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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第三章 軍学校と吸血鬼・後期
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隣町、そして引き渡し

 道中アクシデントがあったものの翌日には隣町――パイスセーロに到着していた。


 ここは王都から近い位置にあるがこれより先には農村部しかない田舎町。

 この町は観光客を引きつけるようなものはない。

 しかし周囲の村々から送られてくる農作物を集約し、南部の各都市に食糧を供給する役目を担っている重要な町だ。


 そのため市民に対して土地が広く、地方都市に劣らない経済力がある。


「僕らは保護した被害者の受け渡しがあるけど、君たちはどうする?」

「特にご指示がなければ手伝いますよ」


 それは助かるとフランクもラヴの提案を受け入れた。


 話を聞く限り、被害者たちの精神状態は尋常じゃない。

 しかしそれも仕方のないことだった。

 保護した被害者は少女六人。三人が商隊に同行していた村娘で一人が商隊長の娘、一人がメイド見習い、そして一人が土地を治める領主の娘。


「領主の娘? 紋章は掲げていなかったのですか?」


 盗賊は貴族を襲わない。

 貴族を殺すと確実に領軍が動き、場合によっては国軍を挙げての盗賊狩りが始まるからだ。


 そのため大きな商隊になると貴族の庇護下に入り収入の一部を納めることで紋章を借り受け後ろ盾を得る。


「どうやら旗を掲げていたにも関わらず襲われたらしくてね」

「それは……恐ろしいですね」


 旗を掲げていたにも関わらず襲われたということは考えられるのは三つ。

 一つ目は馬鹿な盗賊団が暗黙の了解を守らず襲った。

 ただ、これはあまり考えられない。


 盗賊がどうして盗賊になるのかを考えると解るだろう。二世三世ならまだしも、平民が盗賊に身を窶す理由は生きたいからだ。

 食糧難、経済破綻、重税。何だって良い。まっとうに過ごしていたら生きていけないから犯罪に手を染めてまで生きながらえる。

 故に身の危険には非常に敏感で、自らを凌駕する武力を持つ貴族を襲うはずがない。


 二つ目はその辺の貴族ならば歯牙にもかけないほどの武力を持っている盗賊団。

 アヴァリティアのような犯罪組織が裏で糸を引いている盗賊団ならば下級貴族を殺したところで対した痛手にはならないだろう。


 そして最も面倒なのが、裏に別の貴族がいる場合だ。

 依頼や圧力によって特定の貴族や商隊を害すように言われたのなら、ラヴたちが関わって良い案件じゃない。貴族の諍いに巻き込まれるなんてまっぴらごめんだ。


「何が恐ろしいんですの」

「何なにー? 何の話ー?」


 そんなことを考えていると班の貴族組――もとい予科組が首を突っ込む。


 聞くところによると予科組の半数以上は貴族の出らしい。

 その中でもマリーとカティは別格。

 三公と呼ばれる貴族の中の貴族。その嫡女たちだ。


 マリーはその口調からそんな気はしていたが、カティに関しては言われるまでまったく気付かなかった。

 それはカティの一族――つまりは天使の方針らしく、子供の頃は質素で慎ましやかに過ごし、忠義に生き、民に尽くし、お小遣いは毎月銀貨五枚という教えを叩き込まれるのだとか。


「保護した子たちがいたたまれないって話」

「まったくですわ!」

「……ね」


 マリーは激しく、カティは静かに怒りを表す。

 普段の二人とは対照的なその姿勢についつい可愛いとさえ思えてしまう。


「昨日王都に早馬を出したから、今頃残党狩りの部隊が組まれているはずだよ……ほら来た」


 夜空を見上げると、そこには一匹の猛禽類がラヴたちの頭上を旋回している。


 ノーマンの使い魔だ。

 タカなのかワシなのかトビなのか知らないが多分猛禽類だ。


 名前はなく、ラヴはこの鳥のことをピーちゃんと呼んでいる。


「ピーちゃん。おいで」

「ピーッ」


 腕まくりをして止り木を作るとピーちゃんが猛スピードで腕に目掛けて飛びかかる。


「うわっ!?」

「ピーちゃん、ちゃんと止まれて偉いねぇ」


 急降下したピーちゃんはラヴの腕につかみかかる直前、翼を勢いよく羽ばたかせて減速した。


 フランクが驚き後ろへ跳躍する。ラヴに懐いている使い魔だと分かると警戒を解くが、いきなり一メートル近い猛禽類が飛んできたら誰だって驚くだろう。

 呆れた様子で安心するフランクは次からは一声かけてくれよと剣を収める。


「そくたつー」

「おーっ」


 脚に備え付けられた小筒から小さな手紙を取り出した。

 そこには「事情把握。救援は必要か?」と書かれていて、その字は紛れもなくノーマンが書いた字体だ。


 依頼を受ける班は必ず予定を担任に提出する。

 それは個人的な依頼でも提出することができ、その場合は学校の成績判定に加算されることもある。


「必要ありません。帰還は予定通り。っと」


 返信を書いてピーちゃんの小筒に封をする。

 頭を数度撫でて可愛がると、腕を振って助走を付ける。


「よろしくねー」

「ピーッ!」


 使い魔を見送ると、ラヴたちは再び目的地を目指して馬車を走らせる。


「そう言えば、保護した子たちはどこに預けるの?」

「身元が分からない子は教会に、ご令嬢とその従者はそこで領主の遣いに引き渡す予定だ」


 昨日の時点で既に早馬を出していたので、教会への受け渡しはスムーズに進んだ。


 どうやら報告を聞いた領主が裏で受け入れ手配をしていたようだ。

 毛布と風呂、温かい食事の準備が既にできており、聖職者であっても男衆は可能な限り姿を見せないように通達されていた。


「お嬢様をお救いくださった商隊と軍学校の方々ですね」

「詳しいご事情を伺いたいので、皆様、一度当家へお越し頂けますか」


 貴族の誘いを断れるわけがない。

 一〇一班だけならばマリーとカティが嫌だと言えば断れるだろうが、できるだけ角が立つ行動は慎みたい。


「行きましょう」

「ありがとうございます。馬車をご用意しておりますので、どうぞ、こちらへ」


 そうしてラヴたちは、領主の屋敷へと足を運んだ。



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