第八十二話 詩音①
月曜日はいつものように朝の鍛練を行い、いつものバスに乗って岡山ダンジョンに到着した。探索者センターの中のいつもの場所でパーティメンバーと落ち合い、着替えた後に、いつものようにダンジョンに入る手続きをする。いつもと違うのはパーティメンバーの人数だ。
「君、誰?」
「原田詩音っす。今日はよろしくお願いしまっす」
何で昨日の今日でいるんだよ。美姫も連絡くれてもいいと思うんだけど。
「リーダーごめんなさい。昨日あれから詩音に連絡を入れたら、今日の始発の新幹線で岡山に来てしまったの。朝早くからリーダーに連絡するのも悪いから、後でしようと思ってたら連絡しそびれてしまって、本当にごめんなさい」
「麟瞳さん、美姫をあまり責めないで。面白そうだから黙っておこうと言ったのは皐月と私なの」
「オレは真姫が言うから、面白そうだと言っただけだろ。着替えに行くときにリーダーが気づいてないのが笑えたぞ」
「じゃあ僕は真姫を責めれば良いんだな」
「いやいや、そこは美姫を許しておしまいでしょ」
「黒幕が分かったんだ。おしまいにする訳にはいかないだろ」
このパーティは切っ掛けがあればすぐに不毛な会話に進んでいくな。今回は僕も一緒に入ってしまったけど。
「原田さん、すみません。うちのパーティはいつもこんな話になるんですよ。大体真姫が主犯です」
「皆仲が良いっすね。羨ましいっす。私のことは詩音って呼んで欲しいっす」
「じゃあ、詩音って呼ばせてもらうよ。話は練習場でしようか?」
受付を終わらせて武器ケースの封印を解いてもらい練習場へと移動した。
「美姫、今日の探索の配分は言ってあるのか?」
「ええ、いつもの配分を伝えてるわ。詩音も納得してここに来ている筈よ」
「今日の配分には文句ないっす。自分の力を見てもらってパーティに入れてもらいたいっす」
「詩音はどのポジションでもこなせると聞いているんだけど、特にやりたいポジションはないの?」
「一つのポジションにこだわったら私の良さが出せないっす」
「今日はタンクとアタッカーの両方を見せてもらおうか。盾は用意してないの?」
「用意してるっす。スキルで盾は出せるっす」
「それは凄いスキルだね。最後に一つ聞いて良い?」
「何でも良いっすよ」
「その話し方は素なの?それとも作ってるの?」
「最初は作ってたっす。ずっと使っているうちにこれが普通になったっす」
探索を始めよう。ダンジョンの外側の扉を探索証を通してくぐり、パーティ登録をしてから転移の柱に皆で触れて一階層に転移する。転移した場所はセーフティーゾーン、ここで最後の確認をしておく。
「最初はゴブリンも多くて三匹の集団だ。アタッカーをしてもらおうと思うが、タンクは必要か?」
「普通のゴブリンなら大丈夫っす」
詩音の武器は片手剣、単独ゴブリンに静かに近づき切りつける。今度は二匹のゴブリンを相手に槍で突く。そして連続で突く。ん、おかしいぞ?
「いつ武器を持ち替えたんだ?それに最初に使ってた剣は何処にいったんだ?言いたくなければ、言わなくて良いよ。ちょっと気になったから聞いてしまったんだ」
「これは私のアイテムボックスっていうスキルっす。よそでは言わないで欲しいっす」
「教えてくれてありがとう。アイテムボックスってラノベの定番スキルだよね。絶対に他の人に言わないから」
そういえば僕の腕輪もアイテムボックスと同じようなことが出来るんだよね。もしかしたら、とんでもない攻撃が出来るのかも知れないな。ただ、手で触れないと収納できないし、取り出すときも手で触れている。この制限がある中で何が出来るか考えてみよう。
攻略は進み四階層に続く階段を降りる。
「次の階層から五匹のゴブリンパーティも出てくる。タンクがいた方が良いと思うんだが必要か?」
「普通のゴブリンなら大丈夫っす」
今度は左手にバックラーという丸盾を装備して右手には剣を持ち進んでいく。複数のゴブリンを相手に攻撃をバックラーでいなして剣で切り付ける。途中で短槍に持ち替えて刺突攻撃を仕掛ける。自由自在に武器を持ち替えて攻撃を加えるのが詩音のスタイルのようだ。五階層のボス部屋に着いた。
「ここのボス部屋は六匹のゴブリンパーティで、ゴブリンファイターが入ってくる。タンクを入れて戦うか?」
「じゃあお願いするっす」
「皐月、頼んだぞ」
「やっと出番だ。任せておけ!」
ボス部屋に入り、扉が閉まる。戦闘の開始だ。皐月が挑発でゴブリンの注意を引き、誘っている。そこに静かに近づき槍で仕留めていく。一匹ずつ確実に仕留めてすべて討伐した。
「凄いっすね。私には全然ゴブリンの視線が来なかったっす」
銅色の宝箱が現れた。中身を回収してボス部屋奥の階段を降りて六階層の転移の柱の前に来た。詩音の登録をして、少し早いがセーフティーゾーンでお弁当を食べよう。