ってくださいよ!」


 シャーロットはウェレの手をガッと掴む。


「……俺に出来る事は正直ここまでなんだが」

「お願いです! 私、最近就職の関係でアメリカに来たばっかりなんです!」

「え? 就職!? どう見ても15歳かそこいらの年齢に見えるんだが……」


 身長は150㎝程度で、髪の毛は綺麗な金髪のツインテール。どう見ても成人には見えない。


「育った環境というかなんというか、兎にも角にも私は大卒のバリバリの22歳です!」

「俺の1つ下とかマジかよ……」

「周りの人から見たら身代金目的の誘拐現場に見えてるかもしれませんね」

「勘弁してくれ」


 現在の時刻は午前6時39分。

 そろそろ人が溢れてきてもおかしくない時間帯だ。 


「それで? 目的地は何処か聞いてもいいか?」

「はい! えーっと、『アルカナ』って名前の、民間で色々な問題を解決しますよーって感じの会社なんですけど知ってたりしますか?」


 シャーロットはウェレが『アルカナ』という単語を耳にした瞬間、ピクリと反応していることに気が付いた。


「……あぁ、良く知ってるよ。付いてきな」


 そう言いウェレは迷いのない足取りで歩き始めた。


「やったぁー!」


 シャーロットは元気いっぱいのテンションでウェレの後を付いていく。


「ちなみにウェレさん! 『アルカナ』って具体的には何をやってる会社か知ってたりしますか?」

「何でも屋だな。テロを未然に防いだり、ペット探しなんかまでマジでなんでもやる組織だな」

「テ、テロ!?」


 ウェレはうろたえるシャーロットをしり目に、ある建物の前でピタリと止まる。

 築100年は経過していそうなボロボロの建物で、橋の下にあるせいか太陽の光が全く届いておらず、それがより一層悲壮感を強くさせていた。


「・・・・・・え? え? え? 嘘ですよね?」


 目を丸くさせながら口をパクパクさせるシャーロット。

 

「歓迎しよう、ここが総合的な問題を題解する事に長けた組織、我らの【星屑の宿(アルカナ)】だ^^」




「――――――ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?!?」


 シャーロット・サンチェスの非日常はここから始まったのであった。



 



 

 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