第二十二話 ボア料理と母のお願い
家に着いたのは5時半頃。スキルオーブに興奮していたので刀のメンテナンスも忘れてしまった。僕は自分のことをもっと冷静だと思っていたがそうでもないようだ。今後注意しておこう。どこかで大きな失敗をしてしまうかもしれない。
まだ父親と綾芽は帰っていない。母親に帰りの挨拶をして、先に風呂に入らせてもらう。いつも通りゆっくりとぬるめのお湯に使って疲れをとった。
風呂から出てキッチンへ行くと綾芽が料理の手伝いをしていた。
「綾芽、お帰り。今日の学校はどうだった」
「一般教養のテストがあったんだよ。赤点は取っていないと思うけどね」
「お前、ダンジョンに行ってる場合じゃないだろう。他の皆は大丈夫だったのか」
「大丈夫だよ。一般教養なんて赤点取らなければ良いんだよ。卒業したら本格的にプロとしてダンジョンに入る予定だから」
肝が据わっているというか、バカというか微妙なところだが本人の責任なのでスルーしておこう。
「お兄ちゃんは今日ダンジョンに入らなかったんでしょ」
「予定ではそうだったんだが、気が変わって岡山ダンジョンに入ってきた。投擲の練習に途中で飽きちゃってね」
「お兄ちゃん、ダンジョン入りすぎでしょう。帰ってきてから毎日でしょ」
「土日は普通は入らないんだよね。綾芽に頼まれたから入ったんだよ」
「どうも申し訳ありませんでした」
父親も帰ってきたので晩御飯をいただきます。今日のメニューはラッシュボアのステーキと猪鍋風に煮込んだ具だくさんスープとのこと。野菜がスープにたっぷり入っているのでサラダはない。ご飯はいつもの大盛りにしてもらう。
「このステーキ美味しい。味付け塩胡椒だけだよね」
綾芽が絶賛している。僕はスープの方からいただいた。
「スープも肉から旨味が出ているんだろうな、目茶苦茶美味いよ。なんか上手く表現できなくてゴメンね」
「美味しいって言ってもらえると嬉しいんだよ。変に食レポされると逆に疑うよ」
父親は相変わらずビールを飲みながらサイコロステーキを美味しそうに食べている。
「麟瞳は明日もダンジョンに行くのかい」
「行っても行かなくてもどっちでも良いんだけどね。母さん何かあるの?」
「じゃあ悪いんだけど、母さんの買い物に付き合って欲しいんだ。たまにはお魚も食べたいしね。麟瞳がいれば腐るのとか考えなくて良いだろ。鮎とか季節ものじゃないか。でもこれからは冬でも脂の乗ったものが食べられると思うと嬉しいね。お刺身だってそうだ。いろいろ考えるとワクワクするよ」
ということで、明日の予定が決まった。母親孝行をしっかりしましょう。
「お兄ちゃん、今日は何か良いものドロップしたの?」
何気なく綾芽が聞いてくる。家族なので隠すこともない。
「今日は十階層のボス部屋の銀色の宝箱からスキルオーブが二個出て来たぞ」
「スキルオーブが出たなんて初めて聞いたよ。教科書でしか見たことないよ。何のスキルなの?」
「【罠探知】と【罠解除】だったよ。魔法のオーブじゃなくてちょっと残念だったけど、今後役に立つしな」
「スキルオーブって今持ってるの?」
「いや、もう使ってしまったよ。光って体の中に入ってきたぞ。不思議な感覚だったな」
スキルオーブが見たかったのかガックリしている。次回があったら、是非見せてあげようと思う。高校入学から離れていたせいか、綾芽には甘いんだよね。
会話をしながらも箸は進む。ステーキも綾芽が言っていた通り美味かった。ボアのストックも沢山あっても良いよな。
「お母さん、今度の土曜日のお昼に友達を呼んでこの前のウサギ料理を食べさせてあげたいんだけど良いかな?」
「何人来るんだい」
「パーティメンバー全員呼ぶから四人だよ」
「肉を用意できれば大丈夫だよ」
「お兄ちゃんが用意してくれるから大丈夫だよ!」
僕ですか。まあ良いんだけどね。妹に甘いし。
「今度倉敷ダンジョンに行ってくるよ」
「お兄ちゃん大好き!」
大満足で食事も終わり、今日も一日楽しく過ごせました。おやすみなさい。