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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第一章 転生と吸血鬼
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朝日、そして炭化

 寝ていたラヴは突如として飛び起きる。

 得体の知れない恐怖と不安に見舞われたからだ。


「えっ? なに!?」


 心臓がバクバクと脈打つ。

 周囲を見回して警戒するも、周りには何もいない。強いて言うなら小鳥が朝のさえずりをしているくらいだ。


 のどかな朝。

 都会暮らしだったラヴにとって新鮮な朝ではあるが、それとは関係なしに恐怖が身体を支配する。


 なんてことはない。何も無い。大丈夫だ。

 自分にそう言い聞かせて落ち着こうと努力するが、身体の震えは増すばかり。


 ――逃げなきゃ。


 怖い。怖い。怖い。

 これから来る「何か」が怖い。


 恐怖で固まる身体を必死に奮い起こし、これから来る「何か」から逃げようと森の中へ入る。


 そうして逃げ込んだ直後、全身の毛が逆立つような恐怖と憎悪、そして耐え難い熱風に見舞われた。


「ぎゃっ!?」


 咄嗟に大木の影に隠れる。

 そしてついに、その恐怖の正体が姿を現わした。


「あっ……あづっ……いたっ……!」


 小鳥が歌い、草木が目覚める。

 生きとし生けるもの全てが祝福する始まりの光。


 それがラヴには耐え難い苦痛だった。


「じ、じぬ……ぐるじっ……がっ……はっ……」


 呼吸ができない。

 喉を掻き毟り、血が出ることもお構いなしに何とか呼吸をしようと藻掻き続けた。

 早朝に靡くそよ風が、喜びに満ちた草木が、眠りから覚めた大地が、ラヴに生き地獄を与え続ける。


 そよ風が熱風に変わり、木々は焼き印となり、大地はさながらファラリスの雄牛だ。


「隠れ……なきゃ……逃げ……なきゃ……」


 身が燃え尽きる前に何とかしてこの地獄から逃げなくては。


 本能で分かる。

 この地獄の原因はあの太陽だ。全身から沸き立つ己が血液がそう告げている。


 太陽光が、あの忌々しい光が届かない場所へ。一刻も早く。


 その一心で、ラヴは大木の根元に穴を掘った。


 ◆


 一体何時間穴を掘っていたのだろう。

 しかしもうすぐ光の届かない穴が完成する。


 身体が灼かれない安心感。ほっと胸をなで下ろし、急いで最後の仕上げをしようとした――その矢先。


 ついに太陽光がラヴの足を直撃した。


「ギャアアァァァアアアァーー!!!」


 その瞬間、この世のものとは思えない激痛が彼女の足から全身目掛けて広がる。

 思わず振り向くと、まるで焼け落ちた炭のように美しかった脚はひび割れ、次の瞬間にはボロボロと崩れていった。


 痛い。怖い。

 その本能とは裏腹に、理性はしっかり状況を把握していた。


 この出入り口を塞がないと、次に灼かれるのは我が身だ。

 素手による掘削だったが、太陽が大木を超えて天へと上り詰めるまで――およそ六時間ほどかけて穴は大木の下へと続くにまで至った。

 既に両手の指先からは血が吹き出て爪は剥がれ、土と血にまみれているが、そんなことに構っている暇なんてない。


 太陽の痛みに比べたら、この程度痒くもなかった。


 既に炭化して使い物にならない足を駆使して天上を蹴る。

 すると上に溜めてあった土がドサドサと崩れ落ち、今まで掘ってきた小穴が完全に塞がれた。


「助かった……?」


 太陽に暖められているせいか、大地は未だチリチリと肌を焼くが、先ほどの灼熱に比べたら、大木下の洞穴はさながら極楽浄土だ。


「助……かった……」


 生死の境を掻い潜り、今まさに生を実感できることの喜び。

 何事にも代え難い生きる喜びに、ラヴはつい笑顔を零してしまう。


「あは、あはは」


 ラヴは自覚しているのだろうか。

 その声が上擦っていることを。


 ラヴは自覚しているのだろうか。

 瞳から溢れるその雫を。


「あはははは、あははははは」


 狂った少女は高らかに笑う。


 そうしていつまで笑い続けていたのだろう。


 疲れ果てた少女は、その場で深い眠りに落ちていった。



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