帰路、そして帰還
旅の帰路は酷いものだった。
帰路自体は行きよりも圧倒的に楽だった。
盗賊も出なければ幸い魔物にも遭遇しない。
街道には一定間隔で魔王軍の旗印が立てられていて、先の騒動から中央軍が動いたことが伺える。
軍には貴族が囚われたとは報告していないはずだが、それでも南部と中央を繋ぐ主要街道で起こった事件だ。
今後の流通のためにも、そして国家権力の権威のためにも掃討作戦が組まれることは不思議ではなかった。
しかし問題はそこではない。
商隊の空気が重い理由は偏に屋敷のメイドの訃報が原因だった。
「……儘なりませんわね」
終わった気でいた。
盗賊に襲われたのが始まりで、盗賊から救い出したのが終わり。
確かに、ラヴたち助ける者からすればそうかも知れない。
華麗な救出劇だ。
囚われの姫を助け出し、人々から褒め称えられ、富を手に入れて幸せに暮らす。
そこで主人公のお話はハッピーエンド。
しかし、助けられた者はそうではない。
盗賊に襲われ、日常が破壊され、そして助けられなかったらそのまま死に、運良く、もしくは運悪く助けられたらそこからがスタートなのだ。
精神的に不安定になり、己が身体を嫌悪して、時には助けた者を憎みさえする。
そして耐えられなくなった者から、死んでいくのだ。
ラヴたちは、終わった気でいた。
「楽しそうに……話してたのに……」
ローラが嗚咽を交えて想起する。
ローラもあの場に居たのだ。
主人と従者が楽しげに笑う姿が。それを皆が終わったことだと勘違いして、微笑み見守る姿が。
張本人から見たら、どれほど滑稽なものだろう。
救った気でいる中途半端なヒーローが。己が快楽のために人助けをする偽善者が。
そう考えるほどに、間抜けでちっぽけな自分に嫌気が差す。
「さっきまで、生きていたのに……」
今まで悪いのは人間だけだと思っていた。
国内の犯罪には気付いていなかった。
いや、もしかしたら本能的に背けていたのかも知れない。
内乱を繰り返す人間の国を嘲笑う理由が欲しかった。
バカなことをしていると蔑み魔人が優位であることを信じたかった。
しかし結局は魔人も人間も、同じヒトだ。
国内での犯罪がなくなることはなく、今もどこかで殺人強姦窃盗が起きているのだろう。
人間以外の人身売買だって、見えていないだけでそこら中で起きているはずだ。
「もう、分かんないよ……」
「ローラ……」
四人はかける言葉が見つからない。
きっと四人は既に答えが出ているのだろう。
しかしそれを言ったところで何になる。
何を言っても正しくて、何を言っても間違っている回答に何の意味がある。
持論を呈したところできっと他人は納得できない。
答えだけではダメなのだ。その答えに辿り着くまでの無数の道筋こそが、個が個である所以なのだから。
「ローラ。きっと私たちじゃ、貴女の答えを示せない」
ローラの肩を引き寄せて、顔は強く胸に押し当てた。
きっと本人は苦しいだろう。
しかし、その苦しみで救われる感情もある。
「一緒に考えよう。考えて、考えて、それでもダメなら、明日も、明後日も、ずっと一緒に考える」
「う……ん……」
ローラはきっと感じすぎてしまうのだ。
ならば、少なくとも精神的には忍耐強いであろう自分たちがローラの助けになってやらないと。
四人は少女の心を守るため、せめて答えを見つけられるまでは一緒にいようと心に誓う。
◆
王都に帰るとそこにはいつもの光景が広がっている。
大勢の市民が和気藹々と大通りを歩き、彼らの顔には一つの恐怖も映っていない。
皆、盗賊や魔物、戦争は自分たちとは無関係だと思っているのだ。
実際大半の者はその通りなのだろう。
一生王都の城壁内で暮らし、外の世界を視ることのない住民たちにとっては城壁内こそが世界の全てだ。
そんな者たちに、危険を説いても聞き入れてくれるはずがない。
「……盗賊を懲らしめて、何か変わったのかな」
ぽつりとケイトが呟いた。
「きっと変わらないでしょうね」
「また次の盗賊が現れるだけかも」
少しの間は大丈夫だろう。
軍が掃除をし、目を光らせている間は新しい賊も寄りつかない。
しかし一年、二年。
人々の記憶から惨劇が消えていく頃には、きっと新しい賊が住み着いている。
いたちごっこだ。賊を討伐したところで根本的な解決には至らない。
「それでも、被害は減らせたよ」
あのまま盗賊を野放しにしていたら、今日も明日も被害が出ていたかもしれない。
そんなことになるくらいならこの手で引導を渡した方がずっとマシだろう。
「今のボクたちには根本的な解決はできない。でも、たとえ対症療法だったとしても、やらないよりかは良いはずだ」
「そう……信じたい」
平和に暮らしている人々が悪いわけではない。
彼らも必死に生きているのだ。
その必死さの方向性が壁外の人々とは違うだけで、非難される覚えはないだろう。
けれど、今のラヴたちは何も知らない彼らが幸せそうに過ごしている姿を直視することができなかった。




