表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/32

番外編2 黄色の小瓶(下)


 翌日のデート。


 僕は、リラリーの御両親にお詫びと挨拶を済ませ、帰宅時間を約束してから、彼女を連れ出した。


 ちなみに、語らなくても想像に容易いだろうが、リラリーのワンピース姿は尋常ではなく可愛かった。しかも、水色のワンピースを着ていたんだ。この意味が分かる? 『私は貴方のものですよ』ってことだ。

 勿論、僕のポケットチーフは黄色。お返事済みだ。

 


「いらっしゃいませ~、ってオーナーじゃないですか」

「連日、お邪魔するよ」

「すっかり常連ですね、お連れ様と。ひっひっひ♪」

「……笑い方、減点対象。査定に響くよ?」

「ひぃ、申し訳ございません!」


 ランチタイムの少し前。僕とリラリーは、昼食を包んでもらうために、ルナ・レストランにいた。

 これから植物園にデートに行くのだが、摂取する食事の100%をルナ・レストランで済ましているリラリーのために、ランチは持参することにしたのだ。


 あと、もう一つ。黄色の小瓶――独占薬の効果を確認するために。


 僕は、少し離れたところにいたリラリーを、手招きで呼び寄せた。


「リラリー、食べたいものはある?」

「ルカに任せる」

 

 はい、可愛い。罪。

 この感覚が分かるだろうか。リラリーの『私の好みくらい分かって当たり前』という、究極の甘えん坊スタイルがたまらなく僕を奮わせる。

 おっと、いけない、いけない。僕が注視すべきは、リラリーではなく、スタッフの反応だ。


 昨日、ルナ・レストランに来た際には、顔を赤くしてドキマギしながらリラリーを見ていた、この不届き者のスタッフ君。

 ところが、どうだろうか。今日は、顔色は良いが赤くはない。リラリーをじっと見つめるわけでもなく、淡々と仕事をしていた。行き届いたスタッフ君に様変わりだ。


 次に、店内の男共の様子を見る。さすがに、天使の美貌を持つリラリーだ。誰もが一瞬は視線を奪われる。だが、『お、美人だ』という表情はするものの、惚けたような表情をする男はいなかった。熱っぽい視線は皆無。


 ―― すごいな……


 あまりの効力に、背中がゾクリとする。これを僕は()()し続けるのだと思うと、少し背筋が伸びる心地がした。



 そうして、僕たちはデートに繰り出した。


「ままままさか! ここは、植物園!?」

「本当は、薬草採集ピクニックに行きたかったけどね。まだ寒いし、今日はここで我慢してくれる?」

「十分よ!」


 リラリーはキラキラの瞳で返事をしてくれた。聞けば、植物園は初めて来るのだとか。


 ―― 元々、殆ど外出しない子だし、当たり前にデートはしたことないみたいだし、……兄さんって……


 この天使を相手に、三年間も婚約者という立場にいながら、デートの一つもしたことがないとは。理解に苦しむ。僕なんて即日だよ。色々と即日だったよ。


「温室の中と、その隣に薬草がたくさんあるらしいよ」

「見られるの?」

「勿論」


 薬草と聞いて、リラリーはパァと顔を明るく輝かせた。眩しすぎて、目を閉じてキスがしたくなる。おっと、ここは外だ。Stay。



 リラリーは、それはもう楽しそうに植物園を見て回っていた。

 僕としても面白かったのが、やはり彼女の薬草知識だ。植物園側が普通の植物や花として展示しているものの中にも、実は薬の材料、即ち薬草となるものが多数あった。

 それらの説明を、リラリーの可愛い口から可愛い声で発せられるものだから、僕のテンションも薬草知識も鰻登りだった。



 植物園の中庭に出ると、リラリーは少し僕から離れ、薬草畑に駆け足集合。満面の笑みで見入っていた。僕は、そんなリラリーに見入っていたわけだが、ふと、中庭にある土産屋に気付いた。

