後日談
**
解決から二日後、私の目は完全に包帯の暗い世界から解放された。
転生していると気付いた瞬間と同じ体験をしていると言ってもいい。世界がキラキラと眩く輝いていて、画面の奥にしかなかった世界に手が触れる感動。
「見える、見えるわ……!」
諸手を上げて喜んでくれる子爵家の家族たちは私の快気祝いを盛大にしようとしたが、元々大怪我というわけでもなかったので辞退した。
その代わりではないだろうが、する側受ける側の二人が完全回復した最初の授業で教卓に手を置いた教師――クロードは満面の笑顔で言った。
「授業めんどくさいですね。何か食べに行っちゃいましょうか?」
事故という名の傷害事件が起きた日と同じ台詞であるとすぐに気付いた。
「だったら甘い物がいいです。もちろん先生の奢りで」
私も同じ台詞を返す。
授業開始直後のお決まりの流れになるならそれでもいいけれど、今回は同じやり取りをしたかった。
「では、今日は課外授業ということにして、行きましょうか」
「え、本当に行くんですか?」
「ええ。やろうと思っていた前回の石を使っての授業ができなくなったので、やることがないんですよ」
「それって、生徒会長の攻撃を防いでくれたっていうあの時のですか?」
まだ包帯で視界が覆われていた頃なので見えなくて残念に思っていた。ゼリニカ曰く、クロードが光魔法を使ったらしい。
私がまだ使えない魔法を使っていたようだが、光属性本人の私が見れなかったのは悔しい。いつか教えてくれるだろうか。
「そうですよ。先生の大事な友人が教えてくれた魔法の一つです」
「…………」
先生の大事な友人。
それは元婚約者のことだ。離れ離れになってもまだ「友人」と呼べる関係で落ち着いていることに安心していいのかまだ判断できない。
同時に「教えてくれた魔法の一つ」という言葉に引っ掛かりを覚えてしまった。
言及すべきか否か。
課外授業――もとい外にスイーツを食べに行くことに乗り気になっているクロードに言及して藪蛇をつつく結果になると私が辛い。
まぁ、追々、覚えていたら、その時にということにして、教室を出る。
「本当にいいんですか? 怒られたりしませんか?」
しつこく確認を取るのは、他の教室が絶賛授業中だからである。
お互いに婚約者がいないとしても異性と二人きりでどこかに出かける危険性も含んでいる。
「そこまで気にするなら他の方も呼びましょうか? フォールドリッジ公爵家のご令嬢とか、ドルトロッソ宰相のご子息とか」
「えっ、あっ、ゼリニカ様とノーマン様をお呼びできるようなお店なんて知らな」
「じゃあ、二人で。これも友人から教えてもらった場所なんですけどね?」
めっちゃ友人から教えてもらってるな、この先生。
なるべく誰にも見つからないように静かに、私たちは学校を抜け出した。
**
これはクロードもゼリニカも知らなくていいことなのだけれど、包帯が取れた私は真っ先に今回の現場となった教室に授業よりも先に足を運んだ。
普段と何も変わらない教室内部に、私は自分の考えが間違いではなかったことを確信した。
何も変わらなすぎたのだ。
教室後ろの本棚の位置や額縁の位置、机と椅子の見えない部分の些細な拭き跡など、私の記憶にある事件前の教室とほとんど同じだったから。
唯一違っていたのは、プリズムが置かれていたと思しき不自然な床の窪み。
それは、風の魔法で削られた綺麗な窪みだった。
どうして誰も気付かなかったのだろう。
それはもしかすると、この世界ならではの――魔法がある世界だからこその油断の現れなのかもしれなかった。
クロード・ランドシュニーというキャラクターを作りたかっただけと言ってもいいです。
目が見えない主人公の代わりに探偵役になれる人がいない世界の危機感。なんて言いつつ己の未熟さを誤魔化します。
いいね、評価ありがとうございます!




