第四十話 夏の予定と友からの手紙
正輝を駅で見送った後、家族への感謝を込めてお土産を買って帰ることにした。父親はすぐに決まったが、後の二人は悩ましい。結局母親には鳥取県の干物セットを買い、綾芽にはいつも通りケーキを買って帰ることにした。
家に帰ると綾芽に責っ付かれる。
「お兄ちゃん、予定表を見てないでしょ。とりあえずアバウトでいいから今決めてよ。皆からどうなったって催促が激しいんだよ」
「分かったから、ちょっとだけ待って。父さんと母さんに感謝のお土産を買って来たから渡して来るよ」
「私にはないの?」
「勿論あるよ。ほら、これだケーキセット」
綾芽が喜んでいるうちに、父親と母親にお土産を渡した。当然父親にはご当地ビールセットをあげたよ。
基本的に僕に予定は入っていない。あるのは求人票の面談とその後のお試しダンジョン探索ぐらいだ。できるだけ綾芽達の予定を優先すれば良い。
実際に予定表を見ると毎週月木にチェックが入っていて、お盆の週はお休みでお盆明けに謎の四連続探索日が設けられている。
「僕は週に一日か二日って言ったよね」
「うん、その通りになっているでしょ。週に二日だよ」
「週に一日の日はないのか」
「だって一日か二日かって言ったらどっちでも良いってことでしょ。だから二日を選んだんだよ」
これは確かに僕の言い方が悪かったな。
「じゃあ、このお盆明けの四日連続の探索は何なんだ」
「これはお盆の週の貯金を次の週に使ったんだよ。桃と山吹が実家に帰省するからお盆の週はお休みになっちゃったの」
「なんで四日連続になっているんだ」
「これはほら、私たち高校生活最後の夏休みだから旅行に行っても良いかなって。お盆開けの平日なら今からでもホテルの予約とか取れそうでしょ」
「じゃあ僕は関係ないじゃないか」
「いやいや、ダンジョン旅行だからね。私達が入れるダンジョンでお兄ちゃんオススメの県外ダンジョンってない?」
何だか思っていたのと大分違うが、綾芽達なりに考えたんだろう。
「分かったよ。このスケジュールで良いよ。急な予定が入ったら変更になるかも知れないことをちゃんと皆に伝えておいてね。あと、旅行先は一応探して見るけど綾芽達も案を出してくれると考えやすくなるからね」
「やった~、お兄ちゃん大好き」
「旅行以外は倉敷ダンジョンで良いのか?」
「うん、そのつもりで考えてる。朝六時だよね」
この夏も忙しくなりそうだ。
「《桜花の誓い》以外でもダンジョンに付き合ってね。この前約束したでしょ」
確かに約束しちゃったな。また新しいダンジョンでも開拓するかな。
綾芽は早速皆に連絡を入れるため、自分の部屋に入って行った。僕もついでに面談の予定を決めておこう。早めに伝えないと申し込んでくれた人に悪いよな。
八月の第一金曜日に決めた。明日にでも伝えに行っておこうかな、魔力ポーションも補充したいんだよな。何となく明日の予定が決まった。
それから晩御飯までは近県のダンジョン情報を見ながら過ごした。あまり遠すぎても移動時間が勿体ない、候補はお隣りの県だ。ダンジョンの難易度とダンジョンとホテルとの位置関係などを考えながら沢山の情報を頭に入れた。
晩御飯は和食料理だ。正輝を見送りに行く前に出しておいてと言われた鮎とマイカを使って、鮎の塩焼きといかそうめんそれに焼き茄子とおみそ汁だ。勿論ご飯は大盛り、いただきます。
両親共に鮎が大好物である。僕が帰ってきてから二度目だ。鮎は川によって味が変わると言われているからそういうのをお土産にできると喜びそうだ。メモっておこう。
食事も終わり順番に風呂に入ってあとは寝るだけ。ここで正輝の置き土産を確認しよう。
リュックの中から出てきたのは閉じられた封筒、開けて中を確認すると手紙と指輪が入っていた。
○●○●
麟瞳へ
五日間世話になったな。直接渡すと拒否されそうなので、こんな形で渡すことにした。
同封している指輪は魔力回復の指輪だ。因みに俺も着けているぞ。
これからの麟瞳には必ず役立つものだ。遠慮なく使ってくれ。
新品だから血液登録も忘れないようにしておけよ。
この五日間で麟瞳の成長にびっくりしたぞ、どちらが早くSランカーになるか競争だな。
そしてSランカー同士になって二人で高難易度のダンジョンに挑戦できる日が来ると良いな。
今日から俺達はライバルだからな。忘れるなよ。
○●○●
これからもっと努力して、本当のライバルになることができるようにと固く決意した。
血液登録をしてから指輪を嵌めて眠った。