第百三十八話 新メンバー
「正輝、話がしたいんだ。開けてくれないか?」
大阪の《Black-Red ワルキューレ》のクランハウスから京都の拠点の家へと帰った次の日に、一番大事な正輝への謝罪をするために宿を訪ねた。宿といっても初めてBランクダンジョンを完全攻略し、プロとしてやっていけると自信がついたときから長く泊まっている場所、そして僕が一年以上前に《百花繚乱》を辞めた時に出て行った場所だ。
「麟瞳か?突然どうしたんだ。先に連絡をくれれば良かったのに」
「正輝に連絡が取れなくて直接来たんだよ」
「スマホの電池が切れたのかな?悪かったな」
部屋の中へと入れてもらう。ちゃんと食事は取っているのだろうか?僕のせいだけど覇気が感じられない。
「正輝、今日は謝りに来たんだ。僕が《百花繚乱》を解散させた。正輝は続けたかったんだろうが、僕が《百花繚乱》を終わらせたんだ」
「何を言ってるんだ。確かに和泉も悠希も心春もいなくなったが、麟瞳が終わらせたってどういうことなんだ?」
「僕が《Black-Red ワルキューレ》のクランマスターに頼んで、入団テストに誘ってもらったんだ。悠希の《東京騎士団》も同じだ」
「そうだったのか。何も知らなかったよ。一昨日突然大手のクランに入るから辞めるって言われて、意味が分からなかったが、そうだったのか」
「それだけしか言われてないのか」
「ああ、それで先月から入団テストに向けてやる気になっていたのか。納得だな。一人喜んでいた俺は馬鹿みたいだな」
「本当に申し訳ない」
「ハハハ、別に麟瞳が謝らなくてもいいだろう。それだけ《百花繚乱》と俺に魅力がなかっただけだ」
「いや、僕のせいで三人はいなくなったんだ」
「お前を辞めさせた一年前の七月にもう《百花繚乱》はなくなってたんだ。情けないな、全く何をやっていたんだろうな」
このまま続けても後ろ向きの考えしか出てきそうにない。
「なあ、正輝は今後どうするんだ?是非僕のパーティに入ってもらいたいんだ。考えて欲しい」
「メンバーが全員いなくなるようなパーティリーダーだぞ。そんな俺が良いのか」
「ああ、正輝だから誘っている。《Black-Red ワルキューレ》の黒澤世那さん、赤峯美紅さん、《東京騎士団》の加納創一さん、榊伊織さん、現在の最強と言われている探索者に会ったけど、僕にとっての最強は高校の時からずっと奈倉正輝なんだ。正輝に追いつきたくてずっと努力を続けてきた。これからも正輝を追い越すために努力を続けるよ。一緒にSランク探索者になろう」
答は一瞬で返ってきた。
「世話になるよ。この前の神戸ダンジョンの探索は久しぶりに楽しかったんだ。またハイタッチしたいしな」
「僕を許してくれるのか?」
「許すって、何を許すんだ」
「三人を勝手に入団テストに誘ってもらったこと、《百花繚乱》を解散させたこと」
「三人にとっては良かったんだろうな。大手のクランならAランクダンジョンが探索できるようになる。あいつらの希望通りだ」
「いや、正輝は怒ってないのか?僕に怒りをぶつけて良いんだぞ」
「そんなに怒ってほしいのか?」
「いや、怒ってほしい訳ではないけど、良いのか本当に」
「一年間ずっと悩んでいたからな、おかげですっきりしたよ。別に厭味で言ってないからな。本当の気持ちだ」
正輝は荷物をまとめてマジックポーチに収納し、マジックポーチに収納できない大きな荷物は僕の腕輪ですべて収納して宿を出た。
「リーダー、お帰りなさい。正輝さん、これからよろしくね」
美姫が京都の拠点の家で出迎えてくれた。他のメンバーは岡山のクランハウスにいる。僕達も繋ぐ札のドアを通って岡山のクランハウスに戻る。
「凄いな、これがあの時の金色の宝箱から出てきたお札の効果なのか。ここはもう岡山なんだよな」
「だろ、特級ポーションどころの値段ではとても買えないよ。これは絶対に内緒だからね」
「ああ、分かったよ。これはバレたら大変なことになるな」
西棟から東棟へ移動し、最初に空いている二部屋に案内して、自分の部屋を決めてもらった。そして部屋の中で、収納から先ほど預かった大きな荷物を出した。
「二階はすべて個室になっている。後で紹介するがほとんどのメンバーがここで寝泊まりしている」
「京都の拠点では寝泊まりしないのか?」
「こっちの方が快適だし、大きな風呂もある。念のため夜に当番が京都で寝ているよ。他の施設も案内するよ。その前に部屋の鍵を渡しておくよ」
それから一階の応接室、会議室、休憩室、資料室、クランマスター室と順番に案内して、先ほどのドアだけがある小さな部屋がある西棟へ戻り、談話室、トレーニング室、大きな風呂と案内する。
「麟瞳は、こんな大きな風呂に一人で入っているのか。贅沢だな」
「一人のときが多いけど、たまに僕の父親や、クランハウスの職員の旦那さんと入ることがあるよ。でも大きな風呂は最高だよ。疲れがとれる気がするよ」
「ああ、今日から楽しみだ」
そして最後に食堂へと案内をする。
僕より先に正輝にドアを開けて入ってもらった。
「ようこそ《花鳥風月》へ!」
皆の声がクランハウスに響き渡った。