第六十話 ダンジョン旅行 一日目①
岡山ダンジョンに行った次の日の日曜日には、父親の実家に家族全員で行きお墓参りをしてご先祖様の供養をした。祖父母はまだまだ元気で、僕に久しぶりに会ってとても喜んでくれた。沢山話をして、晩御飯もいただいた後に家に帰って来た。お小遣をくれようとするのを断るのに苦労したよ。僕はもう社会人だからね。
月曜日は明日からのダンジョン旅行の為の準備をした。準備といってもダンジョンの中で食べる食事を用意するぐらいしかしなかったけどね。チェーン店の牛丼、カレー、ハンバーガーを買って、《桜花の誓い》のカードで支払ってもらったよ。今回は洞窟型のダンジョンに行くので、綾芽に皆の装備の中に光源の確保が出来ているのかを確認すると、吉備路ダンジョン群に行ったときに購入していると言っているので準備はこれで大丈夫だと思う。次の日の為に早めに就寝した。
火曜日は旅行の初日である。まずは最寄りの駅から岡山駅行きの電車に乗り車内で真琴と合流した。そして岡山駅で残りの三人と合流して快速電車に乗り込み、一時間であっという間に香川県の高松駅に着いた。
香川といえばうどんである。駅側の朝早くから開いているうどん店で取りあえず一杯、朝御飯としていただく。讃岐うどんはいつ食べても美味しいよね、うどんのコシが絶妙である。毎日朝はうどんを食べる予定なので今日はシンプルにかけうどんにチクワの天ぷらをトッピングして食べた。おにぎりもつけさせていただきました。ごちそうさまでした。
食事が終わればすぐにダンジョンに向かう。歩いてフェリー乗り場へと移動して、鬼ヶ島へ二十分の船旅だ。今回は香川県の二カ所のEランクダンジョンを完全攻略する予定である。その最初のダンジョンが鬼ヶ島ダンジョンである。名前で分かるように鬼が出てくるのだが、《桜花の誓い》はいずれ岡山ダンジョンを攻略することになる。その予行演習になると思いこのダンジョンは攻略してほしかったのだ。
鬼ヶ島ダンジョンは全十五階層の洞窟型であり、出てくる魔物はゴブリンだ。最後のボスは複数のゴブリンパーティでこれを倒して宝箱をゲットするのが今回の旅行の目的である。この旅行の間に皆が一回ずつ宝箱を開けることが出来れば言うことは無い。是非宝箱を開ける人によって中身が変わるのかを調べてみたいものだ。
「ちゃんと宝箱を開ける順番は決めているのか?」
「大丈夫で~す。恨みっこなしでジャンケンで決めました。お兄さんは六番目でいいんですか?」
「僕も順番に入っているの?」
「当たり前ですよ。お兄さんだけとんでもないお宝が出るかも知れませんね」
フェリーが鬼ヶ島に着き、ダンジョン行きのバスに乗り換えて十分でダンジョンに着いた。探索者センターでいつものように準備をしてダンジョンに向かう。パーティ登録をしてダンジョンの一階層に転移する。
転移した先はセーフティーゾーンになっている。ここで最後の確認をしておく。
「少し薄暗いがヘッドライトを点けてみて周りが見えるか確認をしておこう。大丈夫か?」
「大丈夫です。ちゃんと見えます」
「ここはゴブリンだけが出てくる。人型の魔物は初めてだと聞いたけど、無理はしないように。ダメだと思ったら早めに言うようにね。決して恥ずかしいことじゃあないからね」
桃と山吹の盾職の二人を先頭に攻略を開始する。エンカウントするゴブリンは棍棒を振り回して来るが、盾でしっかりと攻撃を受け止めて槍で仕留める。遠距離からの真琴の弓矢の攻撃も決まっている。この五人娘は皆が戦闘狂だった、人型が初めてとか心配する必要はなかったようで安心した。油断さえしなければこのダンジョンは問題なく完全攻略する力は持っている。僕は他のことを試しながら進むとしよう。
この前の皆生温泉ダンジョンで進化したスキル【全探知】の効果を確認しよう。普段の生活場面から人の気配に敏感になっていたが、ダンジョンの中では魔物は人とは違った感じで認識できるようだ。敵対反応とでもいうのか、悪意を感じているのか僕の敵だと認識できる。数や場所も分かるようになっている。とてつもなく有用な力だ。使っていくうちに認識できる範囲も広がって行くのだろうか?
スキルの効果を確かめているうちに六階層の転移の柱に到達した。登録を済ませ、水分補給をして十一階層の転移の柱に向かって攻略を再開する。
ゴブリンが多少増えても安定して討伐できている。僕も少し離れてスキルを試しながら進んでいこう。壁際の窪みに隠れているゴブリンも探知することができ、背後の敵も認識できる。接敵するゴブリンを屠りながら十一階層の転移の柱に到着し、登録をした。
ここでお昼御飯にする。皆の希望を取って、今日はカレーライスになった。
「ここのダンジョンはドロップアイテムが魔石しかないんですね。倉敷ダンジョンだと沢山ドロップアイテムがあるのでなんだか寂しいですね」
山吹の意見に皆賛成のようだ。
「その代わりに、宝箱からはたまにいいマジックアイテムが出てくるらしいよ」
遥はここのダンジョンの宝箱情報を調べてきたようだ。この情報で皆のやる気が一気に上がったようだ。攻略を再開する。
十一階層からもゴブリンパーティの数に変化があるだけで、ツイン盾が上手く機能している。安定した討伐を繰り返している。
十三階層の壁際を進んでいる時に今まで感じたことのないものを探知した。
「ちょっと皆、こちらに来てくれ」
五人娘を僕のところへ呼んだ。
「ここの壁に隠し扉があるようだ。開けて中を探索してみるか?もしかしたら危険があるかもしれないから、五人でどうするか決めてくれ」
勿論五人娘の答えは隠し扉を開けて探索することに決まった。扉の中までは探知出来ないんだよね。扉に罠は仕掛けられていない。扉の下の方に開けるためのスイッチが仕込まれているのも探知出来た。
「それでは開けるぞ!戦闘の準備をしておくように!」
スイッチを押すと扉がスライドして開いていく。扉の中には魔物はおらず、罠も仕掛けられていない。ただ部屋の真ん中に銅色の宝箱が置かれているだけだった。
「私が一番。宝箱開けていい」
桃がジャンケンに勝利していたようだ。
「罠は無いからね、安心して開けていいよ」
「今まで木の宝箱しか見たことない。緊張する」
桃が開けた宝箱の中には赤いヘルメットが入っていた。桃は今後、広島○ープの応援をしないといけないな。取りあえず綾芽に渡して収納しておく。綾芽以外の四人は銅色の宝箱は初めてで、どんな効果があるのか想像しながら盛り上がっている。