表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/32

1回目 16:35 ノーカウントにしない僕

10月14日 10時15分投稿分



 時計を見る。時刻は、16:30。


 僕は、この時間を記憶に刻んだ。夕焼けのオレンジ色が、割と強めに僕の脳を刺激した。



「惚れ薬? 本気で言ってる? それも君が作ったの?」


 早口でまくし立てる僕に、リラリーは気まずそうに視線を彷徨わせた。うろうろ。

 でも、そんな視線とは裏腹に、彼女はしっかりと返答してくれる。彼女のこういうところが好きだったりする。


「そう。24時間以内に解呪しないと、24時間後には体内で惚れ成分が広がって、一番初めに見た異性を好きになるの」

「24時間……。解呪薬は?」

「材料がなくて、作ってないわ」

「他に、解呪方法は?」


 リラリーは、少し間を置いて「無いわ」と言った。


 ―― あ、梯子を外された(見捨てられた)



「そう、無いんだ? ふーん」


 リラリーのことは大好きだ。だから、どんな彼女でも楽しめる自信があった。でも、これはさすがに少しだけ怒った。内心で、ひっそりと。


 ―― その口、塞いでみようか


 リラリーがその気なら、僕もこうするしかない。僕は殊更、温厚篤実な笑顔を向けて「仕方ないね」と言った。


「じゃあ、今から僕は解呪のために、騎士団に事情を話して保護してもらうよ。騎士団なら王城の薬草学研究者に繋いでくれるだろうし、そしたら解呪薬も作ってくれるはず」

「はい、いってらっしゃいませ」


「でも、そしたら、君は捕縛されるね?」

「え?」


 リラリーは、きょとんとした。きょとん顔も、驚くほど可愛い。


「知っているくせに。精神に寄与する薬の製造・販売・譲渡は、国で禁止されている。だから、製造者かつ譲渡者であるリラリーは捕縛されて、牢屋の中。残念だけど、解呪方法がないなら仕方ないね」


 めちゃくちゃ早口で言ってやった。クルリと背を向けて、軽く手を挙げて『Good-bye』の意を示す。


 自覚してほしい。

 梯子をかけているのも、それを外せるも、僕の方だ。


「ちょ、ちょっと待って!」

「なに?」

「敢えて、解呪をしないというパターンは?」


 僕は「無い」と言って、ため息をついた。


「あと、24時間で誰とも分からない女性を好いてしまうんだよ?」

「それが運命の相手かも!」

「……運命の相手なら、惚れ薬いらなくない?」

「ナルホド」


 リラリーが言いよどむ姿が可愛くて、僕はやれやれと言った感じで、軽く微笑んだ。


「あのね、リラリーは知らないかもしれないけど、僕には立場があるんだよ。おいそれと、変な女性を好きにはなれないんだ。かと言って、恋をしても良さそうな相手を見繕うには、24時間では足りない」

「うぅ……」

  

「それとも、君を守るために人生を棒に振れと? さっき君に振られたのに?」

「うぐっ」

「自分で撒いた()だね」


 リラリーは、押し黙った。口を塞ぐことに成功だ。


 ―― もう、一押しかな?


 心の中でニヤリと笑って、また背を向けてやった。(すがり)りつく、可愛い君が見たくて。


「じゃあ、リラリー。お元気で」

「はぁ……はいはい、分かったわよ。意中の人がいる場合は、裏技的な解呪方法があるわ」

「やっぱりね。初めから言いなよ」

「くっ……」


 リラリーは悔しそうに口の端を噛んだ。


 ―― うわぁ、かっわいいー♪


 この表情、僕のツボをグイグイに押してくるんだよね。


「貴方、とっても性格が悪いのね」

「そう? 僕のこと、一つ知ってもらえて嬉しいよ。それで、解呪方法は?」


 リラリーは、不服そうに小さな声で答えた。


「……一時間ごとに、キスを、するのよ」


 僕は、目を点にした。


「キス? 誰と?」

「……好きな人と」

「ということは、リラリーと?」


 さすがにテンションが上がってしまい、「ひゅぅ♪」と茶化すように口笛を吹いてしまった。リラリーは、口笛こそ吹き返しては来なかったけれど、口を尖らせた。

 この口先にキスが出来ると思ったら、正直、めちゃくちゃ(たぎ)ったよね。僕だって、男だ。


「でも、意中の人がいる場合だけどね。さっき、気持ちは冷めたと言ってたわよ……ね?」


 僕は「ははっ」と小さく笑って、顔の前で軽く手を振った。


「まさか。冷めてない。大好きだよ」

「ストーカー予備軍……」

「ずっと愛してる」

「……キモチワルっ」

「ヒドいね、ははは」


 リラリーはギロリと僕を睨んで、「キスをするわ」と承諾した。


「その代わりに」

「騎士団には黙っておく。安心して」

「絶対?」

「もちろん。交渉成立だね」



 夕焼けオレンジ、『勇気』の二文字。それらをよいしょと背負いこんで、彼女にゆっくり歩み寄る。



 もう二度と、僕を覚えてないなんて、言わせない。



「これから24時間、よろしく」


 そう言って、リラリーに顔を近付けた。心臓がドクンドクンと跳ね上がる。恋の音だ。



「一時間目のキスを、どうぞ?」



 僕がそう言うと、リラリーは心底嫌そうな顔をした。そして、背伸びをして顔を近づけて、そこで一度止まって、おずおずと言い出した。


「私、キスするの、初めてなんだけど」


 ―― そうなの!? うわ、うわぁ、そうなんだぁ


 嬉しかった。とっても嬉しかった。


「奇遇だね。僕もだよ」

「そ、そう……」

「でも、これは解呪のためだから。気持ちが伴わないキスは、()()()()()()だよ」


 敢えて悪戯に笑うと、リラリーは戸惑う素振りを見せてから、諦めたように小さく頷いた。

 可愛い瞳を目蓋にしまいこんで、嫌そうにギューッと眉間に皺を寄せて、触れるだけのキスをしてくれた。


 チュッと可愛いリップ音が、部屋に響いた。


 ―― 可愛い、大好き



 勿論、僕は目を閉じなかった。


 キスの瞬間、彼女の綺麗な瞳が閉じられた、その瞬間に。彼女のキス顔を堪能しながらも、僕は三色の小瓶をポケットに入れるのに大忙しだったからだ。


 赤、青、緑。三つの小瓶を。


 うるさいくらいに、心臓がドキドキとした。



「リラリー、ありがとう」

「ドウイタシマシテ」

「それにしても、24時間かぁ」

「長い、辛い、(むご)い……」

「酷い。でも、せっかくだから、僕のことを知ってもらおうかな」


 そう言って、僕の唇についた僅かな口紅を、軽く親指で拭った。


「これから、たくさんキスする相手だし、ね?」



 ファーストキスの温もりは、夕焼けの熱だった。


 一生、忘れられない24時間にしてあげる。


 残り、23回。







お読み頂き、感謝いたします。


主人公は、腹黒です。

爽やかなヒーローではございません。ご注意願います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マシュマロ

↑メッセージやご質問等ありましたら活用下さいませ。匿名で送れます。お返事はTwitterで!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