第百十四話 会見
「クラン《花鳥風月》のクランマスター、龍泉麟瞳です。よろしくお願いします」
「サブマスターの橘真姫です。よろしくお願いします」
会見を開く当日は、二百名を超える取材陣が集まった。全世界の人々がギフトを授かり、ダンジョンに対する関心が大きい世の中である。こんな田舎の新米クランがいきなり月間ランキングで一位を取ってしまったのである。人々の興味を満たすには格好の的に違いない。悪意のある質問もあることを想定して、探索者協会から司会を出してもらい会見を仕切ってくれることになった。そして会見が始まった。僕達にとっては初めての体験、カメラのフラッシュが目に痛いよ。何も見えね~。
まずは無難にクランに関する質問がくる。いつクランが作られ、どのくらいの人数が所属しているか。大きいクランだと百名を超える探索者が集まっている。真姫や美姫が憧れる《東京騎士団》等のトップクランは当然である。管理するのも大変そうだね。僕達は小さいクランのままが良いよ。面倒臭いの嫌だし。
「クラン《花鳥風月》は三月に設立したばかりです。Aランク探索者の私がクランマスターで、サブマスターを含む四名のBランク探索者と五名のCランク探索者の全員で十名が所属しています」
何で設立したばかりの新米クランが月間ランキングで一位になれたんだという質問。まあ当然気になるよね。たった十人のしかもBランクダンジョンに五名、Aランクダンジョンには一名しか入場できない構成でどうやって一位になるんだよって話だよね。
「クランを設立して初めての遠征で、姫路ダンジョンを攻略することになりました。宝石の納品が依頼にありましたので、期限も罰則もない依頼ですから、運が良ければ達成できるかなという軽い気持ちで依頼を受けました。そして運良く依頼達成の条件に当てはまる宝石がドロップしてくれました。まさか一位になれるほどドロップするなんてラッキーでしたね」
Cランクダンジョンだけでの依頼達成で一位になったのかという質問。だよね、おかしいと思うよね。
「ええ、姫路ダンジョンだけでしか依頼を達成していません。今はパーティ毎に力をつけるためにCランクダンジョンの探索をしています。私がリーダーの《千紫万紅》は姫路ダンジョンを、橘が所属する《桜花の誓い》は姫路ダンジョンと岡山ダンジョンを探索しました。Cランクダンジョンだけしか入っていませんから、当然依頼達成もそうなります。ラッキーだったとしか言えません」
一位になるほどの宝石の依頼達成で報酬も大きかったのではという質問。他の人の懐事情って気になるものなのか?
「そうですね。報酬はそれなりにありました。どれくらいですか?三月のクラン設立と同時に、中古物件をクランハウスとしてリノベーションしているんですが、その費用が出るくらいはありましたよ」
リノベーションした後に高級家具、高級電化製品、高級クラン専用車、高級・・・何かを入れれば、僕達が得た報酬と同じくらいになるだろう。決して嘘は言ってないよ。
来月も一位を目指すのかという質問。
「本当に今月はラッキーだっただけですから、一位を目指すことはないです。今は攻略する階層から宝石もドロップしないので、依頼を受けることもありません」
ラッキーというのはそんなに重ならないのでは?特殊な何かがあるのではないかという質問。確かにスキルの恩恵がありますよ。でも言わないけどね。
「特殊な何かとは何のことでしょうか?運が良すぎる理由ですか?そうですね。しいていえば、幸運のミサンガというマジックアイテムを宝箱から得て身につけているメンバーがいることですかね」
それからも質問は続いた。訳の分からない質問も沢山あったよ。男性が僕一人で女性が九人というクランの構成からの質問が多かったよ。何にもないからね。本当に何もないから。司会の人がプライベートな質問にはお答えできないと断っていたよ。そんな言い方したら何かあるように思われない?本当に何もないから。
一時間以上たった後の最後の質問。クランは何を目指しているのか?
「最終的な目標はSランク探索者になることです。クランに所属する全員が目指している訳ではありませんが、クランのトップパーティの《千紫万紅》はAランクダンジョンを完全攻略して、Sランクダンジョンに行きます。どれくらいかかるか分かりませんが必ずSランク探索者になります」
とりあえず、会見は終わった。探索者協会にはまたお世話になってしまった。悪意のある質問は全部弾いてくれ、出来るだけ僕達が悪いイメージで見られないように配慮してくれた。とんでもない質問もあったよ。怖いね人の悪意って、今後のためにもそういう質問をする人達にはチェックを入れてもらっている。一生関わりたくないよね。これでダンジョンの攻略に集中出来ると良いな。来週からは新層攻略、思い切り暴れたいと思う。僕には相当ストレスが溜まっているようだ。