第七十三話 変異種討伐とCランカー
諦めるわけにはいかない。まず高級ポーションを飲んで体力を回復する。一気に飲み干した。正輝に一本貰っておいて助かった。まだ戦うことが出来そうだ。
予備の武器の封印を解いてもらっていない。まさか棍棒で戦うことは出来ないな。まず出来ることをしよう。靴を風魔法の付与されたものに変えた。かなりスピードが速くなるはずだ。こんな事なら履いて慣らしておけば良かったと思うが後の祭りだ。
方向転換したボアが向かってきた。直前で回避する。この靴ならボアから逃げきれるかもしれない。まだダメだ、綾芽達が目視出来る。もうちょっとボアを引き付ける必要がありそうだ。また向かってきたボアを回避した。もう一度向かってきたボアを回避したときにボアがそのまま通り抜けて綾芽達の方へと向かった。まずい、この距離でなんで追いかけていくんだよ。見立てが甘かった。
封印された武器を取り出す。またあの心が感じる感覚が襲ってくる。僕は武器ケースの封印を解いた。手にしたのは不壊と風魔法が付与された刀だ。全力でボアを追い越し、ボアと向き合う。刀を上段に構えて全力で振り下ろす。大きな風の刃がボアを正面から襲う。すれ違いざまに刀で足元を全力で払う。ボアの突進がようやく止まった。最後にボアの首目掛けて刀を全力で振り下ろす。大きな風の刃が首を斬り落とした。僕は大の字に倒れ込み叫んだ。
「やったぞー!」
もうちょっとカッコイイ言葉を言えば良かったと後で反省した。全力でマジックアイテムを使ったせいか気持ち悪い。魔力枯渇になっている。中級魔力ポーションを飲んでからドロップアイテムを収納した。銀色の宝箱もドロップしている。中からはまたまた指輪が出て来た。前に正輝とレッドワイルドボアを倒したときも指輪だったなと思いながら回収する。
水分補給をしてからボス部屋を目指す。魔物にはエンカウントすることなく到着することが出来た。皆が泣きながら迎えてくれた。更に魔物を討伐したことを告げるとビックリしていたよ。あの大きさはないよね。本当によく倒せたものだと思う。火事場の馬鹿力ってやつかな。
最後にボス部屋を《桜花の誓い》に攻略してもらおう。ボス部屋に六人で入り、扉が閉まる。相手は三匹のオークだ。僕は後から見守ることにする。一匹は綾芽が速攻で倒した。残りの二匹を桃と山吹の二人で攻撃を防ぎながら遥と真琴で攻撃を加える。一匹討伐した綾芽も参戦して勝負がついた。ドロップアイテムを回収していると銀色の宝箱が現れた。
「お兄さんが開けてください。夏休みの間ありがとうございました。最後にハプニングがあったけど、私達の力で完全攻略してプレゼントしたかったです」
代表で真琴が言葉をかけてくれたが、皆の心意気を汲んで素直にもらうことにする。中からは本が出てきた。下手に本を開いてなにかが起こっては大変だ。すぐに収納しておいた。
「宝箱ありがとうな。これで皆もCランカーだ。夏休みの間、良く頑張ったよ。おめでとう」
転移の柱からダンジョンの外へ転移した。いつものように武具店で用事を済ませて、買取りへと向かう。今日は報告もあるので、入場受付に向かい部屋へと案内してもらった。
「三十階層で変異種の魔物を擦り付けられました。報告したいのですが、支部長の村上さんはいらっしゃいますか?」
村上さんが部屋にやって来た。
「魔物の擦り付け行為があったと聞いたのですが?」
映像を繋がせてもらい、説明をしていく。途中でぐるぐる回転する訳の分からない映像が入ってくるが僕には分かる。一体何回転してるんだよ。良く無事でいられたな。衝撃耐性のあるバトルスーツやヘルメットの装備品は本当に頑丈に出来ている。買ってて良かった。命を助けられたよ。
変異種の討伐まで見て、脅威はなくなっていることを伝えた。ドロップアイテムを見せればここまで見なくても良かったと後で思った。
「映像のコピーをいただけますか。証拠として保管したいと思います。まずは警察に連絡します」
まだ帰ることは出来そうにない。ドロップアイテムの買取りをしてもらい、この部屋でお弁当を食べさせてもらうことにする。お腹が空いたよ。
警察が来てまた同じ説明をする。完全に狙っての行為である。厳しく対処してもらわないと腹が立つ。
警察に言われて気づいたが、あの擦り付け野郎のパーティメンバーはどこに行ったんだ?おそらくパーティメンバーがやられている間に逃げ出したのではないかと予測していたが。あながち間違ってはいないように思う。あくまでも予測なので他では言わないでくれと頼まれた。
警察の事情聴取も終わり買取りの話をしてもらう。今回は変異種のドロップアイテムと宝箱から出てきた物は僕の物になった。ウルフエリアに行っていないので収入はいつもよりかなり少なくなっているが、そんなことを気にする子はいない。僕一人だけが気にしていたようだ。皆は満足した顔でカードに入金してもらっていた。
変異種のドロップアイテムは大きな魔石と大きなお肉、そしてとてつもなく大きな皮だった。魔石は買い取って貰ったがそれ以外は持ち帰ることにした。
宝箱から出てきた物は、指輪は魔法効果増大のマジックアイテムで、本は大阪のSランクダンジョンについてかかれた書物らしい。なんでここのダンジョンから出てきたのか意味不明である。それぞれのダンジョンに繋がりがあるのだろうか?本は国が買い取るらしい。代金は後日貰えることになった。目標ではあるが、当面Sランクダンジョンに入ることは出来ない。国というか攻略している自衛隊の人達の役に立てるのなら幸いだ。指輪は当然持ち帰ることにする。
もう暗くなった。犯人はまだ捕まっていない。もしかしたらダンジョンから出てくることは一生ないかもしれない。後は警察に任せて、ダンジョンを後にした。
いつものファミレスではなく焼肉屋に移動する。どうも最近の僕はグルメに目覚めたのか美味しい料理を欲している。もう暗くなる時間だ晩御飯を皆で食べて打ち上げにしよう。勿論それぞれの家と寮には連絡を入れて事情は話している。
焼肉を食べ終わり、家に帰る時には真琴と遥の親御さんが心配して迎えに来てくれた。桃と山吹も遥の父親に送ってもらうことになり一安心だ。僕と綾芽も送ってくれると言ってくれたが断って電車で帰ることにする。
電車で二駅、徒歩十分。我が家に帰ってきた。両親共に僕達が顔を見せると抱きしめてくれた。いつも心配かけてゴメンね。綾芽、僕という順番で風呂に入って早めに寝ることにする。今日は本当に疲れた。寝る前にダンジョンカードを確認した。
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ランク:A
名 前:龍泉 麟瞳
スキル:点滴穿石 剣刀術 豪運 全探知 全解除
火魔法
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やっぱりスキルが進化していた。