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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第二章 軍学校と吸血鬼・前期
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告白、そして拡散

「コクられたってマ!?」

「ね、ね。どんな風にコクられたの!?」


 翌日。

 どこから噂が広がったのか、教室に入ると待ち伏せしていたカティとケイトに突撃された。

 二人があまりにも大きな声で喋るものだから、その波紋はクラス中に広まって、本人を前にしてひそひそ話が始まった。

 何とも居心地の悪い空気である。


「あら? 皆さん、ごきげんよう。どうかしましたの?」


 そんな中、マリーとローラが到着する。


「ラヴが七組の男子にコクられたんだって」

「こっこここここくっ!?」

「モテモテ?」

「破廉恥ですわ! 破廉恥ですわ!」


 マリーはこの手の話題に耐性がなく、猥談なんてもちろんのこと、恋愛話も聞いているだけで顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 実に想像力豊かな子である。


 しかし実はこの手のものはラヴもあまり経験がなく、覚えている限りでは中学校で一回、高校で二回、しかもそのどちらもお断りを入れている。


 ラヴは自他共に認める容姿端麗頭脳明晰文武両道を往くハイスペックガールだ。

 それは前世でも今世でも変わらないのに、あまりお誘い自体は多くない。


 周りの環境もあるのだろうが、それにしたって少なくはないだろうか。


 そんなわけでこの手紙の返事をどうしたものかと考えている。


「たとえ受けたとして、そうなると五人での時間は減っちゃうね」

「え……?」

「そうだよねー。イチャイチャタイム邪魔するわけにはいかないもんね」


 尤も、ラヴはこのお誘いを受けるつもりは毛頭ない。

 そもそも彼がどういう人なのか判断する材料がないし、何なら手紙を開けるまでは彼の名前すら知らなかった。


 どうやって断れば角が立たないだろうか。そんなことで頭を悩ませていると、不意にそわそわしたマリーの姿が視界に入る。


「マリー? どうしたの?」

「へ? い、いえ。何でもありませんわよ……?」


 そんなことはない。明らかに挙動不審だ。

 俯きながら手をモジモジと絡め、ふと上を向いたらラヴと目が合い赤面する。そしてまた俯いて、何かごにょごにょ言いながら手を弄る。その繰り返し。


 カティとケイトと共に恋バナに興じていたら、いつの間にかそんな状態になっていた。

 何か言いたいことでもあるのだろう。しかし問い詰めようとしたところで、午後の授業が始まった。


「……なんだこの空気」

「ノー先ノー先! ラヴっちが七組の男子にコクられたらしいよ!」

「ちょっとカティ!?」


 そこそこ長い付き合いであるノーマンに知られると何だかやけに小っ恥ずかしい。

 しかもこの調子では午前にある第一部隊との合同訓練で確実に彼らに知られてしまう。


 しかし意外にも、ノーマンから出た言葉は至極まっとうなものだった。


「別に本気で交際を結びたいと言うのであれば止めはせん。度が過ぎると素行不良として注意しなければならなくなるが、お前なら問題ないだろう」

「えーっ、ノー先心配じゃないの!?」

「そうですわ! もしラヴが変な男に掴まったら!」

「お前ら……こいつがそんな男に靡くように見えるのか? と言うかそんな話は休憩中にやれ。授業始めるぞ」


 ぎゃあぎゃあと喚く二人を無視してノーマンは教科書を開く。

 これもある意味信頼の一つなのだろうか。そう考えると、何だか少し嬉しく思った。


 しかし、問題は放課後。

 予想通りと言うべきか、何故か第一部隊の面々はラヴが告白されたことを知っていて、開口一番にラヴに向かって問い詰める。


「ラヴぢゃーん! やべでー! およべざんになんでいがないでー!!」

「大丈夫!? 変なことされてない!? 隊長! ラヴのことお願いって言ったじゃん!!」

「オラァ! 僕らの後輩にテェ出した野郎はどこのどいつだアアン?」

「どうやら今年は身の丈を知らない子が紛れているようだね」

「当然、俺ら全員を相手して圧勝する実力はあるんだろうな?」

「お前らもかよ……」


 呆れ果てたノーマンとラヴが頭を抱える。

 と言うか何でバラバラの部署なのにこんな下らない情報が行き渡っているんだ。


 本人たちの気が立っているせいか、今日の訓練はより一層過酷さを増していた。

 しかし何故か一組の面々もいつになく凄まじいやる気を出していて、まるで一組第一部隊一丸となって打倒七組を掲げているかのようだ。


 向上心があることは良いのだが、努力の方向性、いや、努力の原因がおかしい気がする。


 キースの訓練では隊の指揮訓練を。

 普段は注意されないような些細なミスも指摘され、隊員を殺す気かと叱咤される。

 指揮はどんな状況でも決して間違えることが許されない。隊員の命を預かる覚悟が貴様らにあるのかと問われ続けた。


 ラウラの訓練では後方からの支援訓練を。

 味方に撃つべき魔法。敵に撃つべき魔法。この状況で最も効果的な魔法、道具。

 一見効果的だと思っていても、実はやってはいけないことなど無数にある。

 それらを的確に使い分けなければ、支援するどころか戦闘の邪魔になる。


 ギルベルトの訓練では敵の攻撃から身を守る訓練を。

 自分が死ねば、味方も死ぬと思え。前衛とはそう言うもので、時には敵に切り込む攻撃職であり、時に後衛を守る防衛職でもある。

 避けるでも良い。守るでも良い。相手に気付かれないでも良い。

 とにかく生き残って一人でも多くの敵を殺し、一人でも多くの仲間を助けろ。それが前衛の本懐なのだ。


 バートの訓練では後方からの支援攻撃訓練を。

 敵も味方も動く中、味方には当てずに敵だけに攻撃を当て、前衛の負担を少なくする。

 後衛の技術力が問われる場面は、乱戦中だ。

 数打ちゃ当たるような場面では、素人も玄人も大きな差はない。乱戦中、最小限の力で敵を殺し、味方には絶対に当てないと言う精度を必要とする。そんな中、味方に当たるのが怖いと言って棒立ちになる後衛に意味はない。


 そしてメルラの訓練は攻撃訓練だ。

 武器は何でも良い。剣でも槍でも拳でも。敵を殺せれば何だって良い。

 前衛に必要なのは判断力だ。敵の指揮官を見つけて叩くことはもちろんだが、乱戦中、間違って味方の背中を斬ってしまっては軍法会議にかけられる。

 中には味方の兵を装って攻撃してくる工作員もいるのだ。常に平常心を持って、慎重に見極めなければならない。


「どうした! そんなんでラヴを守れるのか!」

「はい!」

「は?」


 対して候補生も負けじと食いついていき、次お願いしますと何度も注意されては立て直す。

 時折おかしなかけ声が聞こえてくるが、もうこの際諦めよう。クラスの士気向上のダシにしてくれるのなら、もう何も言わない。


 その日、授業時間を大幅に過ぎても、運動場には七組に対する恨み辛みとラヴの名前が入ったかけ声が響いていた。



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