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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第三章 軍学校と吸血鬼・後期
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奴隷、そして確認

 聞き間違いだろうか。

 ノーマンはあまりにも理解が及ばない言葉に目眩を催す。


「は?」

「吸血鬼、正確には吸血鬼もしくはそれに準ずる何かを作っちゃったんです」


 ノーマンは吸血鬼の知識を呼び起こす。

 吸血鬼は今から約三五〇年前に絶滅した種族。


 絶滅の理由はただ一つ、吸血鬼イザベラの消滅。

 原初の吸血鬼にして四神が一柱。

 他の神が創造する力を持つのに対して唯一改変する力を有し、多様性という概念を生み出した神。


 本来四神が生み出す眷属はたった一種類のはずだった。

 それを幾つもの要素に分割し、再結合することで数多の種族を生み出した生命の神。

 魔王国の魔人が多岐に亘るのは偏に彼の神のおかげであり、彼の神が消滅してからは新しい種族は生まれなくなった。


 しかし、新しい吸血鬼を生み出したとラヴは言う。


「まず聞こう。誰を変えた?」

「奴隷です。セカンドって名付けました」

「……人間を吸血鬼に変えたのか」

「あら? 怒らないんですか?」

「人間が魔人になるケースは稀にだが存在するからな」


 最も多い例が悪魔の契約だ。

 悪魔は気に入った奴隷を魔人にすることがある。

 魔人になったら法律上は奴隷ではなく使い魔という形になるのだが、待遇が変わることは殆どないと聞く。


 ほっと胸をなで下ろし、緊張をほぐすノーマン。


「てっきりマリー辺りがやられたと思ったんだが、いや良かった……」

「私、ちゃんと言いつけ守ってますよ」


 そんなことよりと、話題を軌道修正する。


 ノーマン曰く、セカンドが吸血鬼化しても大して問題ではないらしい。

 しかし今の時点では世界に二人しか居ない吸血鬼なので公にするのは憚られる。


 現代日本でもそうだ。

 絶滅したとされていた動物が生きていたらニュースにだって取り上げられる。

 きっと吸血鬼が生きていたと民が知ったら旧舎の入り口に出待ちされること間違いない。


 ――それに私の美貌が合わさったら、絶対厄介事に巻き込まれちゃう。


 ラヴの思考は経過がどうであれ、結果としては的を射ていた。


「とりあえずもう一人奴隷が欲しいんですけど」

「あの最初に飼った奴隷じゃダメなのか?」

「あのですねぇ」


 呆れたように問うラヴ。


「他人が舐めた飴を食べたいと思いますか?」

「……なるほど、そう言うものなのか」


 既経験を忌避するラヴのことだ。

 他人が口を付けた食べ物は絶対に手に取らないだろうと容易に想像できてしまう。


「奴隷を追加で購入することは認めよう。しかし他の魔人を吸血鬼化することは禁止する」

「え、どうしてですか?」

「吸血鬼化するということは日中出歩けないと言うことだろう」


 城壁内で暮らす魔人は余程の理由がない限り戸籍登録がされている。

 そのため捜索願を出されたら憲兵が捜索に当たるし、そこでもしも見つかりでもしたらラヴが吸血鬼だとバレてしまう。


 そして何より種族が変わると言うことはその人の人生が大きく変わると言うこと。

 夜行性ならまだ良いが。昼行性の魔人がいきなり吸血鬼になったらもう二度と太陽の下に出られなくなるのだ。


「それは可哀想ですね」

「そう思うなら、あまり妄りに増やそうとはするなよ」

「分かりました」


 話はそこで終わり、席を立とうとするラヴ。


「少し待て」


 しかしノーマンに止められて、何か他に連絡事項があるのかと首をかしげる。


「この一週間、軍が保有する書庫に行っていてな」

「心躍る響きですね」

「言っておくが佐官未満は入れんぞ」


 別にやましいことを思ったわけではない。

 前世でも国の歴史を綴った読み物なども好きだったので、ただの知的好奇心だ。


「それよりも、これを見ろ」


 そう言って渡されたのは数枚の紙。


 きっと読めと言うことだろう。

 そう思って流し読みしていくと、最初のページで何について書かれたものなのか理解できた。


「これは……吸血鬼の生態、ですか?」

「あまり詳しくはないがな」


 現代の吸血鬼は歴史上の生き物だ。

 そのため小説などのフィクションに登場することはしばしばあるが、その生態を記した書籍は滅多に出回っていなかった。

 ラヴも何度か古書店に足を運んだことがあるので分かるのだ。


「軍の書庫とは盲点でした」

「保存魔法のおかげで無傷の資料が手に入った」


 その資料を読んでいくと、なるほどなと納得できる部分が多々あった。

 不老不死ではあるものの昔の吸血鬼もやはり弱点は同じなようだ。

 日光に当たると死に、心臓に杭を打ち込まれると死に、強烈な臭いに忌避感を覚えるらしい。


「あ、でも銀で攻撃されても死にはしないんですね」

「銀で攻撃すると一般的な人と同じような強度になり、刃物が刺さりやすくなるらしいな」

「はい。ネイルケアのためにいつも持ち歩いています」


 そう言ってラヴは魔法のポーチから爪やすりや爪切りを取り出した。

 普通の爪切りでは切ろうとしてもまったく切れず、無理矢理やったら折れ曲がってしまったことがある。


 そこでラヴは刃の部分が純銀製の爪切りを特注した。

 非常に高価なものであったが致し方ない。

 なおメッキで良かったのではという発想に至ったのは買った後のことだった。


「しかし銀で攻撃されても死なないのですね」

「あぁ。それはあくまで傷つけやすいと言うだけで、死に至らしめるのは太陽に焼かれるだけのようだな」

「ふむ……」


 非常に興味深い。

 と言うか生死に関わるものだ。興味を持たないとふとしたことで死んでしまう。


「隊長。こちらお借りしてよろしいですか?」

「構わない。元よりお前に渡す予定だったからな」

「ありがとうございます」


 やはりノーマンは何だかんだ言って生徒思いの先生だ。


 そうしてラヴは資料を受け取り、旧舎に帰った。



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