 そこには、可愛らしいラッピングを施されたお菓子が並んでいた。どうやら、植物園の職員が趣味で作ったお菓子のようだった。


 ―― 薬草クッキーかぁ


 あまり語って来なかったが、薬草は全体的に高価でなかなか手に入れることが難しい。

 薬草が希少なわけではない。薬草は、そこらへんに生えている。問題は、その種類を正しく見分けることが難しいのだ。区別する手間賃が、ひどく高い。


 さらに、薬草を薬草として手に入れたところで、正しい手順によって薬にしなければ、その効果は薄い。草をそのまま食べても、お腹を壊すだけだ。


 よって、普通は薬草を買うのではなく、薬そのものを買うのだ。

 ただ、薬草の区別をおざなりにして混ぜこぜで作られた薬や、有効成分が少ない薬、果ては紛い物の薬も多く出回っているため、信頼できる薬屋から購入しなければならなくなる。信頼に足る薬屋は、非常に少ない。


 理想を言えば、自分で区別した100%信頼のおける薬草を、自分で処理・抽出し、その薬を使用することが一番良い。

 そして、そんなことが出来る人材は、あまりいない。いたとしても、優秀な人材ほど、現住所が牢屋だったりする。探究心が過ぎる。


 ―― ルナ・レストランのメニューに、薬草を使った料理を追加できないものかな


 ついうっかりと、デート中にそんなことを考えてしまう。


 かねてより、リラリーの薬草知識をもっと活用できないかと、僕はこっそりと思っていた。

 そして、今回、リラリーが四種の危ない薬を作ったことを知って、このまま薬草学を自由に研究させるよりも、こちらから何か課題を与えて研究してもらった方が、『おいた』をすることはなくなるのでは、と思ったのだ。


 リリット家の御令嬢……コホン、将来のルーンバルト家の夫人が働くなど、普通は悪目立ちしてしまうが、ルナ・レストランに限っては僕の母親(現夫人)の功績があるからね。そんなに悪くは取られないだろう。


 早速、リラリーに話をしてみようと、彼女の姿を探すと、おいおいおい、どこぞの男と仲良く雑談中ではないか!


 ―― 油断も隙もないな


 僕は、勿論、全力疾走よりも速く優雅に歩いた。



「リラリー」

「あ、ルカ」

「こちらは?」


 リラリーをそっと引き寄せながら、僕はにこやかに男性を牽制する。何となく察したのだろう、男性は青い顔で挨拶を返してくれた。


「ししし失礼いたしました! 私、植物園のスタッフでして、はい!」

「この方、薬草畑を管理しているんですって。この薬草全部よ?」

「なるほど、それは素晴らしいですね」


 薬草という共通項があったから、盛り上がっていたのか。さぞかし馬が合うのだろう、憎らしい。


「リラリー、温室の方にも薬草があったよ。行ってみる?」

「温室の薬草! 気になるわ」

「では、僕たちはこれで失礼するよ。申し訳ないね」

「はははい! 滅相もございません!」 


 薬草の彼は、サッと離れてくれた。よしなに。


 そうやって、僕たちは寄り添い合って、向き合って、手を取り合って、真にデート楽しんだ。



 さて、疑問に思うだろう。黄色を飲ませているのにも関わらず、何故、ここまでしっかりと牽制する必要があるのかと。


 本当のことを語ろう。昨日、僕は黄色の小瓶――独占薬を自分で飲もうかと、一瞬だけ迷った。


 彼女の愛に対して、それと同じ重さを保つならば、独占薬は僕が飲むべきかとも思ったのだ。

 だが、僕はそもそもにリラリー以外を愛する気はないし、誰に言い寄られても一刀両断で冷たくあしらうと決めている。

 それが、揺らぐことはないと、深く僕を理解している。だから、僕が独占薬を飲むこと自体に意味はない。飲んでも飲まなくても、変わらない。


 それを言えば、リラリーもそうだろう。僕以外に気持ちを向けることもなければ、言い寄ってくる男性を断るなど容易い(補足程度に言えば、意外にも既婚者の女性の方が、そういう目的で言い寄られやすい風潮があるのだ)。


