第百二十四話 新生《カラフルワールド》
六月もあと一週間を残すのみとなった。クラン《花鳥風月》は計画通り順調にきている。《晴れの国騎士団》と《カラフルワールド》の二つのパーティともにあと四十六階層から最終階層の五十階層までの攻略を残すだけとなっている。
日曜日は休みの日だが、岡山ダンジョン完全攻略のためのミーティングを午後から行う。折角なのでお昼も一緒に食べようということで、僕の母親に休みの日だけど料理を頼んだら、なぜだか橘父さんもクランハウスにやって来て料理をしてくれるそうだ。真姫と美姫が言うには、皆生温泉ダンジョンでのドロップアイテムの食材を料理してみたいそうだ。ダンジョン産の食材は美味しいから料理人として興味があるのだろう。
僕達がリクエストしたエビフライとエビマヨ、それに海鮮がタップリ入ったパエリアとタコと貝のアヒージョにサラダがついた豪華なランチになった。料理人の腕が良く、食材も最高だ。贅沢なランチはあっという間に僕達のお腹の中へと消えていった。これだから外食がしにくくなるんだよね。美味しいの基準が上がってしまう。これも贅沢な悩みだよね。
食後はパーティ毎に別れて、明日の攻略の作戦を練る。僕と詩音が活躍して完全攻略しても意味がない。真琴、桃、山吹の三人が貢献して完全攻略を目指す。
真琴はスキルオーブの使用により新しく【風魔法】のスキルを得たが、まだ魔法でホブゴブリンを倒すような威力はない。まして最後のボスのオーガには当然効かないだろう。真琴の仕事は最初に後衛のゴブリンを攻撃して倒すこと、その後は弓で前衛のホブゴブリンの目を狙って攻撃をしてもらうことになる。新しい装備品として魔力回復の指輪とマジックポーチが与えられた。マジックポーチは矢の補充が簡単になると喜んでいた。
桃は新しく【ガード】スキルを得た。盾職の基本スキルだが、スキルがあるとないでは大きく違いが出る。ダンジョンカードでスキルを得ていることが分かったときにはとても喜んでいた。もう一つ変わったのが装備する盾だ。今までもマジックアイテムの自動修復の盾を使っていたが、攻撃盾というマジックアイテムで盾から魔力で剣が出し入れできる物に変えた。これで桃一人で魔物を受け止めてそのまま剣で止めが刺せるようになった。あるいは盾を構えて突進しながら剣を出して仕留めることもできる。魔力回復の指輪を同じく渡した。
山吹は新しく【受け流し】スキルを得た。桃が先に新しいスキルを得たので悔しかったのだろう。遅れて自分も新しいスキルを得て泣いて喜んでいた。お互いに良い刺激を与え合うライバルであり、お互いのことを良く理解する親友でもある。そしてこちらも盾が新しくなった。今までと同じ挑発の効果もあるビッグシールドというマジックアイテムの盾である。魔力を流すことで、盾が2倍まで大きくなる。こちらは桃の攻撃盾と違い防御特化の盾である。同じく魔力回復の指輪も渡しておいた。これでストックしておいた魔力回復の指輪がなくなってしまった。全員が魔力回復の指輪をしているクランは他にないだろうね。
四十五階層のボス部屋で何度もゴブリンパーティを相手に練習を積んできた。後衛の回復役のゴブリンヒーラー、遠距離攻撃ができるゴブリンメイジとゴブリンアーチャーをどれだけ早く倒すことができるかが肝心である。最近は全部の後衛ゴブリンを真琴の攻撃に任せている。後衛がいるうちは盾職が受け止め続ける。詩音も中盾で攻撃を防ぐ。真琴にはプレッシャーがかかるだろうが、そこで力を発揮できるようにならなければ成長しない。まだスキルにはなっていないが、連射スピードも速くなった。
後衛ゴブリンがいなくなれば桃と山吹が本領を発揮する。桃は攻撃手段を手に入れて、いろいろと試しながら余裕を持ってホブゴブリンの相手をする。倒し切れなくても傷を負ったゴブリンには詩音と僕がいる。山吹は三匹同時に受け止めることもできるようになった。重量軽減のお札の効果も大きそうだね。
「普段通り戦えば完全攻略は間違いなくできるよ。最後のボスは三体のオーガだ。最初に僕が一匹倒すから、残り二体は桃と山吹が防御してみよう。三メートルからの棍棒の振り下ろしをいかに防ぐかを考えてオーガの体勢を崩す。体勢を崩したら僕と詩音が攻撃を入れるよ。真琴もオーガの目を狙って攻撃を入れろよ。三メートルの巨体だ、僕達を気にせず連射できるだろ」
ダンジョンカードでスキルを確認して、四十五階層のボス部屋の戦闘を振り返り戦術を確認した。このボス部屋と同じような構成のゴブリンパーティが五十階層まで続く。岡山ダンジョンではボス部屋の戦いが重要なのだ。そしてオーガとの最終決戦の戦術も決まった。
「寝不足にならないように今日は早めに寝るようにな。それだけが心配だよ」
晩御飯も一緒に食べた。お店が開いてる筈の橘父さんまで料理していたよ。いいのかお店は!
