第四十九話 夏休み中の《桜花の誓い》とワイルドボア戦
次の日の木曜日は前日に続き《桜花の誓い》と倉敷ダンジョンの探索である。
「皆昨日の反省を思い返して、今日の課題を確認しよう」
綾芽が珍しくリーダーらしく、ダンジョンに入る前に練習場で身体をほぐしながら声をかける。ストレッチが終わった後にフォーメーションの確認をしてからダンジョンに向かった。
「僕はウルフのエリアは少し離れて一人で討伐するよ。もう《桜花の誓い》は大丈夫そうだからね」
ダンジョンゲートの前でパーティ登録をしながら僕が言った。昨日は本当にウルフエリアでは何もしていない。少しでも買取り金額が多くなるように貢献したいものだ。
今日は十一階層に転移し攻略を始める。まずはウルフエリアの十一階層から十五階層で稼ぐのが目的だ。
予定通り《桜花の誓い》と離れて攻略を開始する。出会うウルフすべてと戦闘を繰り返す。昨日あまり身体を動かしてないのがストレスになっていたのか、自分でも思っていないほど戦闘を楽しく感じてしまう。火魔法、飛ぶ斬撃をフルに使って十六階層まで到達した。
「お兄ちゃん、派手にやっていたね。ちょっと引いちゃったよ」
「いや、ちゃんと周りを見ながら戦闘をしていたぞ。心は熱く、頭は冷静にってやつだ」
会話が噛み合っていないような気もするが、構わず話しつづける。
「もう一度ワイルドボア戦の動きを確認しておくようにしよう。実際にラッシュボアとワイルドボアにそこまで大きな違いはないよ。ラッシュボアは今まで失敗したことはないんだ。ワイルドボアに対する恐怖心に打ち勝って対処出来るかどうかだと思う。桃と山吹は失敗を恐れずに挑戦してほしい。中級ポーションは何本も持っているからね」
セーフティーゾーンの空いているスペースで動きを付けながら声を掛け合いフォーメーションを確認する。
水分補給をして、今日のメインのワイルドボア戦に臨んだ。
まずはスモールボアで小手調べ。いつものように盾で受け止め槍でとどめを刺す。次にラッシュボア戦は仮想ワイルドボアである。盾職二人で向かい注意を引き付ける。山吹に向かい突進して来る。桃は少し位置を下げて待つ。山吹がラッシュボアの突進をいなして桃の方へと送る。更に桃がラッシュボアを盾でいなし体勢を崩す。そこに槍で脚を払いダメージを与える。ボアの動きが悪くなれば勝ちである。
盾と槍一人ずつの組み合わせでも練習を重ねる。何パターンかフォーメーションを確認して、一度セーフティーゾーンに戻りお弁当を食べる。先ほどの戦闘を振り返りながらお腹を満たしていく。
腹ごなしにスモールボアとラッシュボアを倒しながら、いよいよワイルドボアに向かって桃と山吹が走り出した。
今回も桃がターゲットになった。最初のフォーメーションに素早くチェンジする。
まずは桃が黒盾で突進をいなした。ワイルドボアは体勢を少し崩すが構わず後へと突進する。次は銀盾の山吹が同じくワイルドボアをいなす。二度のいなしでバランスを崩し勢いを削いだところを遥が槍で脚を払う。そして綾芽が槍を突き刺し氷魔法でとどめを刺した。
初めてのワイルドボアの討伐、五人で喜びを全身で表している。
嬉しいのも分かるが、周りに魔物もいるんだがなとこちらは気が気でない。とりあえずドロップアイテムを回収して声をかける。
「周りをよく見て。一旦セーフティーゾーンに戻るぞ」
まだ嬉しそうにはしているが、しっかりとフォーメーションを組んでセーフティーゾーンに戻った。
セーフティーゾーンで話し合い、今日の探索はここまでにしてダンジョンを出ることにした。良いイメージを持ったまま来週に繋げていこう。
ダンジョンを出て武具店に向かい、いつものように武器のチェックと矢の補充を行う。支払いはパーティカードでおこない領収書を貰う。これを習慣づけるように指導した。
そのあとはお待ちかねの買取りである。攻略階層が昨日よりも少なくなったが、僕も頑張ったので若干金額を増やすことが出来た。カードに入金してもらった後、武器の封印や着替えをしてダンジョンを出た。
いつも通りファミレスで反省会をしてから解散し、電車に乗って家路につく。
美味しいボアステーキの晩御飯を食べた後、いつも通りリビングでマッタリと飲み物を飲みながら談笑する。
「父さん、母さん、お盆の旅行なんだけど、鳥取の皆生温泉に行こうと思うんだけど良いかな」
綾芽と相談して決めた旅行先を両親へ告げた。綾芽の決め手は温泉の近くにダンジョンがあること。戦闘狂の綾芽にとっては何物にも代えがたい条件だ。
「そんなに有名な温泉地でこれから予約が取れるのかい」
「一応もう予約はしたんだ。もしも先に取られたら嫌だったからね」
「美味い海鮮料理にビールそれに温泉まで付いてて良くない訳がないぞ。麟瞳、御手柄だ。ありがとう」
これでお盆休みも予定が埋まった。因みに、ちゃんとお墓参りには行くようにしてますよ。