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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第二章 軍学校と吸血鬼・前期
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大勉強会、そして期末

「お願いっ! 私たちに勉強教えて!」


 大勉強会のきっかけは、クラスメートのそんな相談によるものだった。


 懐かしき前期中間テスト。

 その結果は学年総合順位にて、五人組が上位を独占するという快挙であったらしい。


 本人たちは他四人の結果にあまり興味が無いのか、自分の答え合わせだけして特に結果の共有はしなかったのだが、周りはどうやら違ったらしく、学年の順位が記載されたときには外野が実に盛り上がったものだ。


 そこで一組は更なる向上を図るために、五人組を中心とした勉強会を持ちかけた。


「講堂を?」

「はい。クラス全員で勉強会をすることになって」

「教室では問題があるのか?」

「予科生時代の友だちも連れてきたいと言う子がいまして」


 そうしてノーマンに許可を取り、結果二〇〇人以上が入る大きな講堂を貸して貰った。


 もちろん講堂いっぱいにまで人を呼ぶつもりはないが、五〇人は来るかもしれないので作業スペースは広く取っておいて損はないだろう。


 そう思っていたのだが――


「マヂか」

「そんな来る……?」


 どこから聞きつけてきたのか、休日の勉強会というのに参加したいという人は百人に上る。

 実に夜行部の三割に当たる人数が集まった。


「そりゃあ、トップファイブ。第一部隊に最も近い五人が勉強教えてくれるって言うなら、ふつー来るでしょ」


 カティの友人がそんなことを言う。


 この世界の軍学校は日本の学校とは違い、学びたい、上を目指したいと言った向上心がある者だけが集う学校だ。

 自分より優秀な者からは多くのことを学び、自分より劣っている者でも良い場所を学ぶ。少しでも自分を磨けるのならば努力は惜しまない。そんな彼らの向上心を甘く見ていた。


「まあ、いっか」

「ウチらふつーにべんきょーするだけだもんね」


 勉強を教えると言えば聞こえは良いが、五人には人にものを教える技術は無い。

 そのため大勉強会を開くと言ったときからこう言っている。


『私たちはいつも通り勉強会してるから、それ見て分からないところは質問して』


 それが三〇人から三倍の一〇〇人になっただけだ。多少質問の量が多くなるかもしれないが、一人一人に教えるよりかはずっと負担は少ないはずだ。


「それじゃあ、始めよっか」


 お菓子や飲み物は各自持参。

 五人は机をくっつけて、駄弁りながら教科書を確認する。


「中間までの確認いる?」

「んー、教科書読むだけでいーっしょ」


 期末の出題範囲は至ってシンプル。


 全てだ。

 この半年弱覚えに覚えた知識の中からたった数題、小論文という形で出される。


「えー、じゃあまず軍事学から。あ、ちょうど良いじゃん」

「ジョン、マイケル。こっちおいでー」


 二人が壇上に上がり、五人が代わる代わる教科書を読んでいるときにちょっとした小ネタやどうしてそうなったのかという背景を補足する。


 知識とは一つを覚えるより何かしらの繋がりを持った状態で覚えた方が長期記憶として覚えやすいし、精神的な負担は減るとされている。


 こと軍事学と歴史においては二人の知識は信頼できる。

 学年のツートップが太鼓判を押しているのだ。そこに疑う余地なんてあるだろうか。


「これからわ、こんな感じで助手クンを募っていきまーす!」

「ぱちぱち」


 五人は全体的に点数が高いだけであって、授業で習っていないことは知らない。

 故に知識ある者を尊敬する。技術ある者を尊敬する。


 そこに身分や種族、学歴なんて関係なかった。


「軍事学はこれくらいかな」

「次は魔法学だねー。鬼門だ」

「それなら、私に任せて」


 ローラが自信満々に胸を張る。

 彼女はクラスの誰よりも魔法に詳しく、五人の中では珍しく教えるのが上手い。


 本人は師匠の方がもっともっと凄いと謙遜するが、あの事件を引き起こした張本人と言うだけでどれだけ凄いかクラスメートたちは身をもって体験した。


「魔法学は理論だけ」


 実技テストは各授業に毎回行なわれているため期末試験では行なわない。

 試験で問うのは魔法理論と呼ばれる魔法の仕組みから既に開発されているものの解説など。


「あのー、質問です」

「あ、えっと……ぁぅ……」

「はい、君、どーぞ」


 ローラはまだ知らない人と話すのが苦手らしく、最近ようやくクラスメートと普通に会話できるようになったのだ。

 演習が多くなるとせっかくできた友だちと離ればなれになってしまう。仕方が無いこととは言え、四人は少し気の毒だと思っていた。


 人見知りするローラに変わり、カティが質問を受ける。


「魔法理論の出題範囲なんて分かるものなのですか?」

「モチ。けど詳しいことは、ひ・み・つ」


 軍学校の問題は毎年違う問題が出るものの、出題方式や出題範囲は過去の試験から推測可能である。

 しかし、実質的に先輩がいない軍学校で過去問を集めるというのは至難の業。先生に願っても答えてくれる先生は誰もいない。


 ならばどうするか。

 先輩を見つけるしかない。


 軍という巨大な組織の中から最近軍学校を卒業した先輩を見つけることは、不可能とは言わないがかなりの時間と労力を費やすことになる。


 しかし、その点ラヴは優遇されていた。


 そう、第一部隊の存在である。

 第一部隊は他の部隊とは違い、選ばれたと言うだけで一生ものの栄誉が与えられる。


 その優越感か、義務感か、第一部隊に選ばれた者には第一部隊だけが入れるサロン――特級サロンへの参加資格が与えられる。

 そして先輩後輩が上下の繋がりで結束し、サロンという集まりであっても軍に対して強い影響力を持てるようにしたのだ。


 それを知ったら後は簡単。

 そこに良く顔を出すというキースやラウラにお願いして、直近五年間の問題を聞いてきて貰った。


 さすが元第一部隊と言うべきか。記憶力には自信があるようで、二回三回顔を出せばすぐに情報は集まった。

 人脈様々である。


「まあ、これに関しては責任は負えないから」

「信じるも信じないも自己責任でお願いしますわ」


 大勉強会は二日間に亘り行なわれ、最後は強さの秘訣、暗記の秘訣などと言った質問会へと変わっていった。


 来るべき期末試験に向けて。

 彼らは悔いが残らぬよう最高のパフォーマンスを維持しつつ、自身の知識を昇華していく。



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