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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第三章 軍学校と吸血鬼・後期
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狩猟、そして手解き

 行軍演習も何回か繰り返し、多くの班が安定してクリアできる様になった頃。

 既に安定していた優秀な班たちは、先へ先へと行軍内容が変更されていた。


「ケイト! そっち行きましたわよ!」

「任せッ……て!」


 迫り来るフレイムファングを巧みにかわし、すれ違い様に首を切った。


 きゃうんと鳴いて地面に伏せる。

 立ち上がる力もなくなったフレイムファングは横たわったまま死に逝く時間を過ごすだけだ。


「今楽にしてあげるから」


 鎖骨の隙間に鋭利なナイフを入れて心臓上の頸動脈を貫くと、魔物は静かに絶命する。

 このやりとりにも慣れたものだ。


「えぇと、フレイムファング、フレイムファング……あった、牙と魔石と毛皮ね」

「何見てるの?」

「素材リスト」


 ラヴからペラリと渡されて、一枚の紙を受けとったケイト。

 そこには王都近郊で出没する魔物と、それぞれの魔物の部位らしき単語が記載されていた。


「ラヴの字じゃないですわよね?」

「依頼だよ。魔物を討伐することがあったら取ってきて欲しいって」

「……怪しいところじゃないですわよね?」


 やっぱり誰もが最初はそう思うのか。

 ちゃんとメルラからの紹介で知り合った人物だから大丈夫だと伝えたら、「それでも関銭はしっかり払うのですよ」と言いながらフレイムファングの亡骸集めを手伝ってくれた。


 場所を移動し近くの川辺。

 頭を下にして川に沈め、血が流れていくのを見守っている。


「えぇと、毛皮ってどうやって剥ぎ取れば良いのかな?」

「まだダメ」


 ローラがナイフを奪い取り、魔法で水を操作して身体に付いた泥や虫を洗い落とす。

 魔物に付いた虫は魔物の魔法に耐えられる虫だ。

 そんな虫が人体に入ってきたらどうなるか。考えただけでも悍ましい。


「まずは胃と腸」


 さくさく素早い手際でフレイムファングを解体していく。

 その速さはもはや達人の域で、普段の体力がないローラからは想像も出来ない様な速さで処理されていった。


 こなれた様子でテキパキ解体する彼女はまるで一流の狩人のようだった。


「ローラすごい。よくやってたの?」

「村の皆できてた。都会の人ができなさすぎなだけ」


 都会の肉は家畜を屠殺した物がほとんどだが、農村部の肉と言えば基本的に害獣の肉だ。

 そのため村人全員が狩猟の心得を一度は教わり、よりセンスが良い者は狩人に、それ以外は解体班になるのだとか。


「……できた」

「おぉー」


 パチパチと拍手の音が鳴り、感嘆の声が上がる。


 ――どうせならあとの数匹は練習がてらに解体しよう。


「ローラ。解体の仕方、教えて欲しいな」

「? わたし、やるよ?」

「いざというときのためにね、ダメ?」


 少し考えて、結局ローラは技術を教えることにした。


「まずは、ここ」


 鎖骨辺りを指してローラが言う。

 鎖骨の間から肛門に向かって長くて細い刃物を差し込んだ。


 力を込めるとぷつりとナイフが入り、そのまま下に入れていくと、何かを切り裂く感触が指に伝わる。


「あれ? 血が出ない」

「もう結構抜けているから」


 それもそうか。

 運び込む時点でケイトがしっかり頸動脈を切断している。万が一生きていたら襲われかねないからだ。

 噴き出す血しぶきを見たかったが、仕方が無いので先に進める。


「まずはナイフで中腹からお股の付け根にかけて皮を切る」

「こう?」

「うん。あっ、尿道は傷つけないで、腹膜も破らないでね。まだお腹を押さえちゃダメ」


 当然だが、尿道を傷つけてしまうとそこから尿が漏れ出して、毛皮や肉がダメになってしまう。


 その後剥がした尿道を睾丸ごと身体の外へずらし、垂らした。

 これで万が一尿道が圧迫されても尿が付くことはない。


「顎骨からナイフを入れて胸に沿って切れ込みを入れる」

「ん……おぉっ」

「食道と気道を切って、食道は固結びして」


 思った以上に皮を切り裂くのは簡単だった。

 今までラヴが殺してきた人たちが如何にぞんざいに扱われてきたのかがよく分かる。

 適当にナイフを刺したら腸が破け、興奮状態で尿が漏れる。それでは臭いのは当たり前だ。


「次はこれ使って」

「変な形だね」


 渡されたのは刃先が丸まっているガットフック。

 腹を切ると、今まで押し込まれていた腸が腹膜を押し出す。

 そこで鋒が鋭利な刃物を使っていたら腹膜を傷つけ、内側の腸が飛び出てくる。それを防ぐためにガットフックを使うのだ。


「次はこれ」

「鉈と、トンカチ?」


 二つを使って胸骨と恥骨を切り開く。

 鉈の代わりにナイフを使うこともできるのだが、鉈や鉞であれば先端が尖っていることがないため他の肉を傷つけることがない。

 特に恥骨は近くに直腸があるため慎重にやらなければならないのだ。


「骨じゃなくて軟骨を狙うの」

「こう?」

「うん。センスある」


 褒められると嬉しくなる。

 たとえそれがかなりグロテスクな現場になっていても、ラヴにとっては理想の職場に見えた。


 骨を切断すると腸を結ぶ。これをしないと処理をするときに全部台無しになるらしい。


 横隔膜を切りながら、気道と食道を持って引きずり出す。

 そして腹膜を慎重に切って、胃腸を肋骨から切り離していく。


 すると先ほど結んだ直腸が膨張し始めた。


 ――ローラが言ってたのってそう言うことか。


 内臓を取り出す際、当然その内臓には圧力が掛かる。

 その時出口があるものなら、そこから内容物が出てきてしまうのは当たり前だ。


「お股を丸く切って」

「んっしょ……取れた」


 食道から肛門までが丸ごと摘出される。

 血にまみれた両手だが、それ以上に感動的だ。


 しかしまだ解体作業は終わっていない。

 むしろ今までは下準備。ここからが本番なのだ。


「次は皮。これでお股から足先にかけて切り込みを入れて」

「こうして……こう」


 スキナーナイフを渡されてラヴは再び皮に当てる。


 ナイフの扱いもなれてきた。

 肉に毛が付かないように注意を払って切り込みを入れ、足先まで到達すると軟骨に刃を差し込み脚を切り落とす。


「いったん待って」


 そう言って魔法で宙吊りにして、脚から頭にかけて皮を剥ぐ。

 首まで到達すると最後に脊椎を切断して首ごと落とした。


 ぼとりと台地に首が転がる姿は何とも可愛い姿である。


「ここ。肺の間あたりに魔石がある。これが一番高価」

「魔石」


 魔法を使える全ての生き物は魔石というのが体内にあるらしい。

 それは魔人や人間にもあり、種族によって多少位置の誤差はあるものの、概ね心臓の近くに備わっているのだとか。


「これで部位は取れたけど、お肉も……やる?」

「もちろん!」


 そうしてラヴは時間ギリギリになるまで魔物の解体を楽しんだ。



参考文献:

タイトル:狩猟生活2017 VOL.2

ISBN:9784860676353

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