 彼女に貰った愛と同じ重さを保つためには、『リラリーには内緒で、彼女に黄色を飲ませる』必要があった。


 考えてもみてほしい。リラリーは天使の美貌を持っている。僕の主観で、可愛い可愛い言い過ぎているだけではなく、本当に可愛い。

 兄と婚約していたときでさえ、あちらこちらから言い寄られて、実際、婚約の打診も多数あった。


 その原因の一端に、兄がリラリーにあまり構っていなかったことが挙げられる。仲むつまじい姿をそこかしこで見せ付けていれば、ルーンバルト家に楯突いてまでリラリーに言い寄ろうとする男性も少なかったはずだ。

 もし、兄と同様に、僕の愛し方に少しでも隙があるならば、リラリーに近付こうとする男共は減らないだろう。


 でも、彼女は独占薬を飲んでいる。

 僕の愛し方に隙があったとしても、黄色の小瓶を飲んだ今は、パタリと言い寄られなくなるのだ。色恋沙汰に疎いリラリーだって、さすがにどこかで気付くだろう。『あら? 私、独占薬を飲まされている?』ってね。

 そんなこと、気付かれたら僕たちの関係はおしまいだ。『私のことが信用できないのね!?』なんていわれて、僕は儚くも嫌われてしまうだろう。


 リラリーに黄色の独占薬を飲ませておきながら、彼女にそれを気付かせない。それは、生半可な愛し方では叶わないだろう。

 彼女に近付こうとする男を僕が蹴散らし、彼女を愛していることを、大切に思っていることを、皆に見せ付けるような愛し方でなければならない。


 彼女に黙って黄色を飲ませることで、そう言う愛し方をし続けることを、僕は自分自身に課したのだ。彼女を深く愛し続けることを、永遠に誓った。


 そう。それが、僕の努力によって作られる不可侵領域だ。そこに、リラリーを大切にしまっておく。そのために、彼女に秘密で黄色の小瓶を飲ませた。


 分かるかな? 愛ってそういうものだろう。




「そうだ、リラリー。さっき、そこの土産物屋で薬草クッキーを見つけてさ」

「薬草クッキー。へぇ、珍しいわね」

「どうだろう。薬草を使ったメニューを、ルナ・レストランで提供できたらいいかなと思ったんだけど」

「薬草を使ったメニュー……ねぇ」


 薬草自体には興味があっても、料理には興味がないのだろう。リラリーは少し首を傾げた。

 僕は「思うんだけどさ、」と何の気なしに続けた。


「薬草って、僕たちの生活に必要不可欠で重要な割には、あまり認知されていないよね」

「そうなの! 悔しいことよ」

「それに、薬草単体の値段も高くて、普及しにくい」

「見分け方が難しいのよね」

「もっと認知度を上げて、薬草学を普及させる必要があると思わない?」

「思うわ!!」


 リラリーは握り拳で答えてくれた。可愛い拳だ。


「だからね、僕が森でも林でも連れて行くから、僕たちで薬草をたくさん採集して、それでルナ・レストランで薬草メニューを提供する。認知度を上げて、薬草の普及率をあげる。どうかな?」

「なるほど。とっっても素敵!」

「やってくれる?」

「もちろん!」


 こうして、天使の美貌を持つリラリー・ルーンバルトによって、薬草学の認知度は大幅に高まり、貴族の間で薬草学が大流行することとなった。彼女も毎日忙しく研究に勤しんでおり、おいたをすることはなくなったというわけだ。安心安心。


 ね? リラリーって、とっても可愛いでしょ?

 


【番外編 黄色の小瓶】・完


 


お読み頂き、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マシュマロ

↑メッセージやご質問等ありましたら活用下さいませ。匿名で送れます。お返事はTwitterで!
― 新着の感想 ―
[一言] 読了しました! 昨日の夜から、空いている時間あるいは空いていないはずの時間も費やして、夢中になって読みました 読み終えてみれば、ヤンデレカップルの綱渡り的な壮大な馴れ初めだったなと感じました…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