第百十二話 繋ぐ札を使ってみた
三月は《桜花の誓い》の五人の卒業式から始まり、クランの設立、クランハウスのリノベーションの注文、姫路ダンジョンの攻略開始、真姫と皐月の大学の卒業式などいろいろなイベントがあったが、すべてを順調に終えてクラン《花鳥風月》の滑り出しとして最高の形でスタート出来たと思う。
そして四月になり、順調に姫路ダンジョンの攻略を進めている僕達に、真姫から電話がかかってきた。
「麟瞳さん、クラン《花鳥風月》への取材の申し込みが沢山来ているけど、どうしたら良いかな?」
「取材って、《花鳥風月》に何を聞きたいの?」
「今日、クランの三月のランキングが発表されたのは知ってる?」
「いや、そんなのがあるのか。どこで発表されてるんだ?」
「探索者省のホームページよ。ちょっと見てみて」
美姫がスマホでホームページを探し、ランキングのページを開いて、皆で見てみた。《花鳥風月》が三月のランキングの一位になっている。
「このランキングはどうやって決まるんだ。クランを設立して一ヶ月も経っていないのにいきなり一位っておかしいだろ」
「依頼の難易度や依頼を達成したときの金額によってポイントが加算されるのよ。私達は三月に宝石の依頼を受けて達成したでしょ。依頼の難易度は最低ランクだけど、宝石一つで一回の依頼達成になるのよ。だから《花鳥風月》は合計二十一回の依頼を達成していることになるわ。因みに。ダイヤモンドは今月の29日と30日のオークションに出品するから三月のランキングには関係ないわ。そして麟瞳さんのおかげですべての宝石が最高品質だから、高額な依頼達成金額になっているのよ。三月だけの実績で比べるんだから、私達多分断トツ一位よ」
「宝石一つで一回達成なら他にもいそうだけどね」
「いるわけないでしょ。あんな大きな宝石が何個も出てくるのがおかしいのよ」
「おかしいって・・・分かったよ。それより取材って受けないといけないの?」
「全部を受ける必要はないと思うけど、全部を断ることはダメでしょうね。メジャーなところは受けた方が良いんじゃないかな?」
「取材は真姫が全部受けるっていう案はありかな?」
「そんなのダメに決まってるでしょ。新米クランなんだから、クランマスターが取材を受けないとダメよ」
「一人で取材を受けるのは嫌だな。クランの仕組みをいまだによく理解してないから、変な質問には答えられないよ」
「美姫をサブマスターにでもして、一緒に取材を受ければ良いんじゃない」
美姫にサブマスターになるか聞いたところ即答で拒否された。
「真姫がサブマスターだな。クランのことはほとんど真姫に任せているし、仕組みも良く理解している。よし、決定ね。真姫、お前が《花鳥風月》のサブマスターな。よろしく」
「なんで私なのよ。そんなに適当に決めて良いものなの?」
「熟考した上でだよ。取材に関しては今週の土日にでも一回岡山へ帰るよ。その時に決めよう」
取材って面倒臭いな。まさか一位にランクされるとは思ってなかったよ。というか、ランク制度さえ知らなかったよ。
「ということで、今度の土日は岡山に帰ってくるよ。日曜日の夜にはこっちに帰ってくるけどよろしくね」
「取材って何処で受けるっすか?岡山なら毎回帰らないといけないっすよね。大変っすよ」
「どうなんだろうね。まだクランハウスが出来るのも二ヶ月後だし、何処で取材って受けるんだろうね?」
「リーダーが土日に岡山に帰るのなら、例のお札を使ってみる。この拠点の家の使わないドアとリーダーの家の使わないドアを繋いだら楽に移動できるようになるわよ。私も楽にお肉が渡せるようになるわ」
「そうだよね。一回使ってみようか?絶対にバレないように注意はしておこうな」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「じゃあ、岡山に帰るよ。向こうについたら、僕の家のドアにもう一枚のお札を貼ってこちらに戻って来るよ」
土曜日の朝に、車で拠点の家を出発して岡山に帰ってきた。
「ただいま」
「お兄ちゃん、お帰り。姫路ダンジョンの攻略は進んでる?」
「ああ、来週からは二十一階層から三十階層の攻略に入るぞ」
「で、今日はなんで帰ってきたの?」
「あれ、真姫に聞いてないか?取材の事について真姫と話すために戻ってきたんだよ」
「ランク一位って凄いよね。私達も職員の人達に声をかけられるようになったよ。全部お兄ちゃん達のおかげなのにね」
久しぶりの我が家であるが、何処のドアにお札を貼るのか決めないといけない。
「父さんと母さんはまだ寝てるのかな?」
「お母さんはさっき起きてたよ。用事があるの?」
「ああ、内緒の用事だ。父さんと綾芽にも知ってもらわないといけない用事だよ」
リビングに家族で集まってもらった。
「この家で絶対に使わないドアってある?」
「絶対に使わないドアが何で必要なんだ」
家族全員に繋ぐ札の説明をして、誰にも知られないように注意することも話した。
「じゃあ、麟瞳の部屋の押し入れのドアでも使えば良いだろ」
「いや、僕の部屋の押し入れはいっぱい物が入ってるんだけど・・・」
「全部収納しておけば良いだろ。よし、決まりだな」
流石の母親である。即決で決まったよ。とりあえず言われた通り、押し入れの中のものを収納して、ドアにお札貼ってみた。ドア開けると姫路の拠点の家に繋がっていた。
「皆、岡山と姫路が繋がったよ」
四人で僕の部屋に戻ってきた。不思議だね。