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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第三章 軍学校と吸血鬼・後期
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初雪、そして自主トレ

 初めての依頼が終わり、その後も優良物件を見つけては依頼を何度も繰り返した。

 しばらくすると自力で依頼のシステムに気付いた候補生たちが情報を開示し優良物件の取り合いになるも、その頃にはラヴたち一組の面々は一、二箇所とはコネを持てていたので問題ない。


 依頼、自主トレ、座学、行軍。

 そのサイクルを繰り返し、休日なんて関係無しに目まぐるしい日々が続く中、ラヴたちに一本の通達が届く。


「明日の行軍演習は中止とする」

「まー、しゃーなしだよね」


 理由は天気。今王都は寒波が襲来しているらしく、一昨日からパラパラと雪が降っていた。

 初雪の時期的には例年通りなのだが、問題はその量だ。


「真っ白だもんねー」

「ね」


 猛吹雪や常時降っているというわけではないのだが、断続的にとは言えさすがに三日間も降ればかなり積もる。

 気象庁曰く寒波を受けた雪の精霊が例年よりも早く起きたのだとか。


 それで「なるほど」と納得できる住民はファンタジーに慣れ親しんだ人たちなのだろう。

 ラヴにはまったく意味が分からなかった。


「来週の中間考査は雪中行軍となる可能性がある。指定されたものは必ず用意するように」


 そうしてホームルームが終わり、その日の授業は幕を閉じた。


「ラヴっち。今日どうする?」

「うーん」


 いつもなら木曜日の座学が終わったら翌日のために少し運動して身体を慣らし、その後五人でカフェに入って復習するのがお決まりだった。

 しかしこの雪ではいつもの自主トレはできないだろう。


「いっそのこと雪山行軍の練習でもする?」

「危険ではありませんの?」

「さすがに山に入るのは危ないだろうね」


 山に入りはしないが、王都周辺の雪原を歩き回ることくらいならできるだろう。


 雪中行軍は種族差、経験差がはっきりと分かれる行軍内容だ。

 しかしラヴたちは皆一緒に第一部隊に選ばれると誓った身。

 全ての成績で一位帯をキープするため、そんなことは言っていられない。


 種族差なら知識と技術で埋める。

 経験がないのなら経験すれば良いだけだ。


「じゃあとりあえず皆着替えたら正門前に集合で良い?」

「りょー」


 そうして待つこと三〇分。

 ぞろぞろと厚着の少女たちが集まり、五人で城壁の外に出る。


 皆各々が思う最善の装備で進行する。


「うー、さぶさぶ」

「山だともっと寒くなるよ」


 ざっくざっくと音を鳴らして雪原を歩く一団。

 どのくらい歩いた頃だろうか。一番に根を上げたのはローラだった。


「無理……寒い……」

「大丈夫?」


 他四人は雪原を歩き、ローラは宙に浮いている。

 つまりローラは運動をしていないのだ。


 それはいわば雪が降る中外に出て座っているに等しく、自分で動かない分ラヴたちとは比較にならないほど急速に熱を奪われる。


 とは言えローラは運動できないことを自覚している。

 田舎の村で育った分都会のもやしっ子よりかは体力はあると自負しているが、それでも年相応の体力であることには変わりない。

 加えて周りは体力お化けばかり。唯一仲間だと思っていたカティもラヴの守護天使になってから身体能力が爆上がりしてしまった。


「ローラ。これ、使って」

「あ、ありがとう」


 ラヴが渡したものは魔石と呼ばれる魔物から取れる物質だ。

 どう言う原理かは知らないが魔石には魔法を付与することができ、魔法を付与した魔石を持つと魔力があれば誰でも魔法を扱うことができる。


 とは言え魔力を持つ者はたいてい魔法も自分で扱えるため、あまり需要があるわけではない。

 しかし特定の条件下に置いては非常に有用な使い道があるのだ。


 例えば――


「あったかぁ……」


 ラヴが渡したのは加熱の魔法が込められた魔石だ。

 雪山行軍の際にはお世話になった非常にありがたい代物である。


「でも回数あまり多くないから使いすぎないようにね」

「うん」


 雪原を歩くだけでもかなりの収穫があった。


 ローラの熱源から始まり思った以上に足を取られる雪原。

 雪が続けば足跡が見えなくなるし、雲があったら方角も分からなくなる。

 一面が雪で覆われ色がなくなった世界は予想以上に不安を煽る。


「とりあえず必要そうなものを買いに行こう」


 城内に戻ったラヴたちはさっそく必要なものを買い漁る。


 魔石や魔具はすぐに買えるがコートのように時間がかかるものもある。

 万全を期すためにも行動は早いほうが良いだろう。


「えぇと、あと必要なものは……」

「ラヴっち! このマフラー欲しい!」


 カティが持ってきたのは超ロングマフラー。

 その長さはまさに、二人分の首が巻けるほどに。


「って、これカップル用じゃない」

「守護天使と主人なら全然アリっしょ!」

「そうかなぁ」


 だとしてもダメだ。

 一つのマフラーを共有するというのは普通に考えて作戦行動の邪魔になる。

 日常的な使用なら別に良いが作戦行動中は頂けない。


「お揃いで我慢して」

「マー? やりーっ!」


 嬉しさのあまりぴょんぴょん跳ねるカティを余所にラヴは買い物を続ける。

 尤も、武装をしすぎて武装に頼りすぎる部隊と揶揄されてもいけないので過剰な武装はしないつもりだ。

 そもそも装備を持ちすぎてもケイトの負担が大きくなるだけ。雪中行軍には立派な装備よりも必要なものは山ほどある。


「なんで装備って自分の分だけしか持てないんだろうね」

「たくさん持ってた人が戦闘不能に陥ったら大変でしょ」


 例えばラヴとマリーが持てるだけの食糧や装備を持っていたとして、長期の行軍計画を立てていたとしよう。

 そこでどちらかが戦闘不能に陥ったらそれだけで行軍計画が頓挫する。それどころか場合によっては引き返すことすらできなくなるのだ。


「誰が倒れても他の人は作戦遂行できるように。少人数での行軍はその意味合いが強いの」

「……そんな悲しいこと言わないでくださいまし」


 しかし軍にいればどうしたってそういうときは来るのだろう。


 五人は改めて自身が置かれている立場を自覚する。



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