第七十六話 オークションに出品
ダンジョンを出てから最初に向かうのはいつもの武具店、僕の刀と真姫の槍を見てもらう。
「いつもの自動修復の効果のある刀はどうしたんだ?」
刀を見てくれるのは、以前綾芽の練習用の槍を用意してくれた人だ。信頼できる人にメンテナンスを任せられるのはありがたいことだ。
「折れてしまいました。気に入ってたんですけどね。残念です」
「自動修復があっても折れたのか?何と戦ったんだよ。ありえないだろ」
倉敷ダンジョンでの戦闘を話しておいた。
「そいつに止めを刺した武器を見てみたいな」
「今度持ってきますね。メンテナンスもしてほしいですしね」
今日もクリーニングだけしてもらって武具店を出て、買取りをしてもらいに入場受付に向かった。
部屋でドロップアイテムを出して、常盤さんが処理をするために退出して行った。
「なあ、三人は仲良くなったようだけど何かあったのか?特に、美姫と皐月が仲良くなっているのにはビックリしてるんだけど」
「三日も一緒にいたから、ただのバカだと言うことが分かっただけよ。すぐにカッとなるところはあるけど悪意は感じないわ。言葉遣いが悪いのが印象を余計悪くしているようね」
「オレは元々仲良くなりたかったから嬉しいぜ」
「真姫と美姫は皐月を信用できるのか?」
「悪意で何かをすることはないわね。ちょっとユニークギフト所持者ということで鼻が高くなっていたようだけど、私のダンジョンカードを見せたら大人しくなったわ。特別ではないことをコンコンと説明してあげたからね」
「私は分かる部分が多いせいか気持ちは理解出来るの。店での接客も一生懸命してたわ。三日でたくさん話したし、歳も同じだからすぐに仲良くなれたわ」
真姫と美姫が信用できるなら良いかなと思った。
「買取りが終わったらスキルについて話をするよ。少しこの部屋を使わせてもらおう」
「私達の家に来ない?センターの人に無理ばかり言ってはダメよ。何処かで線を引いていた方が良いと思うわ。晩御飯もうちの店で食べて帰れば良いわよ」
美姫の言葉に甘えることにする。家には晩御飯を食べて帰ることをすぐに伝えた。いろいろと橘家のお店について話しているうちに、常盤さんが中里さんと一緒に戻ってきた。部屋に入ってくるなり、中里さんは興奮した様子で僕に握手をもとめてきたよ。なんだかよく分からないが、とりあえず握手をしておく。一体何なんだろうね。
「いやー、凄いです。今回も宝箱から出た物でしょうか?」
「そうですね、十五階層は銅色の宝箱でポーションと腕輪が入ってました。二十階層は銀色の宝箱でポーションと槍が入っていましたね。凄いものでも入っていたんですかね?」
「はい、ビックリするような物が出て来ましたよ。ありがとうございます」
最初は普通に内訳を聞いて、まずまずの収入が得られたことに満足していた。
「マジックアイテムの鑑定結果ですが、腕輪は剛力の効果が得られる物です。買取り価格は二百万円です。槍は自動修復と重量軽減の効果が付与されています。買取り価格は一千万円です。最後にマジックアイテムではないのですが、特級ポーションが買取り価格五千万円です」
「特級ポーションですが、保管しておくなら別ですが売るならオークションが良いと思います。個人で売買しても良いですが確定申告をしないといけません。オークションであれば手数料8パーセントはかかりますが、探索者がドロップアイテムを出品した場合は買取りと同じで税金15パーセント分を引かれるだけで済みます。特級ポーションだと一億円は超えると思いますし、出品者は匿名にすることも出来ます。岡山ダンジョンからの出品として出せます」
まさか特級ポーションがあったとは驚きだ。中里さんの言葉の最後がやけに力が入っていたが、収納しておくのも一つの手である。いつ何が起こるか分からないからね。四人で相談する。
「どうする?取っておくのも良いと思うが、売れば莫大な収入を得られるな。装備品を一新できると思うよ」
「リーダーのバトルスーツはどれくらいしたの?参考にさせて」
「バトルスーツとヘルメットを合わせて二千万円くらいだな。当時の貯金を全部使ったよ」
「二千万円?凄い装備なのね。Aランクの探索者はそれくらいの装備が必要なのかしら?」
「ああ、前のパーティのリーダーがこれを着ていたんだ。他にも有名な探索者でこのメーカーのバトルスーツを着ている人は多いな」
「上を目指すなら必要なのかな?」
「オレは真っ黒は嫌だぞ。それに今すぐ必要だとは思わない。練習場で言ってたジャケットの代金には使うけどな」
「私はそこまで行けそうにないし、そこまでの装備は必要ないわ。皐月と一緒でジャケットの代金にはしたいと思う」
ジャケット作りは確定しているようだ。オークションで資金を調達することになった。
「昨日なんですが、倉敷ダンジョンでレアモンスターと戦闘を行ったときに、武器ケースの封印を自力で解いたんです。その後、そのケースが探索者センターで封印できなくなってしまったんですけど、どうすればいいんですかね」
「自力で封印を解くというのがよく分からないんですが?」
「僕のスキルに武器ケースの封印を解くことが出来るものがあるんです。これがその武器ケースです」
実際に不壊と風魔法が付与された刀を入れていた武器ケースを出す。
「封印の処理をしてみますね」
常盤さんがいつものように封印の処理をするがやっぱり出来ない。
「詳しく仕組みが言えないのですが、この武器ケースは使えないようになっていますね。新しく購入していただくか、別のケースの登録を変更するかですね。武器ケースに入れていない剣刀類はダンジョン管轄外の場所での所有は禁止されています。龍泉様ですと腕輪の中で保管することは大丈夫ですが、刀を外に出すとアウトですね。どうされますか?」
「別のケースの登録変更でお願いします。前の刀が折れたのでそのケースに変更してください」
中里さんと常盤さんも前の刀が折れたことに驚いていた。二人とも刀の性能を知っていたからね。今回獲得したマジックアイテムは腕輪は皐月、槍は真姫が使うことになった。真姫は新しい武器ケースを買って封印してもらっていた。とても嬉しそうにしていたのが印象に残る。美姫は二人に貸し出しだからねと念を押していた。
十層攻略したので、買取り金額もまずまずだ。いつもの配分で皆のカードに入金してもらった。では、着替えて橘家にお邪魔しに行きましょう。