第三十三話 正輝と綾芽
ダンジョンからバスで駅まで、そこから徒歩で十分、なんとか晩御飯に間に合った。一応電話で七時には帰れることは伝えておいたが良かったよ。
手を洗って早速食卓へ、皆勢揃いしている。
「ただいま。遅くなってゴメンね」
「いやいや、遅くなってないからね。今ちょうど準備が終わったとこだよ。さあ食べよう」
今日のメニューはラッシュボアのミニステーキとビッグラビットの唐揚げ、それに野菜サラダとオニオンスープそしてご飯だ。
「確かにこっちのステーキの方が野趣に富んでいるな。これはこれで美味いわ。でも昨日のステーキも甲乙付け難いね、どちらも美味いでいいかな」
正輝が昨日の綾芽に対する答えを言葉にする。
「そうかなー、私は絶対今日の方が美味しいと思うんだけどなー」
「昨日母さんが言ってたじゃあないか、人によって味覚は違うんだ。どっちが美味いかは一人一人違ってて良いんだよ。ワイルドボアやビッグボアはもっと美味いかも知れないしね」
「確かにあと二種類いるんだよね。なんとか夏休み中に倒して肉をゲットしたいなー。お兄ちゃんに夏休みの予定表を後で渡すね」
夏休みの間に週一、二回はダンジョンに付き合うという約束の事だろう。
「正輝さん、お兄ちゃんのチート能力よく分かったでしょう」
「ああ分かりすぎたよ。正直《百花繚乱》に麟瞳がいたときよりも凄まじいね。おかげで良い物を手にする事が出来た」
「良い物って何がドロップしたの」
「まあ食事が終わってからね」
ということで、まずは食事を楽しみましょう。ビッグラビットの唐揚げもちょっと癖があって美味しい。ニンニクと生姜と醤油と砂糖で味付けしているらしくて絶妙の味になっている。研究に余念がないね、家のグランドシェフは。あっという間にすべて無くなった。ごちそうさまでした。
食後はリビングへ移動してケーキと桃ジュースをいただく。ケーキは近所のケーキ屋で購入したもので、桃ジュースは傷んでいた桃を使って例のジューサーを使って作ったらしい。砂糖を入れていないと言っているけど自然の甘味が口に優しく今まで飲んだジュースの中で一番美味しかった。季節が変わる前にまた取りに行かなくてはいけない。
「ねえー、良い物がドロップしたって何なの?さっきから気になってしょうがないよ」
「じゃあ、まずは僕からね。スキルオーブが見たいって言ってただろ。今日は持って帰ってきたよ。これが火魔法のスキルオーブだ」
実際に見せながら話した。
「またスキルオーブが出たの?もうお兄ちゃんドン引きだよ!」
「またって前にもスキルオーブが出たのか?」
妹よ、何故ドン引きなんだ。そして正輝よ、ついこの前に出たんだよ二個も。
「お兄ちゃんは先週の月曜日にスキルオーブを二個もドロップさせたんだよ。お兄ちゃん、使って見せてよ」
ではご期待に応えましょう。胸の位置でスキルオーブを持って、使うと念じる。形を無くしながら光を発して僕の体の中へ入ってくる。そしてダンジョンカードでチェックする。
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ランク:A
名 前:龍泉 麟瞳
スキル:点滴穿石 剣刀術 幸運 罠探知 罠解除
火魔法
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ちゃんとスキルになっている。これでスキルの数が京都にいたときの三倍になったよ。
「ねえー、光が体の中に入って行ったけど大丈夫なの」
「ああ何の違和感もない。ちゃんと【火魔法】のスキルを取得してるぞ」
「お兄ちゃんが魔法使いになったんだね。どんな感じ」
「どんな感じも何も、まだ何もしてないから分からないよ。正輝に聞いた方が良いんじゃないか」
とりあえず魔法使いの先輩にパスする。
「最初は不思議な感じしかなかったよ。だって急に手から火が飛び出て行くんだよ。で、使っているうちに理解が進み、威力も上がっていくんだ。最初は加減も分からないから何回も気持ち悪くなってね、大変だったよ」
「私も魔法使いになってみたいなー。ね、お兄ちゃん」
何を期待してるんだ、妹よ。
「じゃあ僕からって言ってたから、正輝さんもマジックアイテムを入手したんでしょ」
「まだ僕のターンは終わってないからね。もう一つマジックアイテムを手に入れたんだ。それがとても嬉しくてね。今は封印しているから見せられないけど、刀がドロップしたんだ。自動修復と斬撃を飛ばすことが出来る効果が付いた」
「何か高そうだね。因みに買取り価格は如何程なの」
「スキルオーブが二千五百万円で刀が三千万円だったよ」
綾芽と両親がビックリして、時間が停止しているよ。
「正輝さんとパーティを組んだんでしょ、お兄ちゃん取りすぎだよ。正輝さん怒っていいからね」
「俺はこのポーチを貰ったんだけど」
「私は緑のポーチを貰いましたよ。お揃いですね、五百万円でしょ。さあ怒って下さい、この強欲な兄を」
「いやー、俺の方が買取り価格高いんだよね。逆に怒られてしまうよ。一億円だよ」
またまた三人が止まっている。
「私のと何が違うんですか?」
「まず容量が二十五メートルプールくらいで、中の時間経過が無いんだ」
ということで、お披露目は終了。
「お兄ちゃんおかしいでしょう」
「確かになー。マジックアイテムを入れない買取り金額だけでも、この前《百花繚乱》の四人でBランクダンジョンを五階層攻略した時の全金額の四倍以上あったからなー。宝箱を入れた金額だよ」
「ダメですよ、戻って来いなんて言ったら。お兄ちゃんのパーティは予約待ちで一杯ですから」
「それは絶対に言わないよ。いや、言えないよ」
いつ予約が入ったんだ、僕は知らないぞ。
「正輝、明日はどうするんだ」
「折角時間経過が無いポーチを手に入れたから、肉をお土産として持って帰ろうと思っているんだ。肉ダンジョンに付き合ってくれないか」
「いいのか肉だけで、料理はしなくていいのか」
「いや、そこまでは悪いよ。ステーキなら焼けそうだし、大丈夫だよ」
「遠慮することないよ。明後日作ってあげるから沢山取って来な」
母親の一言で明日の予定が決まった。そうと決まれば早く寝ないといけない。
「明日は五時半出発な、だから遅くても五時前には起きないと間に合わないから、早く風呂入って寝ような。綾芽明日の朝は鍛練付き合えないからね。母さん少し早くなるけど弁当よろしくね」
「いいなーお兄ちゃん達、私もダンジョンに行きたいよ」
「ダメだよ明日終業式だろ、ちゃんと学校へ行けよ。また休みになったら付き合ってやるから」
「約束だよ。《桜花の誓い》とは別口だからね」
「正輝、倉敷ダンジョンは人気があるから目茶苦茶混むんだ。だから混む前に攻略を開始しないといけないんだ。だから五時には起きてろよ。自分で行きたいって言ったんだからな」
「おう、分かったよ。もしもの時は起こしてくれ、頼んだぞ」
ということで、慌ただしく解散して正輝に先に風呂に入ってもらった。綾芽から予定表を貰ったが明日帰って来てから見ることにしよう。