晩御飯は和食だった。タコ飯、イカと大根の煮物、ダンジョン魚の塩焼き、ダンジョン貝の酒蒸しにおみそ汁がついて、当然のタコ飯は大盛り。もう一つのパーティ《晴れの国騎士団》も自信がありそうな雰囲気を醸し出している。
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「最後の止めを刺すっす」
オーガの攻撃をビッグシールドで受け止め、お互いにぶつかり合ったところで、シールドを小さくして躱す。見事にオーガの体勢が崩れた。そこに詩音が槍で突き刺し燃え上がらせて討伐完了だ。ハイタッチの音がボス部屋に響いた。
「おめでとう。これで三人もBランカーだ。良く頑張ったな!」
「おめでとうっす。これで同じBランカーっす。でも負けないっすからね」
《カラフルワールド》がドロップアイテムと宝箱の中身を回収して、ダンジョンの外に転移すると、《晴れの国騎士団》が待っていた。先に完全攻略を終えて待っていたようだ。元々の《桜花の誓い》の五人は喜びを分かち合っていた。既にBランカーだった真姫も一緒になって喜んでいる。短い間であるが同じパーティメンバーだ。凄く嬉しそうだよ。
今日で《晴れの国騎士団》と《カラフルワールド》は解散である。まあクラン内だけの非公式パーティだけどね。今度は《桜花の誓い》だけで完全攻略してもらおう。まあ、ほとんど僕達のパーティは真琴、桃、山吹の力で攻略したようなもんだ。明日にも完全攻略できる気がするよ。
さて、《千紫万紅》の目標をどうするかだな。もう一つCランクダンジョンを攻略してから、Bランクダンジョンに挑戦しようと思っていたが、いきなりBランクダンジョンの攻略に取り組んでも良いような気がする。後で皆と相談しよう。
買取りの時にアダマンタイトの延べ棒の納品も依頼書を渡して処理してもらった。これで六月も三位以内には入れるような気がする。そしてまたもや億越えの収入を手にすることになる。何に使うか良く考えておこう。
僕達のボス部屋の金色の宝箱からは、いつものポーションセット以外に、不壊と氷魔法が付与された刀が出て来た。綾芽が装備している槍と同じ効果の刀である。雷の刀があるので宝の持ち腐れになりそうに思ったが、美姫の一言で残しておくことにした。
「ダンジョンや魔物によって持ち替えれば良いでしょ」
確かに氷魔法に弱そうな魔物はいそうだ。こっそり二刀流を練習してみようかな?難しそうだけど、僕も成長していかないと青いオーガに勝てそうにない。まだ大阪ダンジョンの本は見せてくれない。もう少しクランの月間ランクを維持しなければならないようだ。
そしてもう一つ大事なことがある。《桜花の誓い》のパーティ名変更だ。五人の誓いが叶ったそうだ。誓いの内容はプロとしてやっていけるBランク探索者に全員がなること。今は六人のパーティだし、変更したいとのことだ。新しいパーティ名は《カラフルワールド》に決めているようだ。
「なんで《晴れの国騎士団》にしないの?」
真姫が食い下がったが、五対一で《カラフルワールド》に決定。まあそりゃあそうだよね。
黒と紺の僕と詩音がいるパーティよりカラフルになった。こうして新しい《カラフルワールド》が誕生し、探索者協会に正式に登録された。