後期、そして再会
後期。
士官学校の授業内容は大きく変わり、候補生たちが活気に満ち溢れる時期。
「うーん、こちらでしょうか?」
「こっちの方がかわよくない?」
「それだと隊長がなぁ……」
皆が実習に向けて期待と不安を膨らませている中、ラヴたちは戦闘服の調達に出かけていた。
以前はマリーとケイトの三人で行っていたが、今回は五人組揃って来ている。
候補生は後期になると式典用の軍服が配られる。しかし戦闘服は各自で用意し指定日までに持参するよう指示が出ていた。
理由は簡単。魔人の中には日常と戦闘時では身体が大きく変化する種族もいるためだ。
角が生えたり羽が生えたりするのならまだ対処できる。しかしこれが骨格そのものが変化するレベルにまでなると、そんなもの一々管理していられないのだ。
そこで指示を受けたとき、ラヴの頭に閃きがよぎった。
――服装自由ならオシャレできるのでは?
しかしラヴの浅慮などノーマンは計算済みだ。
戦闘服のデザインについて、暗めの単色が多く、運動に適して首から下の肌の露出が無い衣服。そして靴は原則ブーツとし、こちらも同様に暗めの単色であること、と釘を刺された。
しかしラヴはめげなかった。
そこでラヴたちは考えた。
無ければ作らせれば良いだろうと。
「この色なら……セーフかな?」
そうしてやって来たのが生地専門店。
生地を選んで基調となる色を選び、それを基に作って貰う、戦闘服のオーダーメイドだ。
乙女の憧れ、オーダーメイド。
最初のそれが戦闘服に奪われるのは口惜しいが、それでも生地選びは楽しくてつい時間を忘れて夢中になってしまった。
「おっと」
「あ、申し訳ございません」
だからだろうか。
あまりにも夢中で他の客が見えていなかった。
「こちらこそ……って、あれ、もしかして、裸足のお姉さん?」
――裸足?
ラヴは今ちゃんと靴を履いているから人違いだろう。
きっと自分に声をかけているのではない。そう思って再び生地選びに興じていると、後ろからガシッと肩を掴まれる。
「やっぱり裸足のお姉さんじゃないですか!」
「だから裸足って……」
そうして後ろを振り向くと、そこにはどこかで見たことのある人影が。
ボブカットのブロンドヘアに青い瞳。両面の耳は鋭く尖り、髪をかき分けてその姿を見せていた。
精霊種、エルフ族の特徴だ。
「私ですよ! ほら、リンドコリナの!」
リンドコリナ。懐かしい名前だ。
一年と半年前にラヴが生まれ落ちた湖、その近くにあった地方都市の名前だ。
「あぁ、変態服屋さん」
「へ、変態じゃないですが!?」
一張羅に牛乳をかけられ、服を脱がされ、挙げ句の果てには風呂を覗かれた。
それを変態と呼ばずに何というのだろう。
しかしラヴは寛大である。
何せ奴隷と間違われるほど見窄らしい姿のラヴにすてきな服を用意してくれた恩人である。しかもそれが今までで一番のお気に入りともなれば、不信感より感謝の方がギリギリ勝るというものだ。
「やっと、やーっと見つけましたよー!」
「探してたの?」
「それはもう!」
曰く、手当たり次第知っていそうな人に聞いて回るくらいには探していたらしい。
王都に来たあとも依頼を受けては貴族という貴族に聞いて回ったが、しかしそのどれもが知らないと宣う。
少女の容姿、労働を知らないきれいな肌、佇まい、言葉遣い、そして資金力から貴族の子だろうと踏んでいたのに、王都の噂に敏感な貴族も誰も少女の情報は得られなかった。
「おーい、どこまで行って……って、その人は?」
いつまで経っても姿を現さないラヴを心配してか、ケイトがラヴを探していた。
その後三人も合流し、五人に事情を説明――
しようと思ったのだが、それよりも前にカティとマリーが詰め寄ってきた。
「ラヴ、ラヴ! メリッサ様じゃない! どういうことですの!?」
「え誰?」
「一級デザイナーだよ! ラヴっち!」
そう言えば聞いたことがある。
地方都市から出てきて、店舗は持たず、コネも資金もなかったがデザイナーとしての実力だけで仕事を勝ち取り、今や数ヶ月先の予定まで埋まるようになった期待の新人。
「出世したのね」
「いやぁ、照れますねぇ」
立ち話も何なので、近くのカフェに移動する。
たっぷり砂糖の入った甘いコーヒーを口にして、ほっと一息つくとマリーとカティがじろじろとこちらを見ていた。
何としてでも二人の関係を探りたいと言わんばかりの眼光は、もはや狩人の眼とすら謙遜無い。
「えーっと、この、何でしたっけ」
「メリッサです」
「メリッサとは一年ちょっと前くらいに出会って、このドレスを作ってくれたの」
そう言ってパチンと指を鳴らし、早着替えの魔法を使う。
あまりにも日常的に使いすぎて無詠唱で発動できるまでに至ったエクスチェンジだが、実は使っているうちに短剣やナイフ程度の小さなものなら呼び出せるようになったので非常に使い勝手が良くなった。
いちいち呼び出す物体の周囲に煙が出るのが玉に瑕だが、筆記用具や教科書を持ち歩かなくて良くなったのは非常に大きなメリットだ。
「どこかで見た意匠かと思ったら……!」
「ラヴっち随分パないお洋服持ってんなーって思ってたけど、そーゆーコトね」
今度はメリッサに四人を紹介する。
燃えるような赤髪赤眼のマリー。腰まである長い髪はラヴとは違いふわふわとしたウェーブがかかっている。いつもチームを仕切ってくれるまとめ役。自身の身長が低いせいか服飾は大人びたデザインが好み。
茶髪碧眼のケイト。ショートヘアでボーイッシュな格好をしている彼女だが、狙ってやっているわけではないらしく、安めの服を選んでいたら毎回こうなるのだとか。
金髪金眼のカティ。とびきり派手な衣装が好みだが下品なものは嫌う良識あるギャル。かわいい系には目がなく休みの日にはたいてい誰かを連れてウィンドウショッピングに行っている。
紫の色が入った黒い髪、瞳はピンクに近い紫という特徴的な容姿を持つローラ。いつも殆ど変わらずローブにとんがり帽子だが、ケイト以外は気付いている。実は毎日少しずつローブの色合いが違っているのでかなりの数のローブを買い込んでいるんだろう。
そしてラヴ自身。
黒髪黒眼で腰まである長い髪は汚れ一つなく生まれたままの鮮度を保っている。可愛くても格好良くても自分に合うものならその日の気分で何でも着る。
「皆軍学校の友だちだよ」
「軍学校? ラヴさん士官様になるんです?」
「成り行きでね」
人を殺せるのなら軍でも傭兵でも何でも良かったのだが、ノーマンに「着いてこなければ殺人容疑で逮捕する」と言われてしまったのだ。
刑務所というのも興味はあるのだが、噂によるとご飯が美味しくないらしい。肉も血も食べられなければ、最悪野菜を食べさせられることもあると聞き、それは嫌だと大人しく着いていった。
「でもそんな軍学校の皆さんが何故生地屋に? 裁縫の授業でもあるんですか?」
「あぁ、それは――」
ふと、彼女の本職を思い出す。
「ねぇ、メリッサ?」
「な、なんです……?」
「清算の時間よ」
獲物を見つけたと言わんばかりににやりと笑うラヴに、メリッサは冷や汗をかかずにはいられなかった。




