討伐、そして仲間
「うへー、くっさー」
「ん、おいし……」
ウォーベアを討伐した一行は、その後の処理に追われていた。
五メートルもの巨体を動かすほどの心臓だ。
ラヴとケイトが全員の目の前で首を切り落としたものだから、そこからしばらくは滝のように血液が流れ出て、唖然としていた六人を血に染めるにはそう時間はかからなかった。
そんな中、唯一その状況を楽しんでいるのがラヴだ。
強大な魔力が乗った血を全身で浴びるという贅沢。それに目の前には食べきれないほどの生肉。ここは天国かと言わんばかりに、血肉を千切っては口の中に放り投げていた。
「しかしこれではせっかくの衣装にシミが出来てしまうばかりか、何だか病気にもかかってしまいそうですわ」
「……くちゃい」
ハンカチで鼻を押さえて布越しで息をする。
それでも臭いものは臭く、意識してしまうとさらに臭いは酷くなっていった。
「ん、美味しかった。……とりあえず、一人ずつ浄化魔法かけるから、まだ覚えてない人は一列に並んで」
浄化魔法は第一部隊に入って初めて教わった魔法だ。
これがあるのとないのとでは旅の快適さがまったく異なり、一度覚えてしまうともう浄化魔法なしの旅は出来ないくらいだ。
「……服脱がないとインナーまでちゃんと綺麗にできたか分からないでしょ」
「い、いや、けれど……」
何を恥ずかしがっているのか、マリーとカティが中々服を脱ぎたがらない。
ケイトとローラは浄化魔法と聞いた側からブラとショーツになっているというのに。
風邪を引くと良くないので先に二人を綺麗にして、さっさと着替えて温かくして貰う。
晩夏の夜とは言え何時までも裸でいるわけにはいかないのだ。
「マリー。早くしないと時間が来ちゃうよ」
「……わかりましたわ」
シュルシュルと音を立てて衣服を脱ぐ。
戦闘服の上からでも分かるふくよかなな胸は、とても普通のサイズのブラでは収まりきらない。
「可愛いデザイン。それ特注? サイズ幾つ?」
「は、早く綺麗にしてくださいませ!」
羞恥のあまり顔を真っ赤にして局部を隠す。
下着を着けているのに隠していると、逆に卑猥なことをしているように感じてしまう。
マリーの浄化をさっさと終えて、最後はカティだ。
なおモニカ先生は自前の浄化魔法で既に綺麗になっている。
「今日めちゃ変なショーツだから……」
「早くしないとやってあげないよ」
「うう……オニー……」
そうして見せた下着はペチパンツ。
そこまでは良い。戦闘服のボトムがどう言う形状で来るのか直近まで分からなかったため、ショーツのラインを響かせたくないと言う理由でペチパンを選ぶのは理にかなっている。
しかし――
「いち、に、さん、し……四層……?」
「カゾエナイデ」
カティのペチパンはフリルがこれでもかと言うほどふんだんに使われており、ペチパンと言うよりカボチャパンツやドロワーズと言ったものの方が形状的に近いだろう。
「違うの……」
そうしてカティは事情を話す。
今晩、起きてすぐに戦闘服をどこにしまうかクローゼットと相談していたら、予科生の時に可愛さのあまり買ったロリータ調のドレスを発掘した。
それがついつい気になって、軽く袖を通していたところ、夢中になりすぎていつの間にか集合時間ギリギリまでになってしまっていたのだとか。
そうして着替えも最小限にして出てきた結果、どうせボトムの下なので見えないから良いだろうと思ってフリルたっぷりのペチパンを履いてきてしまったとのこと。
「うぅ……いっそコロシテ……!」
「カティ。今度一緒にロリータ系デザイナーのブティック見に行こうね」
真っ赤になって顔を隠すカティを、ラヴは優しく抱きしめた。
◆
その後も第二、第三チェックポイントに到達するが、大熊以来特に魔物の襲撃もなく順調に進む。
