威嚇、そして真相
月曜日。
予想はしていたが、ラヴとカティが守護天使の契りを結んだことは既に全候補生の間で話題になっていた。
「ラヴ! カティ!」
「はいはい。シュゴテンシュゴテン」
マリーがバッと両手を広げて、二人を強く抱きしめる。
そう。マリーにとってはラヴともう一人、自身の怪力に耐えうる存在が現れたのだ。
「おめでとうですわーっ!」
「え、えへへ……ありがと、いーんちょ」
まるで新婚を祝う親友のような雰囲気になっているが、別にラヴとカティは結婚したわけでも付き合っているわけでもない。
むしろ一昨昨日に振ったばかりだ。
しかし我がことのように祝ってくれるマリーは本当に優しい子だ。
こんな良い子が未だに甘い香りを発しているというのは、世の中の男子は本当に見る目がない。
尤も、見る目がある男子がいたところで今後は近付けはさせないが。
「あ、そうそう。皆ーっ! 聞いて聞いてーっ!」
カティがクラスの皆の注目を集める。
それだけじゃない。
ケルビムになったと公表されたカティと、守護天使をオファニムからケルビムへと成長させるほどの潜在能力を秘めているラヴを一目見ようと群がっていた他クラスの候補生たちも注目する。
「アタシ、カティちゃんは、ラヴっちにコクりました」
「ブフッ!?」
ケイトが吹く。
「そんで盛大にフラれました」
「ブフッ!?」
マリーが吹く。
「失恋と同時にケルビムになって、盛大に髪を切ってやろうと思ったら身体がなくなりました」
「えっ、守護天使の流れってそう言うことだったの!?」
ラヴが驚く。
失恋で髪型を変えるのは都市伝説でもなくよくあることだ。
失恋以外で髪型を変えることもよくあることなので、髪型を変えたイコール失恋というわけではないが、まあ一つの要素になることもあるだろう。
しかしカティ自身身体が無くなったことについて驚いていたので、半分くらいは冗談だろう。
フラれたら切ってやろう、くらいは考えていたかも知れないが。
それでも逆に良かったかも知れない。
カティの今の髪型はとても可愛くてラヴはとても気に入っているのだ。
「これからラヴにラブレターを、とか、告白を、とか考えてる人!」
少し溜めて、カティが言う。
「アタシが生きている間は、アルジサマには指一本触れさせないから」
ドスの利いた声で威嚇する。
魔力を乗せて放ったのか、一組メンバーならともかく、外から眺めていた外野たちが泡を吹いて倒れ出す。
「許せるのはいーんちょと、ケイティと、ローちんだけかな。そう言うことで、ヨロシクッ!」
苦笑いするケイト。
誇るように胸を張るマリー。
名前を呼ばれてようやくラヴたちがいることに気付いたローラ。
三者三様。五者五様の態度を取って、カティの新たな門出を祝福した。
◆
漆黒と純白が支配する空間に、四つの玉座が鎮座する。
空席は一つで、それ以外の三つにはそれぞれの主が座っている。
「お主ら……寄って集って女子の覗き見とは……暇なのか?」
心底呆れた様子で幼女が呟く。
幻獣の神、ライザ。
竜を初めとする獣を司る神。
その性格は奔放そのもの。
他の三神から四神の中で最も神らしいとまで言わしめたほどの自由さだった。
「まったく、その小娘がイザベラの生まれ変わりだと本当に思っているのか?」
「瓜二つではないか」
「ふん、ディーテ、お主がそれを言うか」
ライザは二人の望みを愚行と切り捨て、鼻で笑った。
容姿に一体何の意味がある。
ディーテは復活前後で大きく容姿が異なる結果となったが、誰しもがディーテを魔王と呼んでいるではないか。
容姿だけなら半神である我々なら簡単に作れてしまう。
子どもが泥人形を作る様に、神なら肉人形の千や万造作もない。
それだというのに容姿が似ていると言うだけで、ぽっと出の小娘をイザベラと間違えるなどと、脳まで人間たちに犯されたか。
「仮に、万が一、その小娘がイザベラの魂の継承者だったとして、記憶を持っていないのなら結局の所別人じゃろうて」
記憶は人格を構成する要素の一つ。
それが失われているのなら、たとえどれだけ容姿が似てようが、別人と言えるだろう。
これは女神の悪戯だ。
善意か悪意かは知らないが、きっと我らを試しているに違いない。
「…………」
宙に浮かび上がった光を覗き込む。
ちょうど今は無駄に豪華な屋敷へ入り、使用人たちに持て成されているところだった。
確かに容姿は同じだ。
それにイザベラと比べると赤子も同然だが、神の力の一端らしき何かを引き出せている。
――しかし、なんでいちいち目を使っているんだ?
本当にイザベラなのであれば、人格程度なら呼吸をするかの様に弄ぶだろうに。
どうしようもない同胞の、過去の姿を想起する。
気まぐれでまったく別の存在へと置き換えるのは当たり前。
時には中身をまるきり入れ替えたり、器の性別を変えたり、他人と他人をくっつけたりして遊んでいた。
昔一度どうしてそんなことをするのか聞いたら、ただ一言、愛しているからと言っていた。
「まあお主らがどう思うと勝手だが、我を巻き込むのはやめとくれ」
そう言って、返事も聞かずに消えるライザ。
元々彼女は旅の帰り道に偶然寄っただけ。きっとこれからまた自由気ままに旅を続けるんだろう。
いつの日か世界の果てを見てみたいと言っていた彼女だが、もう見つかったのだろうか。それともまだ探し続けているのだろうか。
彼女が魔王軍に協力する理由は、ただ人間が旅の邪魔になるからと言うだけ。
人間界で強大な魔法を使うとすぐに敵に気付かれて、追われてまともに観光できないと嘆いていた。
だから、間引きをする。
殖えすぎた家畜は廃棄しなければならない。
「……侭ならないな」
ディーテはぽつりと呟いた。
これは固執なのだろうか。
願望から生まれた妄想なのだろうか。
宙に浮かぶ光を見る。
そこに映し出された少女――ラヴ。
楽しげに笑う彼女を見て、ディーテは否応なしに、自らの現状と対比させられた。




