第六十二話 ダンジョン旅行 二日目
旅行二日目の朝が来た。早めに寝たおかげか体の調子がとても良い。準備を済ませて約束の時間にロビーに行くと、既に全員が集まっていた。
まず朝御飯のうどんを食べるためにホテルを出て昨日食べたうどん屋とは違うお店を目指す。朝早くから営業している老舗のうどん店を訪れて、冷たいぶっかけうどんにマイタケの天ぷらそしていなり寿司をチョイスした。各自が好きなものを取り六人で食べていると他の人のうどんも美味しそうに見える。今度来たときの楽しみに取っておこう。
食事が終わればダンジョンに行くしかない。フェリーとバスを乗り継ぎ探索者センターへ、ダンジョンに入るための手続きを終わらせてダンジョンゲートの転移の柱へとやって来た。
「今日は十一階層に転移してボス部屋を目指すよ。何回周回することが出来るのか分からないけど、最低三回は宝箱を拝みたいと思う。皆頑張っていこう」
昨日宝箱を開けた桃と遥は早速ヘルメットと靴を装備してきている。綾芽は見たことがあるが、山吹と真琴の二人は昨日の銅色の宝箱を見てやる気に満ちているようだ。良い宝箱が出ますように。
焦ることなく確実にゴブリンを討伐しながらボス部屋を目指す。そして今日最初のボス部屋の前に到着した。順番待ちをしているパーティはいない、そのままボス部屋へと入った。パーティメンバーが入り切ると扉が閉まり戦闘の開始だ。
昨日と同じく二人の盾で攻撃を防ぎ、アタッカーが確実に仕留めていく。真琴も後方から良いタイミングで矢を射ていく。最後に真琴のヘッドショットですべてのゴブリンは消えていった。さあ、お待ちかねの時間だ。
またまた銅色の宝箱が現れた。僕のスキルのおかげなのだろうか?続けて銅色が出てくるとは思ってなかった。うれしい誤算である。
「三番、葵真琴。開けさせてもらいます」
「罠も無いようなので、開けて大丈夫だよ」
真琴が祈るように手を合わせた後に宝箱を開けると、宝箱の中からは赤いゴーグルが出て来た。ゴーグルは一度ドロップしたことがあり、綾芽が今も装備している。今回のゴーグルはどんな効果があるんだろうね。
一度ダンジョンの外に転移して皆の状態を確認する。
「午前中にもう一回攻略をしたいけど、体調の悪い人はいない?」
皆が大丈夫ということで二周目にチャレンジする。万全の体調なら油断さえしなければ問題ない。今日二度目のボス部屋の前に到着した。今回は一組順番待ちをしているパーティがいた。
「また会ったね、ハーレムパーティさん。昨日のボス部屋で良い物が出たのかな?」
昨日話しかけてきた女の子とまた会ってしまった。
「ええ、そこそこの物が出ましたよ。今日もお願いしますという感じです」
遥が対応して、いろいろと話をしている。話しかけてきた女の子は高松市にある大学に通っていて、サークル仲間でパーティを組んで宝箱狙いでこのダンジョンにやって来るそうだ。岡山でも同じような話をしたことがある。その時の縁で、来週の火曜日には橘姉妹と一緒にお試しでダンジョンを攻略することになっているんだ。何処で繋がりが出来るのか分からないものだ、仲間が出来るかもしれないと思うと嬉しくなって来る。
僕が妄想している間に時間は過ぎて僕達の順番になった。
ボス部屋攻略は問題なくクリアした、その後に現れたのは鉄の宝箱だった。そりゃあ銅色ばかり続く訳無いよね。
「四番、龍泉綾芽です。泣きながら宝箱を開けさせてもらいます」
綾芽には申し訳ないが、僕は綾芽で良かったと思った。銅、銅と来た後に鉄だとショックを受けてしまうよね。ここで鉄だと次が鉄でもしょうがないと思えるだろう。綾芽は銅色の宝箱からマジックアイテムを得たことがあるんだからそれ程ショックは受けないだろうしね。また下手くそな泣きまねをしながら宝箱を開けているよ。宝箱の中からは巻物が出て来た。まさか魔法のスクロールなのだろうか?鑑定してみないと分からないな。
無事に二周目のボス部屋攻略を終わらせて、ダンジョンの外へ転移した。一度探索者センターに戻ってお昼御飯を食べることにする。
「無事に戻って来たね。一緒に御飯食べて良い?」
センターの外にあるテーブルでハンバーガーセットを食べようとしていると、またまた先ほどの大学生の女の子が話しかけてきた。五人娘は仲良くなったのか一緒に食べ始めたよ。
「私は神楽皐月、あなたの名前は?」
ハンバーガーにポテトと飲み物のセットはあっという間に終わってしまった。一つでは足りないな、もう一つ食べようかな?