しかし魔物との戦闘はやはり体力と精神力を消耗させたのか、第三ポイントに到達する頃には皆随分と消耗していた。
「ようやく、森、抜けたね……」
「あと、一〇キロ……」
特にケイトとカティの消耗が激しい。
進行速度も低下しているため、第三チェックポイントに到達する頃には残り一〇分もなかった。
それでも少しだけでも休憩を挟むことで、多少はマシになるだろう。
「係さん。合流予定の班は?」
「先ほど同行軍医による行軍不能判定で救援隊が向かった。一〇一班は指定時刻になったら単独で帰還するように」
「はーい」
言われてみれば遠くの方で煙が上がっている。
試しに上空に昇ってみると、一つだけじゃなく幾つもの場所で煙が立っていた。
これは救援信号だ。
救援の判断は同行軍医――一〇一班ならモニカによって判断されるのだが、基本的に行軍不可能と思われるほどの失態か、もしくは班員からの申し出があった場合のみ煙を上げると言っていた。
つまりはそれほどの事態がこんなにも多くの場所で起こっているのだ。
「時間です」
「これより一〇一班は王都コキュートスに帰還します」
「帰還了解。ご武運を」
そうして五人はヘトヘトになりながらもチェックポイントを後にした。
しかしやはりと言うべきか、五人のペースは明らかに落ちていた。
「だ、大丈夫?」
「だい、じょーぶ……」
最初に根を上げたのは意外にもカティだった。
四人が一番危惧していたのはローラの体力が尽きることだったが、彼女は魔法で浮遊しながら進むため、体力的な疲労は殆どない。
その分魔力はゴリゴリと削られるはずだが、メルラを以て「魔法版ラヴちゃん」と言わしめるほどの魔力の持ち主だ。その程度の魔力の消費は彼女にとって誤差でしかない。
「い、いやー、ごめんねー……足、引っ張って……」
「大丈夫だよカティ。ゆっくり行こう?」
空を飛ぶローラ、竜の体力をそのまま備えているマリー、無尽蔵の体力を備えた吸血鬼のラヴ、三人には及ばないが魔法に頼らない接近戦闘を行なうケイト。
その四人と比べると、後衛支援職のカティは比較的体力が少ないと言える。
「んー、マリー、私のリュック持ってくれる?」
「リュック……? まあ、よろしくってよ」
マリーに棺桶を渡して軽く背を伸ばす。
当然マリーを荷物持ちにしただけではない。
カティの前で膝をついて背中を見せる。
「ほら、カティ。おいで」
「えっ、えーっ……良いって良いって。アタシまだ頑張れるし」
そう言って立ち上がるも膝の疲労は正直で、すぐに蹌踉けて倒れてしまう。
仕方が無いので嫌がる彼女を無理矢理背負い、逃げられないように足をしっかり固定した。
「うぅ……マヂごめん……」
「いいのいいの。仲間でしょ。こういう時は頼って良いんだよ」
「ラヴっち……」
そうしてラヴはカティを背負いつつ、そしてマリーとローラにはそれぞれ二人分の荷物を持って貰って最後の帰路を進んでいった。
王都まで残り五キロもない。
しかしそれでも彼女の足に無理をさせると考えると、しばらくの間背負うことくらい苦にならない。
「あれ、ラヴっち」
「どうしたの?」
「ウチ、前にこんな感じでぎゅってしたことあったっけ?」
どうやら魔眼の力も個人差があるようだ。
神聖属性の魔法に強い適性がある彼女だから魔眼の洗脳が解けるのも早いのだろうか。
「くんくん……何だか、めちゃ落ち着く……」
「こらこら」
ラヴの匂いを嗅ぎながら身をよらすカティ。
どうやら彼女は匂いに弱いようで、前回の失敗もきっとそのせいでスイッチが入ってしまったのだろう。
これは早く何とかしないと。
ラヴはそんなことを考えながら、王都を目指してカティを運んだ。




