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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第三章 軍学校と吸血鬼・後期
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混乱、そして説明

 カティと儀式を行なった数分後、ラヴとカティは職員室を訪れていた。


「ってゆーわけで、アタシ、ラヴっちのシュゴテンになりました!」

「嘘だろ……」


 報告を受けたノーマンはことの重大さに絶句する。

 守護天使の契りは本来各階級の天使長に報告し、書類を提出してから天使の神であるヨハネスの印を押して正式に執り行われる、結婚よりも重要視される非常に神聖な儀式なのだ。


 それをカティとラヴはその場の雰囲気でやってしまったとほざく。

 もはやデキ婚も良いところ。しかも相手は熾天使長の愛娘。場合によっては部族間紛争に発展しかねない大問題だ。


「え、守護天使ってそんなに重いものだったんですか?」

「当たり前だ馬鹿者! 魂が同化するんだぞ!?」


 カティと契りを交わして以来、カティとラヴは魂で繋がれた――と言うより同じ器に二つの魂が入っている状態になったらしい。


 通常の守護天使なら魂が混ざって終わり。

 その後は繋がった感を持ちつつ、テレパスのように互いで互いに思念を送ったりすることが出来るようになったり、どの方角にいるか、どのくらい離れているかなどが分かったりするようになる。


 しかし、カティの場合はそうはいかなかった。


「どうしてカティの身体消えちゃったんだろうね」

「ネー」


 今ラヴの側にいるのは、魔力だけのカティ。いわゆる霊体だ。

 ものに触れることは出来ないが、ラヴに触れることだけは出来るようだ。逆にラヴが触れることも出来るみたいで、職員室に来る前は二人で手を繋いでるんるんとステップを踏んでいた。

 とは言え魔法の力は健在で、何だか今ならウォーベアも一発で倒せそうと、ふんす、と鼻息を荒くしていた。


「ラヴが知らないのは無理もないが、どうしてカティも知らないんだ?」

「いやだなぁノー先、シュゴテンのことなんて子どもに習わせるわけないじゃないですかー」


 殴りたい気持ちを必死に堪えて、ノーマンは説明する。


「カティ、さっきまでのお前の種族は?」

「天使のオファニムですけど?」

「そうだ」


 天使の階級には、上からセラフィム、ケルビム、オファニム、ドミニオン、デュナミス、エクスシーア、アルケー、アークエンジェル、そしてエンジェルがある。

 生まれたとき、天使はオファニムからエンジェルまでの間で生まれるとされ、才能を持って生まれる理論上の最高位がオファニムと言われている。


 では、何故オファニムが理論上最高位なのだろう。


「それは肉体を持っている天使の階級がオファニムまでだからだ」

「えっ、ぢゃあアタシ、ケルビムになったってことですか?」


 その疑問に答えたのは、ノーマンではなく、職員室の外から来た第三者だった。


「はい。少なくとも、もうカティくんはケルビム以上の存在でしょう」

「校長……!」


 ヨハネス。

 姿を見るのは後期の始業式以来だ。


 忙しい彼が何故此処にいるのか。そんなこと、聞くまでもないだろう。


「ラヴくん、カティくん。少し、お時間頂いても宜しいですか」

「はい」


 疑問形で聞いているはずなのに、そこには有無を言わせない圧力があった。


 校長に連れられて校長室に入ると、そこにはずらりと大人たちが並んでいる。

 皆、金髪金眼。中にはカティをもっと大人にして落ち着かせたような女性もいて、一目見ただけでカティの血縁者だと理解できた。


「狭いですが、かけて下さい」

「はい」


 席に座るけれども、一向に落ち着かない。

 カティに関しては友人宅に預けられた子猫のように縮こまっている。


「この方々は、皆ケルビム以上の天使たちです。たった今、集まれるだけ集まって頂きました」

「……カティと守護天使の契りを交わしてからまだ数分しか経っていないのですが」

「それだけ重大なこと、と受け取って下さい」


 カティとよく似た女性からは表情が抜け落ちていた。

 この顔をラヴはよく知っている。私情を職務に持ち込まないように、必死に感情を殺しているときの顔だ。


 その感情がポジティブなものなら良いのだが、ネガティブなものならどうされてしまうのだろう。

 ラヴは今後の行く末が不安で堪らなくなっていた。


「落ち着いて下さい。まずは、カティくん。セラフィムへの昇華、おめでとうございます」

「あ、ありが……え? せ、セラフィム?」


 最上位天使、セラフィム。

 現在そこまで上り詰めた天使は三人しかおらず、その誰もが三神の守護天使だ。


 カティ自身、自分は昇格するとしても一つ下のケルビムだと思っていた。


 唖然とするカティを余所に、ヨハネスは先へ先へと話を進める。


「ラヴくん。君は、どうしてカティくんを守護天使に迎え入れたのですか?」

「カティがそれを望んでいたし、私もそれを望んでいたからです」


 隠し事はしない。

 きっぱり答える。それが今この場での最大限の誠意だ。


「二人は今後、永久に同じ運命を歩んでいくことになります。共に生き、共に死ぬ覚悟はあるのですね?」

「はい」


 間髪入れずに応えるラヴ。

 隣のカティはもはや茹で蛸状態だ。


「……分かりました。皆、反対する者は?」


 しんと静まる校長室。

 反対者は誰もいない。少なくとも、この場にはいないと言うことで、ヨハネスはそれを以て天使の総意と決定する。


「では、事後処理とはなりますが、正式にセラフィムカティを神祖ラヴの守護天使として認めましょう」

「え? え?」


 トントン拍子に話が進む状況に、ラヴもカティも混乱を極めていた。


「尤も、この場にいる皆には三神による箝口令を敷きます。今後公的な場ではカティくんはケルビムとして、ラヴくんは種族を隠して振る舞うように」


 その言葉と共に、数多の天使たちが次々に姿を消す。

 そうして最後にカティによく似た天使が残り――


「カティちゃん。あとでじっくり、ゆっくり、ぜーんぶ、お話、聞かせてね? もちろん、パパも一緒よ?」

「ママぁ……」


 と、耳元で囁いて、消えていった。


 もはや放心状態のカティ。

 恥ずかしさと、恐怖と、嬉しさと、理解不能な出来事が淡々と続き、当事者なのにまるで蚊帳の外のように扱われ、終いには母に死刑宣告をされてしまった。


「カティくん。君にはこれから早急に取りかかって貰わなければいけない課題が山ほどあります」

「ひゃ、ひゃい!」

「休んでいる暇はありません。これから天の原へ行って、まだ肉体があった頃の感触が残っている間に、人体生成魔法を習得して貰います」


 そう言われてゲートに放り込まれるカティ。

 本来ならケルビムに昇華する可能性がある天使が契りを結ぶときは、事前に様々な準備をしてから行なうことになっている。

 その過程を全てすっ飛ばしたものだから、最悪の場合、カティは二度とラヴ以外に触れることが出来ない身体になってしまう。


 そうならないためにも、迅速に、一秒でも早く元の手順に戻さなければいけないのだ。


「ラヴくんはこちらです」


 カティを心配するラヴだったが、大変なのは守護天使側だけではない。

 主人の何たるかを座学から実践まで徹底的に教え込まなければ、生活どころではなくなってしまう。ふと感情的になって死ねと命じたら、本当にカティは死んでしまうことだって出てくるのだ。


 自業自得とはいえ、この週末二人は別々の場所で同じ悲鳴をあげることになった。



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