班決め、そして悩み
五人組を作れ。
期末試験まで残り二週間を切った頃、唐突にノーマンから指示が来た。
「ついにこの日が……」
「緊張するなー」
クラスメートたちが興奮気味に話しているのを聞いて、ラヴははてと首を傾げる。
「五人組ですわよ、五人組!」
「それが?」
「それがって……五人組って言って心当たりあるでしょ」
「五人組」
五人組と言えば豊臣政権からある隣保組織だ。
相互監視や相互扶助を目的として組み立てられた集団の単位で、その制度は戦後の町内会の基となったとも言われている。
しかし、まあ、ケイトが言いたいことはそう言うことではないだろう。
単純に五人と言えば、アレしかない。
「部隊?」
「そう、その通りですわ!」
マリーが興奮気味に語り出す。
要は第一部隊の彼らのような班決めがあると言うわけだ。
「班決めは後期の実習の成績に大きく関わりますわ。慎重に、かつ迅速に決めなければいけませんの」
部隊に必要な能力は戦闘力だけではない。
コミュニケーション力や、外交力、カリスマ性、緩衝能力などなど。対人関係のスキルは部隊に必ず一人は欲しいところだろう。
しかしそういった人物はクラス内、学校内で既に有名であることが多く、いざ部隊編成をするときには既に至る所から誘いを受けていたりする。
「そ、それでですね。ラヴ、ケイト。わたくし、お二人に最適な部隊編成を考えてきたのですが……」
そわそわと二人に提案を持ちかけるマリー。
何故かマリーは自分がチームに選ばれるか不安があるようで、今朝はどうやって自然にチームを作るか考えていたらしい。
情報提供者は彼女と同室の子だ。
まるで恋する乙女のようで見ていてつらいと言われてしまい、早く誘って上げてとお願いされた。
「じゃあ私とケイトとマリーとカティとローラね」
「えっ?」
「おーい、ローラ! カティ! おいでー」
なになにと二人も合流し、いつもの五人組が結成する。
「マリーが五人で一緒のチームになりたいってさ」
「えーっ、いーんちょ水くさいって」
「いまさら」
目指せ第一部隊と誓ったときから口に出さずとも皆そう思っていたのだ。
むしろここまで来て違う人と組むと言ったらもはや裏切りだろう。
「いーんちょ、そーゆートコあるよね」
「どういうとこですの!?」
そんなことよりさっさと夜食べに行こうと言って教室を出る。
「牛生セット」
「はーい! 牛生セットー!」
もはやお待たせしましたとも言われずに料理が出される。
最近のラヴはもっぱら席取り要員だ。
別にパシられている訳ではない。ラヴの注文が他の誰よりも早いだけだ。
ラヴは以前まで焼き肉定食の肉だけを注文していた。
しかしある時カウンターの奥から調理師が出てきて言ったのだ。肉炒めを作ろうかと。
そこでラヴは考えた。どうせならお肉を一番美味しい状態で出してもらおうと。
その結果が牛生。その名の通り牛の生肉だ。
それ以来ラヴのトレイには牛肉と牛乳、ナイフとフォークが置かれるようになった。
「んー、今日も美味しい」
「ラヴがいつも美味しそうに食べてるせいで本当に生肉が美味しいのか気になっちゃうよ」
「やめておきなさい、ケイト」
「ダメ。お腹壊す」
二人に叱られ大人しく引き下がるケイト。
どうやらこの世界にも食中毒や寄生虫といった概念は存在するらしく、肉や魚、野菜ですら生で食べないらしい。
「こんなに美味しいのに」
ナイフで一口大に肉を切り、パクリと頬張って噛み締める。
もにゅもにゅと味わいながら咀嚼をし、飲み込むと同時に出てくる幸福感。
やはり肉は生肉に限る。
今度は牛だけじゃなく他の肉も頼んでみようか。そんなことを考えていたら、ラヴ――いや、五人組に思わぬ来客がやってきた。
「すみません。少し相談があるんだけど、ここ、いいかな?」
男子が二人、ばつが悪いような顔をして相談を持ちかけてくる。
ラヴに相談を持ちかけてくる候補生たちは、たいていラヴが一人の時を狙ってやってくる。それは事情を知らない外野からするとラヴが一番取っ付きやすいと思われているからだった。
次点でカティらしいのだが、彼女は逆にキラキラし過ぎていて一部の人から避けられている。
それに四人は全員モノをはっきり言うタイプ。悩める子羊たちには少しばかり刺激が強い。
「どうぞ、座って?」
「ありがとう」
「……もしかして、ジョンとマイケルですの?」
「えっ!?」
カティとマリーが驚きのあまり声を上げる。
二人は予科生時代一緒のクラスにいたらしく、本科で違う組になってからは殆ど顔も合わせなくなったのだという。
しかし驚いたところは久しぶりに会ったからではない。明らかに以前と雰囲気が異なっていたからだ。
「いわゆる本科デビューというやつですの?」
「そ、そうなんだ。……ちょっと、二人で挑戦してね」
マリー曰く、以前の彼らは随分と暗い感じの雰囲気を出していたらしく、カティのような集団とは対になるような集団だったらしい。
「似合って、ないかな……?」
「えーっ! めっちゃイケてんぢゃん!」
カティ曰く背の高い男はジョンと言い、魔界人間界問わず歴史分野に精通しているらしく、テストの前には良く聞きに行っていたりしたらしい。同様にマイケルは軍事学全般が得意だそうで、二人はことその分野に関しては常にテストは満点だったとのこと。
そんな優秀な二人がどうして一組にいないのかと言うと、それ以外の教科がてんでダメらしく、補習を受けることもあったのだとか。
「それで、お二人は一体どのようなご用件でしょう」
「そ、そうだ。実は……」
二人には今、一緒に五人組になりたい人がいるらしい。
要は意中の人だ。その人は予科生時代から密かに慕っていて、その子に振り向いて貰うためもあって本科デビューまでしたという強い思いがあるらしい。
「それで、一度誘ってみたらお互いのこと知らないからとりあえず今度また話そうってことになって」
どこか落ち着いて話せる場所はないだろうか。
彼らの相談はそんな甘々な内容だった。
「バーなんてどうかな。お酒が入ればお互い本音で話しやすくなるでしょ」
「お、お酒なんて殆ど知らないよ……」
「ふむ……」
仕方が無い。
ついにキースから受け継いだお酒選びの極意を披露するときが来たようだ。
そうしてラヴは、彼らに一つ提案をした。




