第百四十五話 Aランクダンジョン入場前
「龍泉さんと奈倉さんはAランクダンジョンには入ったことはあるのか?」
「ええ、京都のAランクダンジョンに去年の六月から七月の頭まで入って、十五階層のボス部屋で失敗しました。僕はそれ以来入ってないです」
「俺もそれ以来入ってないです」
「二人は元々パーティを組んでたのか?」
「あれ、言ってませんでしたっけ、僕達は高校入学からパーティを組んでいたんですよ。ほら、この前《Black-Red ワルキューレ》に入団した天沢和泉と紅心春ともう一人《東京騎士団》に入った真中悠希と一緒に五人で《百花繚乱》というパーティでした。まあ僕は道案内と荷物持ちでしたけどね」
「そうか、三人ともう一人と言っていたな。もう一人が奈倉さんか?」
「麟瞳が一年前まで荷物持ちいうて、信じられへんな?」
「ホントに弱かったんですよ。Cランクダンジョンでもソロでは二十階層がやっとでしたよ」
「和泉と心春はたいしたことあらへんで。ユニークギフトが勿体ないわ。そんなんで、どないしてBランクダンジョンを攻略したんや?」
「たいしたことないって、僕からしたら羨ましいほど和泉も心春もそして悠希も強く見えましたけど・・・まあ、正輝が頭一つ抜けて強かったから、正輝を中心に魔物を倒していましたね。特にボス部屋では、正輝が強い魔物の相手をして、周りを他のメンバーで倒すことが多かったですね。僕は自衛することで精一杯でしたよ」
「まあ、この前のゴブリンやオーガと戦ったことを思えば、Aランクダンジョンの低階層なんて楽なもんだぞ。京都のAランクダンジョンの十五階層のボス部屋はどんな魔物が出て来たんだ?」
「そのゴブリンが相手でした。俺がゴブリンキングに向かって行ったんですが、ゴブリンキングに到達する前にパーティが崩壊しました。麟瞳が帰還石を持ってなかったらヤバかったです」
「十五階層やろ。何匹ぐらいおったんや?」
「五百ぐらいだと思いますよ」
「まあそんくらいやろ。今なら楽勝やな。この前は麟瞳だけで二千は倒しとんやからな」
「大阪ダンジョンはゴブリンではないが、数は同じくらいだ。思う存分戦えるから頑張れ」
お二方は簡単に言うが、大阪Aランクダンジョンは草原型から始まるといっても、起伏のある見通しの悪い草原でウルフ系の魔物が出てくる。しかも魔法を使うウルフが混じっている群れを作り連携をとって襲い掛かって来る。ボス部屋では約五百匹のウルフ。階層が進むごとに上位種の割合も多くなるという情報を移動するバスの中で恵梨花から聞いた。
「今回は個人の能力を高めるための探索と言ってましたよね。パーティとして戦闘しないということですか?」
「別にバラバラに行動するつもりはないぞ。いきなり連携を取りながら行動するのは無理だろう。低階層では向かって来る魔物を個人の力で倒していけば良いと思っている。他のメンバーの戦闘も見ながら戦っているうちに、特徴も分かって来るだろう。中階層からは流石に個人の力だけでは危なくなると思うが、まだまだ先の話だ」
なんだか良く分からないが、来た魔物を倒していけば良いようだ。深くは考えないようにしよう。
「恵梨花も僕達と同じように戦うんですか?」
「恵梨花は斥候だからな。先行してウルフを引き付けて来てもらうつもりだ。それを龍泉さんと奈倉さんで倒してもらう。討ち漏らしは恵梨花が倒すよ。【身体強化】スキルで戦えるようになったからな」
「僕も【身体強化】スキルが欲しいんですよね。【身体強化】スキル優秀ですよね。スキルオーブ出てこないかな?」
「恵梨花のスキルオーブはAランクダンジョンの十階層の宝箱から出て来たぞ」
「じゃあ、宝箱から出てくるかもしれませんね。楽しみだ」
「麟瞳なら本当に出そうやな。でもウチらの宝箱から出たらウチらが使うで」
「それは分かってます。世那さんが宝箱を開けるときに祈っておきますよ。出るな~って」
宝箱まで到達するのが大変そうだ。世那さんと美紅さんはほとんど戦わないつもりのようだし、しっかりと戦闘経験を積ませてもらおう。
ダンジョンに着いた。探索者はいるがほとんどの探索者が《Black-Red ワルキューレ》の方達のようで、世那さんと美紅さんを待っていたようだ。クランハウスの話が長かったから、到着が遅くなった。大分待ったんじゃないのかな?
クランメンバーに指示をしていくのは美紅さんのようで、指示を受けたパーティからダンジョンに向かって行く。和泉と心春の姿も見える。しっかりと《Black-Red ワルキューレ》の一員になれたようで良かったよ。僕が世那さん達に頼んで入れてもらったようなものだ。戦力になってもらわないと世那さん達に顔向け出来ない。
「待たせて、すまんな。クランハウスで指示を出しておけば良かったのだが、バタバタしていて出来ていなかった。では私達もダンジョンに入っていこうか」
いよいよ、Aランクダンジョンに入場だ。気持ちが高ぶるのを抑えられない。