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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第二章 軍学校と吸血鬼・前期
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期末、そして結果

「これより答案用紙を配ります。チャイムと共に解答用紙に記名し、解答を始めてください」

「これより問題用紙を配ります。チャイムが鳴る前に問題用紙に触れた者は不正と見なし、失格とします」

「これより注意事項の読み上げを行ないます。不明点がある者は、読み上げが終わり次第、手を高く上げ、試験監督官へ知らせてください」


 教室に緊張が走る。

 誰かの咳き込む音がやけに大きく聞こえる。


 この試験は部隊の序列を決める最初の一歩だ。


 軍学校の部隊序列は軍に入ってからも一生残る。

 低ければ下に見られ、高ければ期待される。候補生時代の評価はキャリアを上るためには切っても切り離せない。


 監督官の読み上げが終わり、永遠に続くと思われた時間もついには終わりを告げられた。


 ゴーン、ゴーンと屋上の鐘が響く。


「始め!」


 バサバサバサと、一斉に紙が捲られる。


「あっ……」


 誰かが筆を落とす。

 失敗からの不安は周囲を巻き込み、神経質になっている候補生をさらに苛つかせた。


 ――あっ、この問題、ゼミでやったところだ。……なんちゃって。


「ふふっ……」


 そんな中、一人だけ余裕たっぷりに問題を解き、思い出し笑いをしては笑いを堪えている候補生が一人。


 そう、言わずもがな、ラヴである。


 ◆


 試験から一週間。

 聞いた話では各教科には採点官の他に副採点官が二人いるらしく、採点官が採点した後に副採点官もそれぞれチェックし、他の採点官の採点に疑問がある場合は三人で話し合うことになるらしい。


 今後の人生に大きく関わる試験である。

 それだけ慎重を期しているのだから、当然採点スピードは遅くなる。故に一週間の期間を設けて、その間は候補生たちには休暇が与えられていた。


「緊張するー」

「お疲れ様。緊張は努力の裏返しだよ。偉い偉い」

「あーん、ママー」


 ケイトがラヴに抱きついて、茶化しながらも甘えてくる。


 公募組というのは予科や推薦とは違い、自分の力だけで入学した強者たちだ。

 学力には当然自信はあるものの、しかし結果発表への思い入れは誰よりも強い。


「合格発表の日を思い出すー」

「むしろそれよりも重要ですわよ」

「いーわーなーいーでー」


 ついにラヴのお腹へ顔を埋めて聞こえない聞こえないと駄々を捏ね始める。


 しかし現実は非情だ。

 教室の扉が開き、入ってきたのは封筒を持ったノーマン。

 ついに来たとクラス中が騒然とするが、彼が片手で静止するとその騒音は一瞬で鳴りをひそめる。これぞ教育の賜物だろう。


「それでは考査結果を返却する。番号順に取りに来るように」

「わたくしからですわね」


 一人一人、成績表の名前と本人を確認して手渡しする。

 本人の同意があれば別だが、こういうものは機微情報に該当するため、決して間違えてはいけないのだ。


「最後に、ラヴ」

「はい」


 席に戻って渡された成績表を見る。


「うむ」


 科目面はオール最高評価。

 文句なしの優等生だ。


 次いで期末の結果。

 一番多いのが一〇〇点、そして九八点や九六点があり、最も低い点数で九二点だった。

 これは国史で一般的な知識が無いと解けない問題が多かったために基礎教養を詰め込むことに専念したのだが、日本の歴史を学んでいたラヴは日本の知識との混乱で本当に苦労した。


 不幸中の幸いだったことがこの世界の暦は現在でもまだ三〇一年で、その頃の日本はまだ弥生時代や古墳時代だ。

 正確な年が被って無くて本当に良かったと心から思う。


 さて、一番重要な学年順位だが、成績欄には「5/263」と書かれており、少なくとも五位帯には入れたのだと安心する。

 やはり歴史が足を引っ張ったが、それでも一応は満足いく結果となった。


 ――入学者は二七〇人だったから、七人退学したのか。多いのやら少ないのやら。


「あー、また負けたー! いーんちょ強すぎ!」

「おーっほっほっほ、当然ですわーっ!」


 マリーとカティが成績を見せ合う。

 マリーは今年も一番で、二点差でカティとケイトが同列らしい。そしてその下にローラが一人、そして最後尾にラヴがいる。


「皆、よく頑張った。今年の成績だが、一組は全員が平均九〇点を超えるという快挙を成し遂げた」


 ノーマンがにやりと笑い、教室の扉を開ける。

 するとそこから入ってきたのは校長ヨハネス。


 何故ここに。それが一同の総意だった。

 忙しい身の彼がどうしてこんな所にいるのか。一体何をしに来たのか。そんな動揺がクラスを満たすが、それでも決して言葉にはしない。


 三神が一柱の前で私語をして良いのは、同格だけだ。


「皆さん、驚かれたと思いますが、どうか落ち着いて聞いてください。これからもっと驚くと思うので」


 不穏な言葉と共に、まずは歴代最高の成績をおめでとうと言葉を綴る。

 今年の候補生は一組に限らず類を見ないほど成績が良く、それは校内での職員会議で取り上げられ、軍の上層会議で取り上げられ、そして、国家戦略室で取り上げられた。


「その際に魔王陛下が君たちに興味を示されました。つきましては、この後すぐに皆さんを魔王城にお連れします」

「カヒュ――」


 息ができなくなるほどの衝撃的な情報。

 国のトップが会いに来いというのだ。それも選挙で決まったような生易しいものではない。


 建国以来、魔王国の国王として国を統治している絶対君主。


「ゲートを潜ると魔王城へと繋がります。くれぐれも失礼の無いように」


 急な謁見に髪を整え、身だしなみを正し、背筋を伸ばす。

 残念なことにメイクをし直している時間は無い。着替えている時間も無い。今ある素材の中で最良の自分を作り出さなければならない。


「ラヴさん。これ、変じゃないかなぁ」

「ラヴさん。どう? きれい?」

「ラヴさーん」

「あーもう! そこに一列に並んで!」


 仕方が無いので聞きに来たクラスメートを一列に並ばせて一人一人軽くチェックする。


 卵とは言え軍人だ。

 着崩すなんてことはしなければ、明らかに規律を乱す格好をしている人もいない。

 多少シワを伸ばして上げるとそれだけで十分だった。


「準備はできましたか。それでは行きましょう」


 一人、また一人と暗黒の扉に吸い込まれていく。


 そうして最後にラヴが入ると、そこには煌びやかな世界が広がっていた。



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