「ちょっと無視しないでよ。聞いてる?あなたの名前を教えてよ」
「僕に話しかけていたのか。僕の名前?龍泉麟瞳だよ」
まさか僕が話し掛けられているとは思わなかったよ。
「ねえ、あなたのランクを聞いていいかしら?」
「一応、Aランクだよ」
「皆に聞いたら、あなたはこの子達のパーティメンバーではないそうね。パーティメンバーを募集しているんでしょ。私、今四年生で今年で卒業なんだ。私をパーティに入れてくれない?私はCランクなんだけど、結構自信あるんだ」
「自信があるなら、何故ダンジョン高校にいかなかったの?」
「私が高校に入学する時にはまだ国立のダンジョン高校しかなかったから行けなかったんだ」
僕の一つ下の学年なら確かに分かる話である。
「今のパーティメンバーはどうするの?それに僕は岡山で活動しているんだ、香川だと週末しか一緒にダンジョンに入れないよね。物理的に無理があると思うよ」
「今のパーティメンバーはサークルの集まりだから固定されてないし、プロの探索者になる人はいないんだ。前期で単位が取れたら、後は卒論だけだから大丈夫。岡山に行くからパーティに入れて、お願い!」
押しかけメンバーが来るとは思わなかった。どうやって断れば良いのだろうか?
「お願いされても実力が分からないと何とも言えないよ。ポジションは何なの?」
「私はタンク、私の後には何も通さないよ。一回だけで良いから試してみて、きっと気に入られると思うの」
「どうして僕なの?僕のこと何も知らないよね」
「直感かな。この機会を逃したらきっと後悔すると思ったから声をかけたの」
結局来週の金曜日に岡山ダンジョンを一緒に攻略することにして、連絡先だけ交換して別れた。
「お兄ちゃん、皐月さんをパーティメンバーにするの?」
「そんな気はないんだけど、断り切れなかったよ」
「皐月さんはお兄ちゃんのパーティメンバーになると思うよ」
何を根拠にしているのか分からないが、綾芽はそう思っているらしい。来週の金曜日には結論が出るんだし、今はあまり考えないようにしておこう。
ハプニングもあり時間を使ってしまった。もう一回ボス部屋を目指すか皆に尋ねると、当然のように目指すと返って来たので、急いで攻略をしよう。
本日三度目のボス部屋の討伐が終わった。現れたのは銅色の宝箱だ。
「五番、中村山吹です。綾芽ゴメンね、宝箱開けさせてもらいま~す」
「罠は無いよ。開けて大丈夫だよ」
泣きまねを始めた綾芽を無視して山吹が宝箱を開けると、何だかお札のような物が入っていた。微妙な空気が漂う中時間も押している。急いでダンジョンを出て武具店には寄らずに買取りの受付に直行した。
今日も受付嬢に案内されて部屋へとやって来た。
「今日もマジックアイテムを何処で入手したのか教えていただけますか?」
「すべてボス部屋の宝箱からです。巻物は鉄の宝箱で残りの二つは銅色の宝箱からです」
「えっ、スクロールは鉄の宝箱からですか?」
今日も魔石の買取り金額はたいしたことはなかった。そして本命の鑑定の結果を聞く。
「ゴーグルですが、弱点看破の効果があります。買取り価格が250,000円です。次に軽量化の札ですが、札を貼った物の重量を軽くすることが出来ます。こちらの買取り価格が200,000円です。最後は帰還のスクロールです。買取り価格が800,000円です」
確かに僕でも三つの中で何が欲しいと聞かれたら、即答で帰還のスクロールと答えるだろう。鉄の宝箱に入っているなんてどうなっているんだろうね、不思議だ。
勿論マジックアイテムはすべて持ち帰りで、魔石の買取りだけ昨日と同じように七等分してカードに入金してもらった。今日はギリギリ五千円を超えていた。
フェリーの時間もある。武器の封印をしてもらって、急いで着替えてバスに乗ったよ。フェリーに乗って二十分、無事に高松に戻ってきた。そのまま晩御飯を食べてホテルに戻ろう。
香川は骨付き鳥が有名だ、駅側の骨付き鳥屋さんに突入してスパイシーな味付けを堪能した。
今日もホテルでは風呂に入った後すぐに眠った。