表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/32

26話  15:45 貴方のお兄様

10月21日 10時頃投稿




「やぁ、こんにちは。リラリー嬢。夜会以来だね」

「ごきげんよう、ルーンバルト様。急にお呼び立てしてしまい、申し訳ございません」


 一応ご令嬢である私は、淑女の礼でお迎え。今日も若草色の髪が私を誘惑する。うっかりと溜め息が出てしまう鮮やかな若草色だ。


「嬉しいよ。可愛い婚約者からのお誘いだなんて、僕は果報者だね」

「ふふ、お上手ですこと」


 鳥肌が立っちゃう会話をしつつ、ルグラス様と私は、カフェの個室で紅茶を前に並んで座っていた(ルカが嫉妬していた)。


 さて、どうやって切り出すべきか。前置きとも言える適当な雑談をしつつ、私は考えを巡らせていた。

 何せ、相手は騎士だもの。下手を打てば、捕縛。若草色を目前にして、私は少し怖じ気づいていた。

 でも、そこはさすがルグラス様、察したように水を向けてくれた。


「何か、悩み事がある様子だね。浮かない顔をしているよ」

「ええ、有り難う御座います。……あの、ルーンバルト様は、私が薬草学の研究を趣味にしていることは、ご存知でしょうか?」

「あー……、そう言えば母から少し聞いたなぁ。確か、二年ほど前かな? 母の頭痛を治してくれたとか。その節は、世話になったね」

「そんなことも御座いましたわ」

「……もしやに、結婚後も薬草学の研究をしたいという話かな?」

「いえ、そういうお話では御座いませんの。お忙しいルーンバルト様のお時間を取らせては、申し訳ございませんわね。単刀直入に申し上げます」

「ありがとう」


 私は、ふぅと一息吐いて、カッと目を見開いてから申し上げた。


「ルーンバルト様の若草色の御髪を一房、可能な限り多めに頂けませんか?」

「髪を? はぁ? え、何か怖い……俺、呪われるの?」

「違いますわ、薬草学における希少材料なんですの」

「はぁ?」


 私は、恐る恐る、例のレア材料の本を見せた。うっかりと、一番上にルカの名前を書いちゃったものだから、何となーく隠し隠し見せた。

 でも、ルグラス様は、ルカの文字なんか気にならないみたいで、上から下まで食い入るように若草色の髪の項目を目で追っていた。目が血走っていた。


「リラリー嬢っ!!」


 ―― ひっ! やっぱり捕縛!?


「これマジ!?」

「へ?」

「マジ!?」

「ええ。マジ、で御座いますわ」

「マジか~!」


 ルグラス様の紳士仮面が剥がされた。元々ペラペラだった仮面だけど(ルカが頭を抱えてた)。


「えー、ビックリなんだけど!」

「サヨウデゴザイマスカ、ホホホ」

「堅苦しいの無しにして、話してい?」

「は、はぁ」


 ―― 軽っ。本当にルーンバルトの嫡男? 私、この人と夫婦として、やっていけるのかしら


 結構、不安になった。


「本当に俺の髪で薬作れんの?」

「試してみないことには分かりかねますが、可能かと存じます」

「すげぇな。人生なにがあるかわかんねぇもんだなー」

「あの、この事は……」

「ヒミツっしょ? 分かってる分かってる~♪」


 軽い。無重力。


「良いんですの? ルーンバルト様は……」

「あー、騎士団だからって? ま、そりゃそうだよね」

 

 ルグラス様はニヤニヤしながら、やたら長い脚を組み上げた。どす黒い雰囲気だった。


「どうしよっかなぁ、脅した方がいい?」

「……!?」

「うっそだよん♪ まぁ? 脅してもいいんだけど、なるべく穏便にいきたいよねー。()()()()()()、半年後には俺たち家族になるんだし?」

「ルーンバルト様をお支え出来るか、自信が無くなって参りましたわ、おほほ」

「ははっ! リラリー嬢は可愛いから、俺はウェルカムだけどね」

「有り難く存じます」


 そこで、ルグラス様は余裕たっぷりに紅茶を一口。窓の外を見ながら、謎に憂いの表情になった。


 そして、「はぁ……」と悩ましげな溜め息を吐いた。美しい若草色の髪が溜め息の風を拾って、僅かに揺れた。



「働きたくない。穀潰しに、なりたい……」



 憂いている表情は美しかったが、言っていることは美しくなかった。


「騎士団、辞めたい」

「はぁ」

「正直、結婚して嫁の人生を背負うのとか、だるい」

「なるほど?」

「子供とか生まれて背負う人生が増えるの、勘弁」

「なるほど」

「だがしかし、野垂れ死にしたくない。ラクして幸せに、息だけしていたい……」


 最も低いと書いて、最低だった。


「というわけで、リラリー嬢には感謝しているよ。これは口止め料かつ、感謝の気持ちだ。何に使おうとしているのかは、探らないでおいてあげる。何となーく分かるしね」

「は、はぁ?」


 そう言って、ルグラス様は持っていた短剣で髪を一房切った。そして、レア本と共に、私にそっと渡してくれた。


「俺は応援しているよ。Goodruck!」


 そう言って、立ったまま紅茶を飲み干して、にこやかに去っていった。お行儀が悪いなと思った。



 というわけで、案外すんなりとレア材料を手に入れたのだった。

 まさか、この後にルグラス様が騎士団を無断欠勤し、放蕩者になって婚約解消になるとは思わなかったけれど。


 本当、人生って何があるかわからないものね。





おまけ


【上の話を聞いた僕】


「本当に、なんて言ったら良いか。最低な兄貴で、申し訳ない」

「謝るのは私の方よ。まさか、放蕩者になるなんて。キッカケを与えてしまったこと、後悔しているわ」


 そこで、僕はこれまでの人生を振り返った。たまたま決定打のキッカケがリラリーだっただけで、幼少期から兄は割と最低だった。


「小さい頃さ」

「急に懐古が始まったわね」

「お菓子をあげるからと言われて、訳も分からず兄さんの課題を代わりにやっていた」

「……何歳差だっけ?」

「6歳」

「逆にすごいわね」

「他にも、兄さんが壊した調度品なのに、僕が犯人にされていたり。門限破りのアリバイを頼まれたり。兄さんの剣の手入れなんかも、ずーっと僕がやっていたなぁ」

「よく仲違いしなかったわね……」

「上手いんだよ、フォローが。あれはもう神業だね。憎めない」


 僕は、若草色のクソ兄貴のことを思い返した。本当に、フォローが上手いんだよなぁ。今回も憎めなさそうだ。


 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マシュマロ

↑メッセージやご質問等ありましたら活用下さいませ。匿名で送れます。お返事はTwitterで!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