第八十五話 三十階層攻略と魔物肉料理
次の火曜日からも岡山ダンジョンの攻略を進めた。新メンバーが入る度に低階層からのリスタートになるが連携を深めるのにはちょうど良い。五階層進むごとに話し合い、いろいろなフォーメーションを試す。念話が出来るのも大きなアドバンテージになる。
『麟瞳さん、料理のコツは聞いてくれた?』
たまに変な念話も飛んで来るのが真姫スタイルだ。次のセーフティーゾーンで話をしよう。
「別にコツはないと言っていたよ。普通のレシピで最初は作って、食べてみてからアレンジをしていくらしい。普通に誰でもしていることだろと言っていたよ」
「何かがあるって父が言うのよ。今度、麟瞳さんのお母さんとお話出来ないかしら?」
「母親は専業主婦だから大丈夫だとは思うよ。都合のいい日はあるの?」
「父に聞いてみるわ」
「真姫の父親と話をするの?それは大丈夫じゃないかもしれないな」
たまには攻略に関係ないことの話もしながら、五人のパーティで進んで行った。
月火木金とパーティで活動して、水土日は自動車教習所と倉敷ダンジョンに通う。よく考えたら休み無しで働いているよ。
「美姫、僕達休み無しで働いている働きアリになっちゃってるよ。何処かでいっぺん休みを取ろうか?」
「ちょうど良いわ。真姫からの伝言よ。今度の日曜日の午前中でお願い出来ないかなと言っていたわ」
水曜日の教習所で美姫と話しているときにした会話だ。母親に許可をとらないといけないが、その日はいつもより多めに魔物肉の確保をしておいた。
「何にも特別なことはしてないからな。それで良いなら話はするよ。まあ作ることしか出来ないけどな」
無事に母親の許可をもらい、日曜日の午前中に橘家のお店で実演をしながら話をすることになった。お店は飲み屋でもあると言うと、父親が一緒に行くと言い。それなら私もお邪魔するねと綾芽も言いだし、結局家族全員で行くことになった。橘家の皆さんお世話になります。
木金と岡山ダンジョンの攻略を進め、金曜日には三十階層のボス部屋攻略に成功した。ボス部屋はゴブリンファイター、ゴブリンソードマン、ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジ、ホブゴブリンが複数ずついる、なかなか迫力のあるゴブリンパーティだが、遠距離攻撃者が二枚いる僕達《千紫万紅》に取っては良い練習相手になった。危険なゴブリンアーチャーとゴブリンメイジには美姫のヘッドショットと僕のファイヤーボールでいち早く退場してもらい、残りの前衛ゴブリン達を連携を取りながら倒していく。皐月の挑発と安定した護りを軸に真姫と詩音で削っていく。隙の出来たゴブリンには美姫の矢が突き刺さる。僕は自由に動いて横から後からゴブリンを襲う。危なげなく討伐完了だ。皆でハイタッチして、ドロップアイテムと金色の宝箱の中身を回収した。僕以外のパーティメンバーは金色の宝箱は初めての体験らしくかなり興奮していた。僕が代表して宝箱を開けた。運がいい人が開けた方が良いものが出るかもしれないという、正輝のような思考をする美姫によって決められた。真姫が残念そうにしていたのが印象に残っている。
最近一番変わったのは宝箱の中身だ、パーティに必要のなさそうなものがよく出てくるようになった。資金は増えるが戦力は増えていかない、なかなかもどかしい思いをする。この一週間で手元に残したマジックアイテムは二つ、月曜日の魔力回復の指輪と金曜日の金色の宝箱から出た不壊と火魔法の付与された剣である。どちらも詩音が装備することになった。詩音はパーティに入ったばかりなので、いきなり二つのマジックアイテムを任されて恐縮していたが、他に適任者はいない。これは早く詩音を戦力アップさせろということなのかも知れないと変に勘繰ってしまう。
土曜日は教習所の後に倉敷ダンジョンで更に肉のストックを増やした。美姫のマジックポーチには入り切らないので僕が収納して明日に臨もう。
そして日曜日に橘家を訪問して、僕の母親と橘父さんで交互に魔物肉の料理を作っていく。僕の母親はマジックアイテムの調理道具をフルに使いながら料理を完成させていく。調理道具について橘父さんから母親に質問がされるが、息子がダンジョンから出たものをプレゼントしてくれたのさで会話は終わりである。
橘父さんも研究を重ねているので完成度が素晴らしいようだ。母親も調理方法を見て、分からないことは質問をして刺激を受けているようだ。ここまでの母親の嬉しそうな表情は久しぶりである。今日来て良かったなと思ったよ。
当然作った料理は消費しなければもったいない。僕の父親はいつも通りビールを片手に料理をつまみ、美味いと一人悦に入っている。
綾芽も皐月との再会を喜び、真姫と美姫も一緒になって話しながら料理を楽しんでいる。詩音は昨日から山口に帰っているそうだ。僕が月曜日に言ったことをしっかりと実行しているようで何よりだ。
僕は橘母さんと話をしていた。娘がダンジョンに入ることを心配しているが、最近の嬉しそうな表情を見たり、言動を聞いていると美姫は三月終わりに帰ってきたときよりも生き生きしていて、真姫も何故かやる気になっていると、これからもよろしくお願いしますと言われてしまった。こちらの方がお世話になっていることの方が多いと言っておいた。勿論美姫さんにはというところは強調しておいたよ。
沢山の料理を作った後に、マジックアイテムで料理が一層美味しくなっているのではないかという結論になった。包丁、ミンサー、ピーラー、フライパン、鍋など母親は大量のマジックアイテム所有者だからね。
橘父さんは真姫と美姫に、マジックアイテムをよろしくと言っていたよ。二人は大変だね。
残った料理はお弁当にしてもらって、すべてが美姫のマジックポーチと僕の腕輪に収納された。最後に残ったのは陽気なおじさんになった僕の父親だ。