第九十四話 僕は弱い
「ガッカリダ。モットツヨイハズダガナニヲシテイタ」
いつのまにか、二メートル程の大きさの一体の青いオーガが部屋の中にいる。頭の中で警鐘が鳴り響く。こいつは危険だと皆も感じ取っているようだ。
『詩音、帰還石を発動させろ!』
どうして何も起こらない。
「どうした?詩音」
「帰還石が発動しないっす。何度もやってるけどダメっす」
何故帰還石が使えないんだ。どこからでもダンジョンの外に転移出来る筈だ。たとえボス部屋の中でもだ。
「ココカラハデラレナイゾ」
青いオーガが訳の分からないことを言ってくる。
「どうしてここから出られない。何故お前は人の言葉を話すことが出来るんだ」
「イマ、スベテノコウカヲムコウニシタ。オマエノハナスコトバヲキイテイタ」
「すべてとは、何のすべてだ」
「オマエタチガモッテイルモノダ」
腕輪から何かを取りだそうとしてみるが何も出て来ない。マジックアイテムが使えないようになっているのか?
「どうやったら僕達は出られるんだ。お前を倒せばいいのか」
「オレヲタオス。ソンナムリハイワナイ。コレカラデテクルヤツトタタカエ。カテバココカラデラレル」
「何故そんなことをする」
「オマエニハツヨクナッテモラウ」
「何故僕が強くなることが必要なんだ」
「ソンナコトハカンガエナクテイイ。ツヨクナレ」
「お前は何なんだ」
「オレノコトハシッテイルハズダ。ホンヲワタシタ」
「本?何時だ?」
「タカラバコトイウモノノナカニイレタ」
「大阪ダンジョンの本か?お前は大阪ダンジョンにいるのか?ここは大阪ダンジョンの中なのか?」
「ココハオオサカダンジョンデハナイ。モウイイナ」
魔法陣から魔物が出てきた。大剣を持ったゴブリンキングだ。今の実力では即撤退と思っていたゴブリンの最上位種だ。こいつと戦わないといけないのか。青いオーガよりはマシだと考えて全力を出して戦うしかないな。
靴の風魔法を使おうとするが、風魔法が発動しない。持ち物全ての効果が無効になっているのか?僕が装備しているマジックアイテムは靴と刀、そして指輪が三つと腕輪が二つ。全てが無効になっているなら、どうやって戦えば勝てるのか想像出来ない。
ファイヤーボールをゴブリンキングに撃ち込む。魔法効果増大の指輪の効果がないから、いつもよりも弱い。ゴブリンキングに命中したが、何もなかったかのようにこちらに向かい動き出した。絶体絶命だな。
ゴブリンキングが大剣を僕に振り下ろしてくる。僕とゴブリンキングの間に一人割り込んできた。皐月だ。皐月がゴブリンキングの攻撃を盾で受け止めようとしたが、盾に攻撃が当たった瞬間に皐月は吹き飛ばされていた。
「皆はゴブリンキングと戦わなくて良い。僕が相手をする手を出すんじゃないぞ」
言ってはみたが、何か策があるわけではない。とにかく突っ込んで行き、近接戦闘で倒すしかない。一合、二合と打ち合うが完全に押されている。吹き飛ばされていないのが不思議なくらいだな。更に打ち合う。握力がなくなってきた。本当にヤバイな。
詩音が僕が打ち合う途中で割り込んで来る。アイテムボックスから槍を出し脚に突き刺す。硬い皮と筋肉がこの攻撃を通さない。詩音はゴブリンキングの一振りで吹き飛ばされた。
「皆、無理をするな。僕がなんとかするから、手を出さないでくれ」
僕が弱いせいで皆が傷ついていく。僕はなんて無力なのだろう。マジックアイテムの力で過信していた。なんで何も出来ないのだろう。
美姫がゴブリンキングに矢を射る。連射する。ゴブリンキングは鬱陶しそうに矢を払い、美姫に向かって走りだし剣を振り下ろす。ヤバイぞ、危ないぞ。
「美姫、避けろ!」
ゴブリンキングの大剣が当たる直前に真姫が美姫を突き飛ばした。間一髪である。良く間に合った。僕はゴブリンキングに向かって走りだし刀で切り付ける。ガムシャラに刀を振る。何合か打ち合ったときに僕の刀は折れた。不壊の効果もなくなっているようだ。万事休す。どうすることも出来なくなった。
「オマエガヨワイカラミナガキズツク。オマエガヨワイカラミナガシヌ。ウデガナクナッタソイツハスグニシヌゾ。キタイハズレダ。オマエガヨワイカラミナデシネ」
腕がなくなっただと、何を言ってるんだ。周りを見ると真姫が倒れている側で美姫が泣いている。
「美姫、真姫に高級体力ポーションを飲ませろ。傷口にもかけるんだ」
なんで僕はこんなに弱いんだ。
「おい、オーガ、お前の持っている刀を貸せ。僕に強くなって欲しいんだろ。見せてやるよ。早く貸せ」
僕の中で何かが変わった。僕は弱い。でも、皆を守る。
「イイダロウ。コレヲツカエ」
青いオーガが刀を投げて寄越した。僕の目の前の地面に刺さった刀を手に取り一振りする。悪くない感触だ。少し待っててくれ。皆で帰ろう。
ゴブリンキングにもう一度向かっていく。一合、二合と打ち合うが、今度は打ち負けない。体格で圧倒的な差があるが打ち負けない。打ち合う途中で軽くいなす。バランスが崩れたゴブリンキングに鋭い剣戟が届く。もう負けない。誰も傷つかせない。ゴブリンキングを連続で斬り裂いていく。倒れ込んで来るゴブリンキングの首を落とした。
「クククク、オマエモオニニナッタカ。ダガ、マダタリナイ」
「ああ、分かっている。お前に勝てるほど強くなるよ。一つ聞いていいか。マジックアイテムを無効化することは大阪ダンジョンでは皆出来るのか?」
「キョウハイッカイダケノトクベツダ。フツウハデキナイ」
「刀を貸してくれて助かった。でも、僕以外の人は今後巻き込まないでくれ」
「ヤクソクハデキナイ。オマエガツヨクナレバモンダイナイ」
刀を返した後に青いオーガはいなくなった。転移したのだろうか?
「美姫、真姫は意識があるのか?」
「いいえ、気を失っているわ。でも呼吸は安定している。命に別状はないようね。でも、私のせいで・・・」
「僕のせいだよ。僕が皆を巻き込んでしまった。まずは皆で帰ろう」
ドロップアイテムを拾い、宝箱を開けて中身を収納した。皐月と詩音も気を失っている。二人を少し強引に起こして高級体力ポーションを飲ませた。ボス部屋の奥に転移の柱がある。やっと皆で帰れる。ダンジョンの外に転移した。
宝箱は虹色だったが、嬉しさは一つも感じない。僕達の圧倒的な負けだった。