中間、そして吹雪
ラヴたちが出発して二日目。
ラヴ史上最大の猛吹雪が一団を襲う。
「どーしよ……」
「私たちは進めるけど、モニカ先生は……」
吹雪になることを想定したラヴたちはガラス工房に頼み込んで現代日本で販売しているゴーグルと遜色ない代物を手に入れていた。
そのためラヴたち五人とノーマンならばこの吹雪の中進軍することもできるだろうが、モニカがいるなら話は別だ。
彼女は従軍経験があると言っても一介の養護教諭。猛吹雪の中の行軍に付いていけるはずがなかった。
「先生。閉所恐怖症とかってありますか?」
「いえ、特には」
「でしたら少し狭いですが棺お――リュックの中に入ってもらいましょう」
この棺桶はラヴにとっていわば寝袋だ。
そこに他人を入れるというのは些か抵抗があるものの、成績には変えられない。
そうして本人の了承を得て、ラヴが暇つぶしに読もうとしていた書籍と一緒に棺桶に封印した。
密封性、防音性、耐久性、断熱性。
どこを採っても完璧なこの棺であれば吹雪の中だろうと快適なはずだ。
尤もこの棺にも弱点は多々ある。
例えばあまりの密封性で定期的に換気しないと熱が籠もることや常人の力では決して開けることができないほど固く閉ざされた扉、果ては外部と一切の連絡が取れないため中に入れて放置していたらいつの間にか死んでいる可能性があるということだ。
「それ大丈夫なの……?」
「慣性が殺せるわけではないから、中で動いたらすぐ分かるよ」
ジタバタと五秒程度動いたら外に出して欲しいと言う合図にしている。
実際何度か試してちゃんと振動は伝わってくるので問題ないだろう。
「それで、私たちはこれ」
「ロープ?」
先頭はマリー。次にラヴ。ローラ、カティ、ケイト、そして最後尾はノーマンだ。
マリーの後ろがラヴは理由は万が一マリーが転落しても素早くロープを切られるためである。
そう。助けるためではないのだ。
「ごめんね。マリー」
「致し方ありませんわ」
マリーの体重は数十トンにも及ぶ。
キロではない。トンなのだ。
人化の魔法は質量までは変えられない。
竜であるマリーが人になったとしても、その本体の重量は未だに健在なのだ。
普段歩くときは浮遊魔法によりまるで歩いているようだけど、実は浮遊するという高度な技術を使っているらしく、竜が人の社会で暮らす必須スキルなのだとか。
日常を送るのならばそれで問題ない。
しかし足を踏み外したとき、または跳躍したときなどはその質量はそのまま運動量となってロープへ伝わり、ラヴたちへと襲いかかるのだ。
「ラヴー! 聞こえてますのー!?」
「聞ーこーえーるーよー!」
猛吹雪は数メートル先の視界も遮り常にゴーグルを拭いて進まないと前すら見えない状態だ。
今はとりあえず進むことはできているが、これでは力技にもほどがある。
「ラーヴー!」
「なーにー!?」
マリーが一点を指してラヴに伝えようとするが彼女の指がどちらを向いているのかすら分からない。
とりあえず密着して腕が向いている方向を確認するも、彼女が何を伝えようとしているのかまったく分からない。
「ほーらーあーなー!」
マリー曰く、指している先には洞穴があるらしい。
一同逃げ込むように洞窟へ入り、ゴーグルマスクを取っ払う。
窮屈な防具から解放された一同は魔法で焚き火を付けて洞穴全体を暖める。
「ふーっ、生き返るー」
「ねー隊長。これ試験クリアできる班いるの?」
不満げに愚痴を続けながら作業を進めるラヴにノーマンが苦笑いする。
「これは南部もキツそうだしな」
「再試験の可能性は?」
「万が一ないことを考えるとこの試験でちゃんと成果を出しておけ」
南部地方なら雪が降っていてもここまで積もることはないが、中部から北部にかけてのルートを指定された班は概ね全滅だろう。
「それで、これからどうしましょうか」
「まず指令がちゃんと伝わらないのは如何なものかと」
「ハンドサインも使えないからねぇ」
毎回大声を出さないといけないというのは行軍活動に支障を来す。
「声を伝える魔法とかないの?」
「ある。けど送るだけ」
「あるのか」
念話という使用者の心の声を伝える魔法だ。
しかし相手の心が読めるようになるわけではないので一方通行。
相手からの声が聞きたい場合は相手も念話を覚えている必要があるらしい。
「私にもできそう?」
「簡単」
互いに額を当ててぴったりと身体をくっつける。
『聞こえる?』
「おー」
ローラの声が頭の中に直接声が届き、まるで耳元で囁かれているかのように感じる。
「これってどれくらい離れても繋がるの?」
『隣の村までは繋がるって聞いたことある』
「十分」
傍から見るとラヴが虚空に向かって独り言をしているだけの絵面になるのだが、幸いここには一〇一班の皆しかいない。
「念話ってローラ以外に使える人いる?」
「ボク使えるよ」
「わたくしも」
「アタシもー」
「はー?」
使えないのはラヴだけだった。
使えるのならさっきもマリーからラヴにかけての提案は念話で良かったのでは。
そう思うラヴだったが、もしかしたら自分に遠慮して使わずにいてくれたと思うと申し訳なさしかない。
――もしかして、皆も……。
第一部隊の皆もラヴに出会うまでは念話によって作戦指示を出していたのかもしれない。
だとするととても申し訳ないことをしてしまっていた。
「ローラ、私に念話教えてくれる?」
「うん」
「では、わたくしたちは洞窟の調査をしておきますわね」
皆が洞窟の調査をしている中、ラヴとローラは二人で魔法の練習をしていた。




